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51 さらなる刺客



 荒れ果てた荒野のただ中に、それはそびえていた。


 まだ日中であるにもかかわらず、空は暗い雲に覆われ、あたりからは瘴気が噴き出している。禍々しいシルエットは、それが城であることを示していた。


 その城の一角で、一人の老人が叫び声を上げていた。


「何たることだ! まさか、八極将魔ともあろう者が人間ごときに敗れるとは!」


 怒りに血管が今にも切れそうな老人に、壁にもたれかかっていた青年がたしなめるように言う。


「そうは言っても、連中は破滅級魔法の使い手なんだろう? それも、記録によれば複数回発動したらしいし」


「そんなことはわかっておる! だから対策を考えておるのではないか!」


「まあまあ。八極将魔随一の知恵袋がその調子では、我々もどうしたものか困ってしまうよ」


 青年が小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。


 老人はそれには気付いていないのか、何ごとかをつぶやきはじめる。


「記録によれば、破滅級魔法を禁じているはずの人間どもの王都で、複数の魔力反応があったとのこと。人間ごときがそう何度も繰り返すことなどできようはずもない。おそらくは術者が二人いたか、それとも複数の術者で破滅級魔法を行使する術を見つけたか……」


「いずれにしても、八極将魔とは言えども一人で向かわせるのは危険だね。仮にもあのエメイザーを屠るほどの術者たちだ。どうするんだい、ザンジ?」


 青年は老人を煽るように言った。特に気にする風もなく、ザンジと呼ばれた老人が問いに答える。


「何、心配には及ばん。もうすぐ中西部に向かっていたゼノザールたちが戻ってくる。連中をそちらに向ければよい。人間どもがいかに小細工を弄したところで、八極将魔三体が相手では勝負にならん」


「大変だね、ゼノザールたちも。仕事から帰ってきたと思ったら、今度は東のど田舎に向かわされるなんて。人使いが荒いにもほどがあるよ」


「そう思うのならお前が行くか、サルバーン? 別に止めはせんぞ?」


「遠慮しておくよ。僕には、この美しい城を守るという崇高な使命があるからね」


「よく言うわ。この三百年、外敵など一匹も寄りつかないというのに」


「それだけ魔王様のご威光が行き渡っているということさ」


 青年――サルバーンがにやりと笑みを浮かべる。


 それから、芝居がかった口調で言った。


「それにしても、その東の国とやらも哀れなものだね。あのあたりには元々冒険者もそれほどいないんだろう? 中西部で幾人もの一級冒険者を血祭りにあげて凱旋してきた八極将魔たちがそこに向かえば、文字通り草の根一つ残らないかもしれないね」


「さよう。たとえ禁呪使いがいようと、三体もの八極将魔が相手とあっては勝負にもならんだろうて。我ら魔王軍の恐ろしさ、とくと味わうがよいわ」


 ザンジが暗い笑みを浮かべる。


「まあ、グラントあたりは残念がるかもしれないね」


「あんな戦闘狂のことなど気にすることもないわ。あやつめ、北の勇者とやらを狩ってこいと言ったら嬉々として向かっていきおったわ」


「仕方ないさ、彼はそれが生きがいみたいなものなんだから」


「ふん、わしの戦略を無視して好き勝手に動き回りおって。少しはわしの苦労も考えろ」


 吐き捨てるようにザンジが言う。


 と、サルバーンが何かに気付いたかのように言った。


「お、どうやら戻ってきたみたいだよ、三ばかが」


「奴らはグラントのいのししと違ってわしの言うことを聞くからの、かわいいものよ」


 そう言って、ザンジは部屋の外へと出る。サルバーンもその後に続く。



 今、恐るべき計画が動き出そうとしていた。






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