話してみないと分からないこともある
休日なので皆様の応援の感謝として、二本投稿します!ちなみに日曜日は多分間に合わないので一話になります。
「ごちそうさまでした」
「ありがとう。全部食べてくれて」
「めっちゃ美味しかったから止まらなかったよ。実は昼から何も食べてなかったんだ」
「そう言ってくれると作った甲斐があるわ。……じゃあ、話してもらおうかしら?」
やっぱりか。と翔太は思った。だが、覚悟はしている。流石に麗華がどう思っているかの部分は伏せるが、それ以外は話すつもりだ。
「帰ってきたときのことか?」
「ええ。明らかに様子がおかしかったわ」
「話すと長くなるんだが……」
翔太はこれまであったことを全部話した。
朝四人組の男たちに絡まれて、それを副会長が撃退したこと。放課後生徒会室で生徒会長と会って、自分たちのことを全て。ネット内のことまで知られていること。そして、翔太が麗華のことが好きなのかと聞かれたことを話した。
「その好きっていうのは……。ただの好きとは違う意味なのよね?」
「レインのことじゃない。麗華単体でのことだ」
「そう。翔太君は私だけでも好き?」
回答に困る質問が返って来て、翔太は必死に答えを探した。
勢いに任せて自分のことだけは言ったが、元々言う気じゃなかったから、それに対する答えを用意していなかった。
「俺は正直……まだ分からない。出会ってまだ数日だからな。それはこれから二人で一緒にいる中で、探していこうと思う」
答えを探すことをやめ、翔太は本心だけで言葉を繋いだ。ここで嘘交じりのことを言うのが、一番麗華に対して失礼だと思ったからだ。
「そう。わかったわ」
「幻滅したか?私のことが好きじゃないなんてって」
「いいえ。逆よ。翔太君が誠実で、私のことを他の誰よりも思ってくれていることは伝わったわ」
「ならよかった」
好きかどうかは分からないし、その答えを出すのは難しいだろう。どうしてもレインという存在が大きすぎて、麗華だけを見るということが難しい。だが、それをしないで好きだと言うのは、何よりも麗華に失礼だと思い、翔太は本心を伝えた。
「そろそろ時間がヤバいな。俺は一回戻ってシャワー浴びて着替えてくるよ」
麗華の部屋に置かれている時計を確認すると、いつも翔太が朝飯を食べているくらいの時間になっていた。
「あ……」
「どうした?」
「お弁当。作るの忘れていたわ」
「別にいいだろ。たまには行きに買って行こうぜ」
「……それもそうね」
翔太は一度部屋に戻ると、シャワーを浴びて荷物を用意して、着替えをしてから麗華の部屋に戻った。
部屋に入ると、麗華も制服姿になっており、泣腫らしたような顔も、メイクで隠していた。完全に隠れてはいなかったが。
「それじゃあ行くか」
「ええ。行きましょう」
二人で部屋から出ると、駅まで向かった。
「なあ」
「なにかしら?」
「手、繋いでもいいか?」
駅まで向かって歩く中、手をつなぐ提案をしたのは、まさかの翔太だった。
「い、いいのかしら?」
「ああ。俺は麗華と繋ぎたいんだ。ダメか?」
「だ、ダメじゃないわ!ど、どうぞ……」
恥ずかしそうに俯いて、麗華は右手を差し出した。自分からは腕を組むのに、人から誘われるとただ手を出すだけだ。そういうところも可愛いから翔太的には嬉しいが。
翔太は出された手の上に手を重ねると、麗華の指一本一本に、自分の指を絡ませた。恋人繋ぎだ。
「なっ!?……し、翔太君?」
「嫌だったか?」
「嫌じゃないけど……。何だか今日の翔太君はおかしいわ」
「俺は麗華だけを見ればまだ分からないが、レインを含めれば世界で一番愛してるんだ。これぐらいするのは普通だろ?」
と言っているが、翔太は今すぐ叫びたいほどに恥ずかしかった。それを必死に隠すために強がっているだけだ。
「このまま駅まで行っていいかしら?」
「ああ。むしろ俺は、学校までこのままで行くつもりだったんだが」
「翔太君。今日は本当に凄いわね」
「今の俺は周りの目なんて気にしないぞ。流石に腕組みは俺の精神力が削られるから無理だけどな」
翔太は麗華との恋人繋ぎを離さずに駅まで歩いた。すれ違う人たちは皆様々な視線を向けてきたが、自然と翔太にはそこまで気にならなかった。
「今日の帰り。寄りたいところがあるんだけど、いいか?」
「別にいいけれど、どこへ行くのかしら?」
「学校の近くにあるショッピングモールだ」
「食器、買わないといけないものね。昨日は出来なかったから、今日からは翔太君の部屋で料理できるかしら?」
「それもあるが……。行きたいんだ。麗華と一緒に」
直接翔太から言われた麗華は、言われて数秒後に意味を理解し、顔を赤くした。
「ほ、本当に今日の翔太君はどうしたのかしら?まるで別人よ」
「別に。吹っ切れただけだ」
「吹っ切れた?」
「ああ。これまでは、レインのことが好きっていうことを、どこかでセーブしている自分がいたんだ。でも、朝の一件で、その自分は消えて行った。後に残ったのは、自分でも抑えきれない感情だけだ」
「その感情は、レインに対するものかしら?」
「……そうだな。これはレインに対する感情だ。でも、レインだって麗華の一部だ。朝はレインじゃない麗華のことが好きか分からないと言ったが、少なくとも、レインも含めた麗華は、大好きだ」
麗華のことが好きかは分からない。だが、レインのことが好き。今はそれだけでいいんじゃないかと、翔太は思い、自分で抑えていた感情を、解放することにした。
「嬉しいわ。じゃあ、頑張らないといけないわね」
「何をだ?」
「これで翔太君がレインじゃない私を好きになってくれたら、それってリアルとゲームで、二倍好きってことになるのよね?」
よく分からない考え方だが、否定しようとは思えない考え方だった。
翔太は自分の心の中に、一枚の扉が現れたような気がした。
その扉は鍵で固く閉ざされており、その扉を開ける鍵が何かは分からない。だが、その扉の先にあるものが、好きだという感情であることは、翔太の直感で分かった。
「なんだその考え方。でも、そうだな……。いつか、麗華のことを心から大大好きだって言えるようになるよ」
「それは頑張らないといけなさそうね」
「ああ。でもそれだけじゃないぜ」
翔太は朝言わなかったことも、今なら言えるような気がしていた。今なら、麗華が受け止めてくれるような。そんな気がしたからだ。
「何かしら?」
「麗華……レインはショーのこと、好きか?」
「……勿論。大好きよ」
麗華は曇りの一切ない瞳で、堂々と答えた。これが本心なのは、翔太はすぐに分かった。
「じゃあ……麗華は俺のこと、好きか?」
「それは……ごめんなさい。分からないわ」
「正直に言ってくれてありがとう。分からないんなら、分かるようにするしかないよな」
「それって……」
「俺はいつか麗華のことを好きだと言う。その時に麗華が俺のことをどう思ってるのか分からなかったら、悲しいだろ?」
翔太は自分だけが好きで、その思いを伝えても、ハッピーエンドにはならないだろうと思った。
だから、思いを伝える時は、お互いがお互いのことを本当の意味で好きになった時。そうすることにした。
その意思表示が、学校に行く途中の電車の中というのは、少し格好がつかないかもしれないが。
「分かったわ。でも難しいわよ。私に好きと言わせるのは」
「俺を誰だと思ってるんだ?レインから告白された男だぞ。麗華にも好きだと言わせて見せるさ」
「ふふっ。楽しみね」
話が丁度終わったところで、電車が学校の最寄り駅に着いた。
二人は恋人繋ぎをして、学校へ向かった。
「あそこのコンビニ寄って行かないか?」
「そうね。翔太君にお弁当を作れなかったのは残念だけど、こうやって一緒に買うのは楽しみだわ」
二人で学校に行く途中にあるコンビニに入ると、一度離れて、お互いに買いたいものを探すことにした。
翔太はいつも買っているおにぎりと飲み物をカゴに入れて、後はパンでも買おうかと考えていると、突然カゴに重量が加わった。
「しっかりと野菜も食べないとダメよ」
麗華が翔太のカゴに、サラダを入れた。
「うーん……。あんまりお昼にサラダ食べたくないな……」
「ダメよ。しっかりと栄養のあるもの食べないと」
「そういう麗華はなんか、女子っぽいな」
麗華のカゴには、翔太のカゴに入れたものと同じサラダと、サンドイッチが入っていた。男の翔太には少々物足りなく感じるような、OLが食べていそうなセットだ。
「私お昼はあまり食べないから、これくらいで十分なの」
「そうか。俺はもうお会計しに行くけど、麗華は?」
「私も行くわ」
翔太はレジの近くにある冷凍庫からアイスコーヒーを二つカゴに入れた。
「はい。麗華」
「これ……いいのかしら?」
「ああ」
翔太は買ったアイスコーヒーを一つ麗華に渡して、自分のをコーヒーマシンに入れて操作した。
二人はアイスコーヒーを飲みながら、学校まで向かった。
相変わらず学校に近づいて行くと、周りを歩く生徒からの視線が強くなっていった。
だが、誰もが翔太たちに近づこうとはせず、それどころか、避けているようにも感じた。
「どうやら本当に生徒会長が手を回してるみたいだな」
「ええ。あからさま過ぎるほどに避けられてるわね」
二人は一緒に廊下を歩いているが、周りを歩く生徒は、明らかに距離を開けて、すれ違う生徒もできる限り反対側の壁に寄るように避けていた。
生徒会長がやったことの結果なのだろうが、これでは逆に腫れ物のようで、居心地が悪い。
「おっはよー!二人とも」
二人が教室に入ると、先に来ていた泉桃花が寄ってきた。
「おはよう桃花。朝から元気ね」
「おはよう。えーっと……。そういえばなんて呼べばいいんだ?」
「今更!?」
「ああ。泉さんとかか?」
「桃花でいいよ!泉さんってなんかよそよそしいじゃん!」
「分かった。おはよう桃花……いだいいだいっ!」
桃花と、名前で呼んだ瞬間。翔太の手を麗華がグッと力を入れて握った。手をつなぐなんて可愛い行為じゃなく、手が小さくなるんじゃないかという程の力を込めた握りだ。
「別に名前で呼ぶことはいいけれど、とりあえず私が気に入らないからこうするわ」
「れいちゃーん嫉妬してるのー?」
「それ以上喋ると、次は桃花の番になるわよ」
「ご、ごめんっ!わ、私そんなこと思ってないから!」
朝から桃花は騒がしかったが、嫌な気分はしなかった。
時間が無くて自分で誤字の確認ができず、報告してくれている方には本当に感謝しています。いつもありがとうございます。
今回の話で、この物語のプロローグ的なところまで来れました。ここから先は、日常を過ごしながら、お互いの好きを見つけていくような、そんな物語を書いていきます。
☆が★になるとベホマラーでHPを回復して無限に投稿します(?)




