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58 迎撃




 翌日、琉斗とレラは馬を西へと走らせていた。


 二人はボロッフ西の森を抜けて平原地帯へ出る。目の前に延々と広がる広大な平原を、さらに数時間ほどひたすら西へと走り続ける。


 魔王軍はすでに山を越え、こちらへと向かい進軍しているだろう。なるべく町から離れたところで撃退しようと、二人はしきりに馬を走らせる。








 やがて、遠く向こう側に黒い人だかりのようなものが見えてきた。


「いよいよだな」


「そうですね」


 二人顔を見合わせながらうなずく。


 レラが驚いたように言った。


「敵は数千もいるというのに、恐るべき行軍速度ですね。これも魔王軍の強さの秘密でしょうか」


「そんなに速いのか。俺たちはざっと敵の五倍の速さで進んでいたはずだが」


「私たちは二人、それも最上級の馬に乗っていますからね。敵は全員が馬に乗っているわけでもないですし、兵糧などの物資も運んでいます。それにもかかわらずもうこんなところまで進んできているとは、正直信じられません」


「きっと魔物だから無理がきくんだろうな」


「でしょうね。それに、これだけ行軍速度が速ければ、必要な物資も少なくて済みますから。そういうもろもろが相まっての速さなのでしょうね」


「まあ、その分だけ連中の寿命も短くなるんだけどな」


 馬を止めた琉斗は、目を凝らして敵軍を観察する。


 まず目を引くのは、空を飛ぶ数体の龍だ。中でも、他よりも二回りは大きいであろう龍が一際目立っている。ちょっとしたビルくらいの大きさがあるのではないだろうか。


 ついで、その下を行軍する魔物の群れへと視線を落とす。


 魔物のほとんどは、四足歩行の獣と人型の魔物が騎兵のように人馬一体となっていた。これなら進軍する速度も速いわけだ。


 中には低空を飛行する人型の魔物もいる。以前エメイザーとの戦いでも見かけた、魔法を得意とする魔物だろう。


 そして、他の魔物とは桁違いの反応を示す魔物が、確かに三体存在する。そのうちの一体は、やはり空を飛ぶ巨大な龍のものであった。


 残る二つの反応は、敵軍の前方やや奥のあたりにある。おそらくはそこに八極将魔がいるのだろう。


「いよいよ決戦だな」


「そうですね。決して負けられません」


「もちろんだ。ここで確実に撃退しよう」


 琉斗は敵陣を指さしながらレラに言う。


「では、俺はこれからあいつらを片づけてくる。レラはここで、俺が倒しそびれた魔物を始末してくれ」


「あ、あの、リュート」


 レラが不安そうな目で琉斗を見つめてくる。


「どうした、レラ?」


「や、やはり一人では危険ではありませんか? 敵は魔王軍の精鋭、あの大軍ですし、それに八極将魔が三体もいるのです。いくらリュートが龍皇の力を得ているとはいえ……」


「心配するな、レラ」


 レラの言葉をさえぎるように琉斗は言った。


「俺は必ず帰ってくる。レラが心配するようなことは何もない」


「ですが……」


「安心しろ。すぐにかたをつけてくる。そうだな、この戦いが終わったら、町で何かうまいものを振る舞ってもらおう。魔物たちがグルメだったおかげで、あの町のコックは腕がいいからな」


「……約束ですよ、リュート」


「ああ、俺は必ず帰ってくる」


 固く誓うと、琉斗は馬にまたがり魔王軍の群れへと向かい駆けだした。


 その後ろ姿を、レラは心配そうにじっと見つめていた。







 敵軍との相対速度は優に毎時百キロメートルを超えているだろう。風を切って走る琉斗の視線の先の黒い塊が、みるみる大きくなっていく。


 互いの距離が一キロメートルを切ったあたりで、琉斗は馬の足を緩める。そのまま、ゆっくりと敵軍に近づいていく。


 決戦の火ぶたが、今まさに切って落とされようとしていた。





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