65 心強い仲間
琉斗の申し出に、トゥルムは困惑の表情を浮かべた。
「光栄の極みです。無論、私の命はもとより龍皇さまのもの。いかように使い捨てていただいても構いません。ですが、仲間とは?」
「言葉通りの意味さ。俺はぜひお前に俺たちの仲間になってほしいんだ」
「とんでもないことです。私ごときが龍皇さまと同列など……」
トゥルムの言葉に、琉斗はゆっくりと頭を横に振った。
「君がそういう態度なら、一緒に連れていくわけにはいかないな」
「な!?」
「俺が求めているのは共に戦ってくれる仲間だ。従順な下僕なんかじゃない」
「で、ですがそれは……」
「ここにいるレラも、俺の仲間として戦ってくれている。俺はそういう信頼できる仲間がほしいんだ。もし君がそういう関係を望まないのであれば、俺はこの後もレラと二人で旅を続ける」
「た、確かに龍皇さまのお力であれば、私の力など必要ないのは自明ではありますが……」
なおも戸惑うトゥルムに、レラが声をかける。
「リュートが今求めているのは、心を開ける存在なのですよ。私など、力で言えばあなたと比べるべくもないほど非力な存在ですが、リュートはそれでもこうして共に戦ってくれています。一方で、彼は私に誰にも言えなかった悩みを打ち明けてくれました。あなたも、きっとそういう形で彼の支えになることができるはずです」
「そういうことだ。トゥルム、どうか仲間として俺たちと一緒に戦ってくれないか」
琉斗がじっとトゥルムの目を見つめながら頼む。
しばらく見つめ合った後、トゥルムはうなずいた。
「わかりました。それでは仲間として、どうか私も共に戦わせてください」
「もちろんだ、ありがとう」
それから、トゥルムは少しためらった後に差し出された手を握る。
「これで俺たちは仲間だ。よろしくな、トゥルム」
「はい、よろしくお願いいたします、龍皇さま」
「それそれ、仲間になるならその呼び方はやめてくれ。普通に琉斗でいい。レラもそう呼んでる」
「は、で、ですが……」
「名前で呼ぶんだ」
「は、はい、それでは、リュートさま……」
「さまはいらないんだけど……」
「呼び捨てだけは、どうか堪忍してください……」
頭を下げるトゥルムに、琉斗はしょうがないと折れる。龍皇は龍族にとって王、いや、神みたいな存在だ。急に呼び捨てにと言われてもハードルが高過ぎるのだろう。
何はともあれ、心強い仲間も加わった。これで魔王軍との戦いもずっと楽になるだろう。
「それじゃ、そろそろ出発するとしようか」
琉斗が指笛を吹く。
すると、戦場から離れていた馬が琉斗たちのところへと駆け寄ってきた。
「トゥルムは俺の後ろに乗るか?」
「あの、少しお聞きしてもよろしいでしょうか」
馬に乗ろうとする琉斗とレラに、トゥルムは首をかしげながら尋ねた。
「もしかして、その馬で魔王の下まで向かおうとお考えなのですか?」
「ああ、そのつもりだけど?」
琉斗が答えると、トゥルムは少し申し訳なさそうな顔で言った。
「あの、その馬ですと、魔王の居城までは最低でも一週間ほどかかるのではないでしょうか。馬の方も、すでにかなり疲れているようですし」
「そうなんだよ。ここまで少し無理をさせちゃったからな。まあ、それでも十日あれば着くとは思うんだけど」
「それでしたら、よければ私に乗っていきませんか?」
「トゥルムに乗る?」
琉斗が不思議そうにつぶやくと、頭を横に振った。
「そんな、君に乗るって、そんなことできないよ。女の子の上に乗るだなんて……」
「あ、あの、何か誤解されておりませんか?」
「え?」
「私が龍の姿に戻り、お二人を背中にお乗せします。そうすれば、三日とかからず魔王の下までたどり着けるでしょう」
「ああ、そういうことか」
納得した琉斗がぽんと手を叩く。
「それじゃ、お言葉に甘えることにしよう。頼むよ」
「御意」
うなずいたトゥルムの周囲を風が取り囲む。
そして、竜巻が彼女を包み込み、それが晴れたかと思うと、一体の巨大な龍が出現していた。
「どうぞ、お乗りください」
「ああ、ありがとう」
返事をすると、琉斗は二頭の馬に向かって語りかけた。
「お前たちはこのまま町へと帰るんだ。ここまでありがとうな」
すると、馬は来た道をまっすぐに戻っていく。
「それじゃトゥルム、よろしく頼むぞ」
「御意」
トゥルムはかがんで二人を背に乗せる。
そして、翼をはためかせて宙へと飛ぶ。
進路を北西へと定めると、二人を乗せた龍は風を切ってその場から飛び去っていった。




