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43 決勝戦



 聖龍剣闘祭も、ついに決勝戦を迎えた。



 会場の中央に立つ琉斗と対峙しているのは、王国最強の冒険者、槍姫レラ。決勝の舞台で戦うという約束を、二人は守ることができた。


「さあ、今回の聖龍剣闘祭もいよいよ決勝戦! その顔ぶれは、実に予想外なものとなりましたぁ!」


 ここが自分の見せ場だとばかりにミルチェが叫ぶ。


「いったい誰がこの対戦を大会前に予想していたでしょうか!? 一人はここまで圧倒的な強さを見せつけてきた王国を代表する一級冒険者、そしてもう一人は冒険者登録をしたばかりという無名の新人! ですが、その強さは今では皆さんもご存知の通りです!」


 彼女に応えるかのように、会場からは歓声が上がる。その様子に苦笑していると、レラが話しかけてきた。


「大人気ですね、リュート」


「からかわないでくれ。物珍しさでああ言ってるだけさ」


「でも、あなたの強さは本物ですよ。ありがとうございます、私との約束を守ってくれて」


「もちろんさ。レラとの約束を破るわけにはいかないからな」


 二人の会話を見て、ミルチェが解説を加える。


「レラ選手とリュート選手は友人関係にあり、今大会中も二人一緒にいる姿があちこちで目撃されているようです! なお、手元の情報によれば、無名のリュート選手を聖龍剣闘祭に誘ったのもレラ選手であるとのこと! 強者は強者同士惹かれ合うのか――!?」


「だってさ。レラは俺に惹かれて声をかけたのか?」


「そうかもしれませんね。リュートはどうですか?」


「そうだな、俺に勝てたら教えてやるよ」


「ふふっ、それは楽しみです」


 レラが微笑む。


 自分もこんな軽口を叩けるようになったのか、などと思っていると、審判から準備を促される。


「いよいよですね。最高の舞台であなたと手合せできて、私は幸せです」


「それは光栄だ。俺も槍姫の技を間近に見ることができて嬉しいよ」


「それでは」


「ああ」


 うなずき合うと、互いに距離を取ってそれぞれの武器を構える。


 そして、審判の合図と共に試合が始まった。



「では、まいります」


 開始と同時にそうつぶやくと、レラが琉斗へと突貫する。

 速度を保ったまま、彼女の槍が高速で繰り出される。


 左へと飛び、その切っ先をすんでのところで回避すると、レラは即座に琉斗と反対側へ飛んで間合いを取る。


 凄まじい速度の突きだ。並みの人間には回避することなどできまい。いや、そもそもあの突きをかわすことができる人間など存在するのだろうか。


 レラも驚きの表情で琉斗を見つめる。


「……驚きました、まさかあの一撃をああも容易くかわされるとは」


「驚いたのは俺の方だ。まさか初めからあんな一撃を繰り出してくるとはな。レラ、本当に俺の力を見極めるつもりはあるのか?」


「もちろんですよ。リュートならきっと反応できると思っていましたから」


 そうつぶやくと、レラは再び槍を琉斗へと向けた。


「それでは、これはどうですか?」


 琉斗へ向かい踏み込むと、レラは怒涛の槍撃を繰り出してきた。迫りくる無数の穂先を、琉斗は次々と剣で弾き返していく。


「レラ選手の猛攻――! 目にも止まらぬ連撃に、さすがのリュート選手も防戦一方か!?」


 レラの槍撃をさばいていきながら、琉斗は冷静に彼女の力を測っていた。


 さすがは一級冒険者だ。恐るべき技量である。準決勝で戦った王国の騎士団長を遥かに上回っている。


 おそらく、技量だけで言えばこれまでに戦った相手の中でも一番だと言えた。あの重剣士、ザードをも上回る槍の冴えだ。


 その意味では、琉斗も素の剣技ではレラといい勝負だと言えた。実力が拮抗していると、戦いそのものが楽しく感じられてくる。


 しばらく打ち合っているうちに、攻防も徐々に白熱してくる。今や琉斗も防御に徹するだけではなく、懐に潜り込む隙を作ろうと果敢に斬り込んでいた。その対応に追われながらも、レラも攻撃の手を緩めようとはしない。


「何という激しい攻防! 恥ずかしながらわたくし、二人の攻防に全く目が追いつきません――!」


 実況のミルチェがさじを投げる。はたして、今この会場で二人の戦いについていくことができている人間はいったい何人いるのだろうか。


 攻撃の応酬は激しさを増し、二人の周囲には火花が飛び散る。歓声を上げていた観衆も、今や沈黙して固唾を飲みながら戦いに見入っていた。



 やがてレラが後退し、あたりを静寂が支配する。


「さすがはリュートです。私も全力をもってお相手させていただきます」


 つぶやくと、レラは静かに槍の穂先を琉斗へと向ける。


 直後、レラの周囲の大気が揺らめいたかと思うと、彼女を取り囲むかのように少しずつゆっくりと渦を巻き始める。


「奥義、か」


「その通りです。リュート、あなたも見せてください。持っているのでしょう、あなたも必殺技を」


「まあな」


 うなずくと、琉斗も剣の切っ先をレラへと向ける。


 とは言え、まともに技を使ってはレラが無事では済まない。どの技を使おうかと思案していたその時、突如場内に緊迫した声が響き渡った。



「敵襲! 魔物の軍勢が襲ってきた!」


 それは、有事を告げる声だった。






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