【探索生活6日目】
「マキョーさん、棚を作りませんか?」
朝起きるとジェニファーから提案された。王都から持ってきた荷物を整理していたが、棚が少ないので、床に置きっぱなしになってしまうらしい。そこで、シルビアが骨を削ったりすると、汚れてしまう。
「確かに棚がないのは困るな。ノコギリはあったか?」
「あるヨ」
船造り用の工具はある。P・Jが使っていた家具は古く、傷みも激しい。
「新しく作ろう。必要だもんな」
朝飯を食べて、すぐに作業に取り掛かる。木を切って枝を払い、適当な長さに輪切りにしていく。それを縦にノコギリで切って板作り。
力が強くなったとは言え、ノコギリを引くと額に玉の汗が浮かぶ。サーベルで切っても切り口が曲がってしまった。そう簡単にはいかない。
ヤシの樹液で形を組んで、釘を打つ。釘や金槌も訓練施設から買ったものだ。
「人間らしい生活が始まったな」
粘土をこねているヘリーにも丸太を用意してあげた。
作業机も新しく頑丈なものを作り、洞窟の中に運び込む。魔石灯にも新しい魔石を入れて、部屋を明るくすれば、昼夜いつでも作業が可能になった。そもそもヘリーとシルビアは夜型なので、魔石灯はもっとあったほうがいいのかも。
「訓練施設で頼むか」
午前中いっぱい家具作り。
「洞窟が手狭になってきたよな?」
今更だけど女性の部屋は4人で使っているのだから、大変だろう。
「家を作るカ? 巨大魔獣が来たラ?」
「それなんだよなぁ。作ったところで、3ヶ月に一度は壊れるんだよなぁ」
「移動式にするのではダメなのか?」
ヘリーが聞いてきた。
「テントならいけるか。ただ、魔物の襲撃はどうする?」
「へ、へ、ヘイズタートルの甲羅」
シルビアが提案してきた。
「ああっ! そうしようか。ヘイズタートルの甲羅なら雨もしのげるし、住めなくはないよな」
「か、か、川辺にあったのは?」
南の川辺に山のように大きなヘイズタートルの甲羅があった。
「あれは運べそうにはないけど、中の泥を掻き出せば、住めそうだよな。でも、どうせ、砂漠とかにも行かないといけなくなるだろ? 持ち運びができるような野宿セットは必要だよなぁ」
「マキョーなら、別になにもなくても野宿できるヨ」
「無茶言うなよ。毎回穴を掘って、野宿とか嫌だよ」
「でも、それが一番早いかもしれんぞ。洞窟を作ってしまうのと、布でテントを立てるのではどちらが早いかやってみればいい」
ヘリーまで、そんなことを言う。
「は、は、はい。どうぞ」
シルビアは魔物の骨で作ったツルハシを渡してきた。
「仕方ない」
そう言って、俺が崖に向かって骨のツルハシを振り上げた。
「ちょっと待っタ! マキョー、魔力使っテ」
「魔力を使うってなんだよ。別に崖には穴が開く力なんてないから、俺の魔法は使えないぞ?」
「そうじゃなくて、骨のツルハシにも魔力込めてみテ。魔物の骨は魔力の伝導率がいいかもしれナイ」
それはそうかもしれない。試しにツルハシに魔力を込めてみた。
「あんまり見た目は変わらないけど」
文句を言いながらも崖に振り下ろす。
ボゴッ!
先程作った大きな棚ほどの穴が空き、砕かれた石が礫のように飛んできた。
「いや、たまたまだよ。ちょっと崩れやすかっただけさ」
もう一度骨のツルハシを持って、振り下ろしてみると、同じくらいの穴が空いて、石礫が飛んできた。
「マキョーは人間なのカ?」
「それは……怪しくなってきたな」
「マキョーさんには洞窟を広げてもらいましょう。それから、拠点づくりもやっていったほうがいいでしょうね」
「マ、マ、マキョーの武器はツルハシなんだ」
結果的に、俺はそれぞれの部屋を洞窟の中に掘ることになった。
自分の部屋ができるとわかれば、皆掃除を手伝ってくれる。棚を置く倉庫も増築。自分の部屋も少し広くした。
「マキョーはダンジョンを作れるのではないか?」
ヘリーはそう言いながら、細かい石を掃いていた。
「ダンジョンなんか作ってどうするんだ?」
「冒険者を呼び込むんですよ。例え魔境でもダンジョンが見つかったとしたら、冒険者たちがやってきますよ!」
ジェニファーも興奮している。
「ダンジョンの宝は自分たちで用意しないといけないんだぞ? ダンジョンの運営なんて大変だよ」
「ダンジョンはダンジョンコアを見つけたほうが楽だヨ」
チェルはダンジョンについて詳しいようだ。そういえば、『巨大魔獣にダンジョンを盗まれた』って北の枯井戸の中で見たような。
「ダンジョンコアっていうものが実際にあるのか?」
ヘリーがチェルに聞いていた。
「ないノ?」
「魔族はダンジョンコアを確認したのか?」
「ア~……え? いや、だって、代々魔王が継承してるヨ」
「前にダンジョンが巨大魔獣に盗まれたって話あっただろ? あれって、ダンジョンコアを巨大魔獣が食べたってことなのか?」
「え!? あー、そういうコト? いや、無理ジャネ?」
「ダンジョンコアとはどういうものなのだ?」
ヘリーがチェルに聞いた。
「丸くて浮かんでて光ってル。でも触れられナイ。だから、食べたりできないヨ。たぶん」
「おぉ? なんだ、そりゃ? よくわからねぇな」
「先代の魔王が使ってるのを見たことあるダケ。 よくは知らないよ」
魔族の国の魔王はダンジョンマスターだったのか。
「ふ~ん。ま、いいか。でも、巨大魔獣の中にダンジョンがあるかもしれないって話は、皆、覚えておいてくれ」
「ちょっと待て。マキョーが持っている雷紋のペンダントはダンジョンの鍵で、王家の紋章なのだろう? そして遺跡の入り口にも描かれている? 歴史的にも遺跡がダンジョンになることはある」
ヘリーが情報をまとめ始めた。
「あー、やっぱり? もしかして遺跡を発掘したければ、巨大魔獣に乗り込まないといけないかな?」
あんまり考えないようにしていたが、可能性が出てきた。
「そうかもしれないが、その遺跡がミッドガードというわけではないだろう?」
「確かに、エスティニアの王都の近くにダンジョンはありますけど、王都自体がダンジョンではないですからね」
ジェニファーが補足した。
「で、で、でも、手がかりのためにその巨大魔獣を捕らえないといけないんじゃ……」
シルビアが俺を見た。
「そんな期待した目で見られても。シルビアは見たことないかもしれないけど、あんな災害に近づくなんて自殺行為だぞ」
「だから、時空魔法が必要なんじゃないカ?」
チェルが聞いてきた。
「ああ、P・Jが書いていた通りか。え~!」
俺はその日、心が折れかけた。
「ま、王族だって見つけられなかったんだから、ダメでもともと! 挑戦することに意味がある……と信じよう」
俺の言葉には誰も反応せず、女性陣は自分の部屋に荷物を移動させ始めた。




