いい雰囲気の店は全てがいい
今回めっちゃ短いです。ごめんなさい。
「はあー。美味しかった。ごちそうさまでした」
「本当に美味しかったわね。グラタンって自分で作ったことなかったけど、今度作ってみようかしら」
食べ終わった二人は、水を飲みながら食後の話をしていた。ここがこのデートの終わりだと思うと、翔太は帰りたくないと思っていた。
「じゃあグラタン皿と……オーブンか。どっちもないよな?」
「ええ。昔、オーブンを買おうか悩んだのだけど、そこまで出番が無いからとやめたのよね」
「確かに、便利ではあるが、出番は電子レンジ程高くないもんな。でも、俺がグラタン食べたいから、今度買ってくるよ」
「それは嬉しいわ。料理のレパートリーが一気に増えると思うわよ」
オーブンを買えば、グラタンだけじゃなくて少し手間はかかるが様々な料理が作れるようになる。特に、チーズが好きな翔太は、オーブン系で焼いたとろーっとしたチーズが好きで、前々からオーブンが欲しいとは思っていた。
使う機会が無いからと購入までには至らなかったが。
「そろそろ出ましょうか?」
「そうだな。もう夜も遅いし、帰るか」
翔太がお会計をして店を出ると、春の寒さが翔太の肌を攻撃していた。
「うー。さむっ。なあ麗華」
「ええ、いいわよ」
何も言わなかったが、麗華は察したのか、自ら手を差し出してきた。その手をしっかりと握って、指と指を絡めるように繋げた。
「翔太君の手。暖かいわ」
「麗華の手も。暖かい。それじゃあ行くか」
手を繋ぎ、体を密着させながら、二人は駅まで歩いた。
さっきまでは寒くて震えそうだったが、今は体中が熱くなっていた。
「楽しかったー。麗華はどうだった?」
「私も凄く楽しかったわ。今日は一日ありがとう」
駅に着いた二人は、帰りの電車に乗りながら、身を寄せ合っていた。電車の中は暖房が効いていて寒くはなかったが、二人はそのまま、一緒に密着していたかった。
「……また、行くか?今度は別のところにさ」
「それは嬉しい提案ね。じゃあ、また行きましょうか」
「こういう目的があるのもいいけど、ただただ出かけるってのも良さそうだよな。予定が無い方が自由に行きたいところに行けるだろうし」
「いいわね。気になったお店に好きなだけ行くの。のんびりできそうだわ」
「そうだな。後は……ピクニックとかも……」
言っている途中で、翔太の意識は夢の世界へと旅立ってしまった。
突然寝てしまった翔太に驚いたが、すぐに翔太の顔を見ると、そっとしておくことにした。
◇◇◇
「翔太君……かわいい」
翔太の寝顔を見ながら、麗華は自分の肩にかかる翔太の体重と温もりを、全神経を集中させて感じていた。
「疲れているのよね。昨日から張りきって」
今日一日。翔太は麗華と一緒に楽しもうと、自分から率先して行動してきた。普段自分から行動することが少ない翔太には、それだけでかなり疲れることだった。
今日一日の疲労が、帰りの電車に乗って落ち着いたことで、一気に体にかかってきたのだろう。翔太は幸せそうな寝顔を浮かべながら、麗華の肩に頭を預けていた。
まるで、朝の電車が逆になったようだ。
「……失礼するわね」
麗華は翔太を起こさないようにそっと手を動かして、翔太の頭まで持ってくると、そーっと頭を撫でた。
「ん……麗華……」
「お、起きてるの?」
「俺……麗華…………」
一瞬。翔太が起きていて、頭を撫でたことに気づいたのかと焦ったが、どうやらただ夢を見ているだけのようだった。
安心した麗華は、その後も電車が駅に着くまで、翔太の頭を撫でたり、じーっと見たり、頬を触っていた。
◇◇◇
「翔太君。もう着いたわよ」
「あ……。悪い。寝てた。ごめんな。二人でいるのに寝るなんて」
二人の家の最寄り駅に着く数分前になると、麗華が体を揺らして翔太のことを起こした。
ゆっくりと起きた翔太は、寝ぼけ眼で周囲を確認して、状況を理解した瞬間。飛び起きて麗華の方を向いた。
まだデートは終わっていない。なのに途中で寝てしまった。その間一人になった麗華の気持ちを考えると、翔太は謝っても謝り切れない気持ちになった。
「いいのよ。翔太君が私のために頑張ってくれていたのは知っているもの。それに、これはこれで楽しかったわ」
「そ、そうか……。そう言ってくれるとありがたい」
「それじゃあ、行きましょうか。終わるのは惜しいけれどね」
翔太は思い出せないが、何だかいい夢を見たなと思いながら、電車に揺られながら目を覚ますために頬をつねった。
「明日はどうする?」
「そうね……。明日は一日ゲームでもしようかしら。翔太君は?」
「そうだな。じゃあ俺も明日は一日ゲームするかな。明日も楽しみだ」
電車に揺られること数分。電車が最寄り駅に着いた。二人はすぐに降りると、駅のホームを歩いて、外に出た。
「今日は一日楽しかった。ありがとう麗華」
「それはこっちのセリフよ。翔太君がどれだけ私を楽しませようとしてくれたのかは、よくわかったもの」
手を繋いで帰り道を歩きながら、二人は今日一日の楽しかったことをそれぞれ思い出していた。
「今度はもっと楽しませるさ。まずは明日かな」
「へえ。明日はどんなことをしてくれるのかしら?」
「そうだな……。まずはハウジングかな。今度は今日行ったレストランみたいな家にしてみようと思うんだ。一緒にやらないか?」
「それはいいわね。まずは家具を買うところから始めましょうか」
今日夕食を食べたレストランの、あの雰囲気を、翔太はゲーム内で再現したくなっていた。ゲームの中だとしても、あんな雰囲気の家に住めたら素敵だと思ったからだ。
「サブキャラで小さい家を買ってやるのもいいかもな。大きい家だと、ちょっと雰囲気が合わないかもだし」
ワイXには、MとSの二種類の家のサイズがある。基本的には大きい家を買った方が広くて便利だからと、二人ともメインキャラではMの家を持っている。だが、大きい家にあのレストランのような雰囲気は、ミスマッチかもしれないと、翔太は小さい家を新しく建てて、ハウジングすることにした。
「そういえば今日。何にも写真撮らなかったな……。撮っとけばよかった」
「どうして?」
「残しときたくて。麗華との写真とか、何をしたかーとか」
麗華とのツーショットや、食べた物の写真。後で見返せるようにと、翔太は撮るつもりでいた。だが、麗華とのデートが楽しすぎて、そんなことは忘れて楽しんでいた。
「また今度撮ればいいわよ。別に今日で最後というわけじゃないわ。それに、私の記憶には翔太君との今日一日のことが、全部綺麗に残ってるわよ」
「確かにそうかもな。記憶に残ってるんだから、それでいいかも」
翔太は記憶に残っている今日一日の麗華の顔を、絶対に忘れないようにと何度も思い出した。
◇◇◇
「それじゃ。また明日な。おやすみ」
「ええ。おやすみなさい」
家まで着くと、二人は部屋の前で別れて、それぞれの部屋に戻った。
流石に。デートをした後にゲームをするだけの元気はなかった。
「あら…………もう」
麗華は部屋に入り、服を着替えメイクを落とすと、ベッドに横になった。
そしてデート中一度も開かなかったスマホを開くと、桃花からの通知が何十件と来ていた。
『おはよー。調子どう!?』
『しょーくんとは上手くいってる?』
『たのしーい?』
こんなことが、数十分おきに送られてきていた。一番最近のだと、三分前にも。
『ABCどこまでいったー?』
と、完全に失礼なことが送られてきていた。
『ごめんなさい。外にいる間はスマホを見ていなかったの。今帰ってきたわ』
『どうだった!?』
『楽しかったわよ。凄く。このことについて何時間でも話せるくらい楽しかったわ』
『へー。いいねぇー』
しばらく桃花とメッセージをやり取りしていると、桃花から電話がかかってきた。
『もしもし』
『もしもーし!もっと聞かせてよー、今日のこと!』
『いいわよ。何から聞きたいのかしら?』
自分からかけたはずの電話で、桃花が解放されたのは数時間後。真夜中になって、もう日が昇り始めるんじゃないかという時間だった。
☆が★になるとけんじゃのせいすいでMPが回復して投稿ペースが上がります()




