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44 襲撃




 互いに闘技を繰り出そうと構えた琉斗とレラだったが、会場に鳴り響く声にその手を止める。


「なっ、なな、何でしょう、今の声は!? とりあえず、落ち着いて聞きましょう!」


 ミルチェが会場へと呼びかける。


「王都の北西より、飛行型の魔物が襲来! 報告によれば、王都の警備隊が食い止めているものの、中上位種と思われる数十体は防衛線を突破、王城方面へと向かっている模様!」


 どうやら場内に聞こえてくる声もまた、音魔法によるものであるらしかった。


 王都の各所には音魔法使いが配置されており、彼らがネットワークを形成して情報をやり取りしているそうだ。今の声も、おそらくそういう役割の者によるものなのだろう。


 会場が不安にざわめく中、声が新たな情報を伝えてくる。


「ち、違う! 闘技場だ! 魔物たちは王城ではなく、闘技場の方を目指している!」


 それはこの場にいる者たちにとって、凶報以外の何物でもなかった。不安が爆発し、恐慌状態に陥った観客たちは我先にと立ち上がって出口へと向かう。出入り口付近はあっという間に人で埋め尽くされた。


「お、落ち着いてください! 慌てないで、走らずに! 選手の皆さんはスタンドに入って、会場のお客さんを守ってあげてください!」


 ミルチェも観客の誘導や選手への指示を飛ばす。


 もう決勝どころではない。琉斗とレラが、顔を見合わせる。


「俺たちも手伝うとするか」


「もちろんです。おそらく、そろそろ来るはずですよ」


「ああ」


 二人がうなずき合ったその時、青い空に黒い点がいくつか見え始めた。


「さっそく来やがったな」


 つぶやくと、琉斗は空を睨みつける。


 森で見かけた体毛がない魔物や、胴体が人間の大人ほどもありそうな巨大な鳥。あるいは獣に翼が生えたような魔物もいる。


 突然の魔物の襲来に、観客席では怒号と絶叫が飛び交う。


 次々と増えていく魔物たちは、しばらく獲物を求めて上空を旋回していたが、やがて狙いを定めたのか、観客に向かって空から魔法や火の玉を放ってくる。


 観客から悲鳴が上がる。


 だが、魔物たちの攻撃は突如観客たちの前に現れた障壁によって阻まれる。魔力によると思われる障壁は、驚くべきことにスタンド全体をドーナツのようにぐるりと取り囲んでいた。


「な、何だこれは!?」


 観客を守りに向かった冒険者たちから驚きの声が上がる。

 魔物たちがむきになって攻撃を続ける中、琉斗が叫んだ。


「観客は俺の魔法で守る! みんなは魔物たちを!」


「お、おう!」


 わけがわからないままにうなずくと、選手をはじめとする冒険者たちが魔物へと攻撃を始める。


 琉斗も攻撃に参加しようとしたが、魔法障壁を維持しながらの攻撃は意外に手間だ。初めてのことなので、右手で障壁を維持しながら左手で慎重に火球を作り出す。


 それを魔物に放とうとした刹那、観客席から巨大な火球が放たれるのが見えた。火球は空飛ぶ魔物を一撃で絶命させる。


 見れば、そこには余裕たっぷりのセレナの姿があった。周囲の観客が、魔法障壁とセレナの魔法を見たからか落ち着きを取り戻していく。


 さらに、すぐそばから空に向かって無数の風の刃が放たれる。刃は魔物に襲いかかると、数体の身体をばらばらに切り裂いた。


 隣を見れば、槍を天へと向けたまま涼しい顔をしているレラの姿がある。他の冒険者たちも、魔物に向かい次々と攻撃を始めていた。


 これは俺が頑張る必要もないかな、などと思いながら、琉斗も左手の火球を魔物へと叩きつける。魔物は声もなく燃え尽きた。


「会場の皆さん! 冒険者たちが戦ってくれています! 皆さんは落ち着いて行動してください!」


 ミルチェが必死に観客を誘導する。彼女の指示のおかげで、観客も恐慌状態から脱しつつあるようだった。



 魔物は次から次へと襲来してくるが、会場にいる魔術師や弓兵、そしてレラたち闘技習得者の手によって、確実にその数を減らしつつある。観客は琉斗の魔法障壁に守られながら、ミルチェの指示に従いスタンドから退避を続けている。


 このままいけば、問題なく事を収めることができそうだな。


 そんなことを思っていた琉斗だったが、直後、一つの気配を察知した。


 これまでの魔物とは明らかに異なる気配だった。今までに戦ってきた魔物が問題にならないほどの強大な力。それは、あの上級魔族ボルドンをも遥かに凌ぐ力であった。


 空を見上げる琉斗の目に、一体の魔物の姿が映る。翼も持たず空に浮かぶ、巨大な人型の魔物。それまで無秩序に暴れていた魔物たちが、まるで君主を迎えるかのように道を開けるとその周囲を取り囲む。



 明らかな強敵の出現に、琉斗は気を引き締めていた。





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