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50 王城へ




 魔物の襲撃があった夜から次の日にかけては、慌ただしい時間が続いた。


 琉斗はレラと共にギルドや役所を回り、その都度魔物の襲撃時の様子や撃退した時のことを説明し続けなければならなかった。


 結局、聖龍剣闘祭の決勝も再試合どころではなくなってしまった。

 一方で、魔物の襲撃に際して敵の大将を討ち取った琉斗とエルファシア王女を守ったレラの功績は大きいということで、大会側は史上初となる二人の同時優勝へと踏み切る方向らしい。



 関係各所への報告や簡易な授賞式への出席など、慌ただしい日々が二、三日続いた後、琉斗とレラは王城で国王と謁見した。


 すでにギルドや軍には話していたが、琉斗はレラと共に魔王討伐の旅へと向かうことを国王に伝えた。

 何か入り用なものはあるか、と尋ねる国王に、琉斗は魔王側から解放された町についてはマレイアをはじめとする近隣諸国が迅速に保護下に置くように要請した。確かに承った、と国王は強くうなずいた。


 その後しばらく会話すると、二人は謁見の間を後にした。

 衛兵の案内にしたがい、王城の奥にある一室へと向かう。


 中に入ると、そこには侍女をしたがえたエルファシア王女の姿があった。


 エルファシアが柔らかな笑みを浮かべる。


「お二人とも、ようこそお越しくださいました」


「こちらこそ、お招きありがとうございます」


「お初にお目にかかります、王女殿下。私は王都のギルドに登録している冒険者、レラと申します」


 レラの挨拶にエルファシアが苦笑する。


「ふふっ、レラさまは初めてではないでしょう。つい先日わたくしを守ってくださったばかりではありませんか」


「無礼を承知ながら許可なく馳せ参じたこと、まことに申し訳なく存じております」


「何をおっしゃいます。あなたが来てくれたおかげで、護衛も犠牲者を出さずに済みました。彼らに代わってお礼申し上げます」


「とんでもありません、恐縮です」


 二人の会話を見つめながら、琉斗はつぶやいた。


「レラのそういうところは、何だか新鮮だな。普段から丁寧ではあるけれど、まるで別人みたいだ」


「からかわないでください。殿下の御前ですよ」


「わたくしのことでしたらお気になさらないでください。お二人とも、いつものように振る舞ってください」


「ありがとうございます、助かります」


 そう頭を下げる琉斗に、エルファシアは席に着くよう促す。


 琉斗とレラが可愛らしいデザインのテーブルの前に座ると、侍女がカップに茶を注いでくれる。


 その茶を口にしながら、三人はしばらくの間他愛もない会話を楽しんだ。





 やがてこれからの話になり、二人が魔王討伐の旅に向かうと聞くと、エルファシアは表情を曇らせた。


 琉斗に向かい問う。


「リュートさま、魔王が人類の脅威であることも、あなたのお力も理解しているつもりですが……。なぜ、あなたは危険を冒してまで魔王の討伐に向かおうとするのですか?」


 闘技場での戦いを見ているとはいえ、エルファシアは琉斗が龍皇の力を手にしていることを知らない。その瞳は、琉斗を危険な目に遭わせたくないとはっきり告げていた。


「これは……約束なんです」


「約束?」


「はい。大事な人と交わした、俺がどうしても守りたい約束です」


 そこまで言って、琉斗はレラの頬が少し赤くなっていることに気付いた。思わず琉斗も気恥ずかしくなる。


 その様子に、エルファシアはなぜか寂しげな表情を浮かべているようだった。

 だが、そんな顔をすぐに引っこめると、エルファシアは明るい調子で言った。


「わかりました。リュートさま、その約束、ぜひとも叶えてあげてください」


「はい、そのつもりです」


 琉斗は力強くうなずいた。一刻も早く、レラが望む平和な世界を実現したい。


「わたくしも、陰ながらお二人のご武運をお祈りしております。リュートさま、レラさま……どうかご無事で」


「ありがとうございます。魔王を倒したら、真っ先に王女さま……殿下に知らせに来ます」


「エルファシアでよいですよ、リュートさま」


「はい……エルファシアさま」


 挨拶を交わすと、二人はエルファシアの部屋を後にした。




 衛兵に従い城の廊下を歩いていると、レラがふとつぶやく。


「もしかして、殿下は……」


「どうした、レラ?」


「いえ、何でもありません。私は私にできることをなすのみです」


「そうだな。俺もまずは自分にできることから考えてみるよ」


 笑みを返しながら決意を新たにする。



 もうしばらくすれば、この町ともしばしの別れとなる。目まぐるしく変わる状況の中にあって確かに自分で選んだその道に、琉斗は満足感と高揚感を覚えていた。






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