第3章 7-6 タイムオーバー
スヴェータが上空からイヴァンをスヴァロギッチへ突進させる。そのまま二発、火弾を飛ばしたが、火の神の背後に楯のような炎の板が出現し、それを防いでしまった。砕け散った炎が周囲へ飛び散り、さらに火災を発生させる。だが、それをスヴェータは読んでいた。炎の楯が霧散したその火神の無防備な背中へ、イヴァンが猛烈に爪を突き立てる。
スヴァロギッチが目を光らせて苦痛と怒りに燃え、叫んだ。数百度もの熱波が立ち上って陽炎をあげる。しかしイヴァンも炎だ。ますます猛り狂い、爪を食いこませる。
そこへゾンが反撃!
大口を開け、漆黒に渦巻く地獄の炎をスヴァロギッチへ向けて吐きつけた。
同じ炎でも、根源が違うものは反発する。
黒炎が爆発し、スヴァロギッチがその勢いでふっとばされる。イヴァンはしかし、逃げずに羽ばたいてスヴァロギッチを空気イスめいた姿勢で空中に止めた。そこへゾンが一気に勝負をきめようと襲いかかった。
そのゾンめがけ、スヴァロギッチが炎の剣を投げつけた。ゾンがその剣をたたき落とした瞬間、大爆発した。
「……!!」
山桜桃子とスヴェータも爆風にひっくり返って転がった。グラウンド側の窓ガラスが全て割れ、火が吹きこんで教室を焼いた。学校が見る間に火事となって、まだ残っている生徒たちが悲鳴を発する。逃げ場が無い。このままでは、ただ焼け死ぬのを待つだけだ。
「ゾン、このバカ! あんたの力はそんなもんなの!? それでもこのあたしのゴステトラかあ!!」
立ち上がって山桜桃子が叫ぶも、叫ぶだけだった。具体的な指示が何もできぬ。山桜桃子はそれがもどかしかった。しかし、戦い方なんて分からない。
そしてこんな時だが気がついた。そのための武道だ。八尺天心流の武道の数々は、守護闘霊の遣い方に直結する業を多数もっている。それを極めることは、守護闘霊を極めることだった。菫子の強さは、そんなところにもあったのだ。
「ユスラ!」
スヴェータが、そんな山桜桃子の腕をとる。泣きそうな顔で、悔しげに顔をゆがめた山桜桃子がスヴェータをみつめた。
「……あせっちゃ、だめ」
「う、ん……」
山桜桃子は悔し涙をぬぐい、しっかりと状況を観察した。観察だ。観察が守護闘霊戦の重要なファクターなのだ。
剣を失った火神がイヴァンを振りほどこうともがいている。火の鳥は火の粉を豪快に飛ばしつけながら懸命にはばたき、まだ不安定な姿勢を保っていた。
「……足、足をねらって、ゾン!」
がむしゃらに発言した言葉だったが、ゾンもその通りと判断したようで、すぐさまその隙だらけに投げ出されている足めがけて鋭い爪の攻撃を繰り出そうと身構え、突進する。右手を大きく振りかぶり、その手形で完全に膝から下を切断するタイミングと威力だった。
とたん。
「あっ!!」
山桜桃子とスヴェータが叫ぶ。
ゾンの全身から障気が吹き出て、見る間にその身体が小さくなってしまった。魔力が枯渇したのだ。やはり、代替魔力では限界があった。第三天限が自動的にゾンを戒め、第二天限解除状態へ強制的に戻ってしまった。
「……ゾン!」
山桜桃子も驚いたが、ゾンがいちばん驚いた。うまくゆくと思ったのだが、
「どちくしょう!! 思ったより持たなかったぜ!!」
第二天限解除とはいえ、第三天限解除の三分の二……すなわち体髙二十メートル、全長六十メートルはある。これでも、そこいらの敵を相手にするには充分すぎる。スヴァロギッチとも互角の体格だ。
しかし、いま相手をしているのは、腐っても神だ。
スヴァロギッチめ、ここの勝機と勢いをつけて重心を下げ、グラウンドへズッシと踵をつけるや上半身をひねってイヴァンの羽を掴んで自らの背中へダメージを追うのもかまわず毟り取り、そのまま地面へ叩きつけた。炎が上がり、イヴァンが苦しげに鳴く。足を大きくあげて踏みつけようとしたところを、ゾンが肩から体当たりをかまし、火の神がよろめいた。イヴァンがその隙にあわてて逃げた。




