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リアルで一緒にやるゲームほど面白い物はない。

「「いただきます」」


 翔太はスプーンでシチューをすくって、口に入れた。


「美味しい!具が柔らかくて食べやすいし、味も染み込んでる!」

「ありがとう。そう言ってもらえると作った甲斐があるわ」

「本当に美味しいよ。これならいくらでも食べられる」


 翔太は食べる手を止めることなく、食べ続けた。麗華は食べる手を止めて、そんな翔太のことをジーっと見つめていた。


「うふふっ。まだまだお鍋の中にあるから、たくさん食べて」

「ありがとう。麗華は食べないのか?」

「私も食べるわよ。でも、翔太君が食べているのを見ている方が楽しいわ」

「……恥ずかしいから、普通に食べてくれ」


 翔太はいつも食べる量よりもかなり多く食べた。麗華の料理がおいしすぎて、一切止まらなかった。


「ごちそうさまでした。ありがとう麗華。洗い物は俺がしておくよ」

「そんな。私がやるわよ」

「何から何までさせるわけにはいかないだろ。俺に出来ることなんてそれくらいなんだから、させてくれ」



 翔太は一人でキッチンに立って今日使ったものを洗っていた。麗華にはのんびりしておいてくれと言ったが、正直翔太は警戒していた。今翔太の部屋のリビングには麗華が一人。何もされないわけがない。さっき麗華が料理を作っているときにPCにパスワードは掛けてあるが、それでも翔太は心配だった。


「なあ麗華。このお鍋…………予想の斜め上だったな」


 そろそろだろうかと翔太がリビングの扉を開けると、翔太の予想通り麗華は行動を起こしていた。だが、それは翔太の予想の遥か斜め上を行く行動だった。


「ち、ちがうのよ!ち、ちょっと体が冷えただけで……」

「嫌。それは流石に無理してるんじゃないか。暑そうだぞ」


 リビングの扉を開けた翔太が見た光景は、翔太の使っているベッドの中で、布団に包まってはあはあと頬を赤らめている。傍から見れば完全に不審者だ。いや、傍から見なくても完全に不審者だ。


「ご、ごめんなさい。私も抑えようとはしたのよ?でも……どうしても入りたくて……」

「……まあ、俺だって逆の立場だったら少なからずそういう欲求に襲われるだろうけど、抑えるだろ。で……いつまで布団に包まってるんだ」


 麗華は謝りながらも、包まっている姿勢からは動こうとしなかった。相変わらず頬は赤いし、汗もかいている。どうして布団に包まり続けているのか翔太には不思議だった。


「……仕方ないわね。大人しくゲームでもして待つわ」


 不満そうな表情を浮かべながら、麗華は包まっていた布団を綺麗に戻して、テーブルの前にあるソファーに座った。


「いや、それが普通だから。頼むから普通に待っててくれ」


 翔太はキッチンに戻ると、急いで洗い物を終わらせて、リビングに戻った。今度はしっかりとゲームをして待っていた。


「待たせたな。麗華はこの後どうするんだ?」

「私はもう少しゲームをしたらお風呂に入って寝るわ。あ、お風呂は自分の部屋で入るわよ。どうしてもって言うなら……」

「いや。流石にそこまでされたら俺も今後の付き合いを考えるかもしれない」


 流石に翔太の部屋で麗華がお風呂に入ると言い出したら、翔太は麗華の正気を疑い始めるだろう。


「翔太君。やっぱりさっきのこと、怒っているのかしら?」

「いやいや。全く怒ってない。怒りよりも恐怖の方が先に来たからな」

「安心して。もうやらないわよ」


 麗華はまっすぐな瞳で翔太のことを見つめている。だが、どうしてか今の翔太にはその瞳が信用できなかった。


「本当に?」

「ええ」

「もし俺が家を空けてたら?」

「……こっそり」

「ファブリーズ買っとこ」


 翔太は椅子に座ってワイXを起動すると、遅くまで麗華とハウジングを楽しんだ。


「じゃあ、そろそろ終わりにするか?明日も学校あるし」


 二人はワイXを落として、今は二人掛けの小さなソファーに座っておしゃべりをしていた。


「そうね。あ、そういえば」

「ん。どうした?」

「明日からお弁当はどうすればいいのかしら?ここで作ろうにも……」

「ああ。なら鍵渡しとくよ。どうせ隣だし」


 渡したら絶対に何かされるだろうが、その時はその時だと、割り切ることにした。


「いいのかしら?」

「ああ。ただし、何か変なことしたら……」

「しないわよ。折角貰った合鍵だもの。大切にするわ」


 予備として作っておいた合鍵を麗華に渡すと、麗華はそれを大切そうに持って部屋から出て行った。

 麗華が帰ってすぐに、翔太は疲れから来る眠気に必死に耐えながら、シャワーを浴びてすぐにベッドにダイブした。


「……女の子っぽい匂いが……」


 布団に包まっていた麗華の残り香がかなり強くあり、鼻を刺激してきた。

 翔太は悶々とした気持ちを抑えながら一夜を過ごした。



 カチャカチャ。ジュー。


「な、なんだっ!?」


 朝、翔太は耳に聞こえた音で目が覚めた。一人暮らしをしてから朝早くに自分の部屋からそんな音が聞こえてくるのは初めてで、思わず飛び起きて音のする方へ向かった。


「な、なんだ……麗華か。びっくりした」

「あら、おはよう翔太君。キッチン借りてるわよ」


 リビングの扉を開けると、そこにはキッチンで、制服の上にエプロン姿の麗華が立って、目玉焼きとウインナーを焼いていた。


「も、もしかして……朝飯作ってるのか?」

「ええ。お弁当を作って、時間が余ったから余っていた卵で作ったわ。そう、丁度いいタイミングで起きてきたわね。じゃあ、食べましょうか」


 見ると、キッチンの上には二人分の弁当箱が重ねてあった。しっかりと蓋をしてあるところを見ると、もう全部作り終わって詰めてあるんだろう。


「ああ。じゃあ俺はちょっと顔を洗ってくる。寝起きだからな」


 一人で洗面所に行って顔を洗ってからリビングに戻ってくると、既に朝食のご飯、味噌汁、ソーセージと目玉焼きが並んでいた。THE朝食という感じのラインナップだ。

 だが、そんな一見普通の朝食でも、麗華が作った物は、翔太には宝石のように輝いて見えていた。


「ありがとう。いただきます」

「いただきます」


 麗華が作った味噌汁は、毎日飲みたいほどに美味しかった。だが、こんなしっかりとした味噌汁を朝に作りながら、弁当も作っている麗華のことが心配にもなった。


「これ、朝作ってるのか?」

「ええ。どうかしら?」

「すっげえ美味い。でも、大丈夫か?朝からこんなの作って、寝不足にならないか?」


 朝、翔太が起きる時間には朝食と弁当が出来ているということは、相当早起きして作り始めているのだろう。自分はのんびり寝ているのにと、翔太には申し訳ない気持ちが湧いてきた。


「大丈夫よ。そんなに時間がかかるわけでもないし、早起きの習慣は身についているもの」

「いやいや。いっつも真夜中まで一緒にゲームしてただろ。それで早起きってのは……え?」

「ショートスリーパーというやつなのかしらね?でも、流石に真夜中までゲームしてる日はこれくらいの時間に起きてるわよ」

「そうか。ならよかった……のか?」


 ゆっくりと朝食を食べた二人は、昨日と同じように恋人繋ぎをしながら学校まで向かった。


「なあ。今週の土日、どっちか暇か?」

「どちらも予定はないわ。もしあっても開けるわ」


 二人で電車の席に座っていると、翔太が麗華の方を見て、昨日雫から言われたことを実行していた。


「よかったらさ、どっか行かないか?二人で」

「それは嬉しいわ。どこへ行こうかしら?」

「うーん……。オフ会の時に水族館には行ったから、今度は動物園か?」


 ぱっと頭に浮かんだのはデートの代表格。動物園だ。だが、翔太は動物園が少し苦手だった。可愛い動物は沢山いてそれだけで行く価値はあると思っているが、大型動物のコーナーに行った時の、あの独特の匂いがどうしても無理だからだ。

 そのせいで、翔太は小学校の遠足で吐きかけたことがあり、それが現在ではトラウマのようになっている。


「動物園……。翔太君が行きたいならいいけれど、申し訳ないけれど私、ゾウとかは見れないわよ。どうしてもあそこら辺の匂いが無理なの」

「じゃあ別のところにするか。どこがいいかな……」

「私、一箇所行きたいところがあるの」


 翔太がどこがいいか分からずに悩んでいると、麗華が自分から提案してきた。


「映画なんてどうかしら?丁度今、有名な監督の新作アニメがやってるのよ」

「あー。映画か。いいなそれ、見てる間に話ができないのは痛いが、その分見た後の話が楽しみだし、そうするか」


 二人で行く映画館の場所まで決めると、翔太は最後に見に行く予定の映画の名前を聞いて、この話題は終わりにした。

 その映画は誰でも知っているレベルの監督の作品で、以前作った作品が社会現象にまでなり、当時小学生だった翔太も親と見に行き、小学生ながら号泣した思い出がある。


「じゃあ、土曜日を楽しみにしててくれ。もう予約取っといてもいいか?」

「よろしくお願いするわ」


 ◇◇◇


「翔太君。この後ゲームするのかしら?」

「いや。俺はちょっと用事があるんだ。麗華はどうする?」


 夕食後。翔太は椅子に座って、映像作品のサブスクリプションサイトにアクセスしていた。公開から数年経っている、土曜日に見に行く作品の監督の過去作品を見ようと、サイトを開くと、数年の作品だからか、全てサブスクの範囲内で見ることができた。


「それ、予習かしら?」

「ああ。繋がりはないけど、その監督の作風とかの知識は入れておこうと思ってな」

「そう。じゃあ私は部屋に戻るわね。ここで一緒に見たら、土曜日の意味がなくなるでしょう?」

「それもそうだな。じゃあ、また明日」


 麗華が部屋から出るのを確認すると、翔太はヘッドフォンをして一番有名な、翔太が小学生の時に見たことのある作品の再生ボタンを押した。


 小学生の時だから泣いたんだと甘く見ていたが、あまりもの作品の良さに、クライマックスではぼたぼたと落ちるように涙を流していた。


「土曜日が楽しみだ……」


 寝る前のベッドの中で、翔太は土曜日の映画の予約をした。丁度見たかった時間に空いていたのがペアシートだけだったから、内心喜びながらペアシートを予約した。


「君の〇は」いいですよね。当時私は小学生だったんですが、親にバレないように号泣してました。


☆が★になるとランドインパクトで眠気を即死させて投稿ペースが上がります()

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