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56 復興



 町を解放してからの数日間は大変だった。


 何せ解放した人数がこれまでとは桁違いなのだ。市長や行政府があったわけでもない。何百年も魔物の支配下にあった町とあって、まずはさしあたっての指揮系統を構築するだけでも一苦労であった。


 幸い、この町の人間は数十人ごとに一単位として組織され、そのそれぞれに代表がいるらしい。まずはその代表を集め、合議体を形成してとりあえずの最高意思決定機関とした。ちょっとした議会である。


 もっとも、この規模の町ともなれば代表だけでも百人を超える。メンバーも民主制に親しんだ人間たちではない。話し合ったところで、放っておけばいつまでたっても終わらないだろう。


 そこで、応急処置として琉斗はくじ引きで理事を十三名選び、町のことについては理事会のメンバーで話し合うことを提案した。そこで決めた議案を代表たちによる議会に持っていき、過半数で可決とするのである。


 琉斗の提案に表立って異を唱えるものはいなかった。あくまで国の保護下に入るまでの応急処置であったし、彼の提案を突っぱねたところでこれといった代案があるわけでもなかったからだ。


 偵察した時にはわからなかったが、人間は農民だけではなく、町の中には大工や家内奴隷のような者も多く存在した。町の復興にあたっては、彼らにも大いに活躍してもらうことになった。








 慌ただしいながらも数日が過ぎ、ようやく少し落ち着いてきた町の一角で琉斗はレラと昼食をとっていた。


「少し長居してしまいましたね」


「仕方ないさ。今までの町や村とは違って、本当に誰もが家畜のように扱われていて、まともなコミュニケーションも取り合える状況になかったんだからな。放っておくわけにもいかない」


「今までの町や村は、統治機構はほぼそのまま残っていましたものね」


「ああ。ここまで徹底的に人間を支配下に置くってことは、それだけここが重要な拠点だったということだろう。あのエメイザーが支配していた町みたいだからな」


 その言葉にうなずきながら、レラが怪訝な顔をする。


「ですが、そうなると魔王軍も黙っていないはずですね」


「そうだな。八極将魔が倒された上に、そいつの拠点からも音信不通になったんだ。さすがに動かないわけにはいかないだろう。それに、この町に張った結界は今までとは規模が違う。何せ町どころか畑まですっぽり覆っているんだからな。もちろん破滅級魔法だ。奴らも察知しているだろう」


「いいのですか? そんなに派手な行動をとってしまっても」


「ああ、問題ない」


 不安そうなレラに、琉斗は笑いかける。


「むしろそれが狙いなんだ。八極将魔が倒され、重要な拠点を失った奴らは、きっと本気でここを潰しに来るだろう。それを俺たちが叩けば、連中も他を攻めている余裕はなくなるはずだ。魔王周辺の防御を固めてくれれば、人間界への脅威は大きくやわらぐ」


「ですが、彼らが防御を固めれば、魔王を倒すのも困難になるのでは?」


「大丈夫さ。俺たちならやれる。何といっても、俺は最強最悪の邪竜らしいからな」


「もう、それは言わないでください」


 レラが顔を赤く染めて琉斗を軽く睨む。彼女が龍皇をそのように評したことをこうやってからかうたびに、レラはこんな顔をするのだ。


「まあ、そろそろ連中も動いている頃じゃないか? また忙しくなると思うけど、その時はよろしく頼む」


「もちろんです。魔王討伐というのは、元々私が言い出したようなものですからね」


 レラの言葉に琉斗も笑みを漏らす。


 と、レラが話を変えた。


「それにしても、魔物たちは本当に許せません。老いた人たちを皆殺しにしていくなど……」


「そうだな、見過ごすわけにはいかない」


 この町では労働力としての価値を失った人間は次々と魔物たちの餌にされたらしい。そのため、街中どこを見回しても老人の姿はほぼ見あたらなかった。ごくまれに、歳を取りながらもまだまだ働ける者を見かける程度だったのだ。


「この町の人間にはほぼ全く教育がなされていないことも問題だな。代表たちや町の中にいた者の中にはものがわかる人もいるようだから、救援が到着するまでは彼らを中心にがんばってもらいたい」


「そうですね、この町はもう彼らのものなのですから」


 二人うなずきながら、窓の外へと視線を動かす。

 視線の先では何人もの人間が、木材やら何やらを持ってひっきりなしに行き来していた。これから本格的にこの町の復興が始まるのだ。


 解放と復興の熱気に、琉斗は目を細めるのだった。




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