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第10話 GIGANT

この石剣『GW-002 GIGANT(ギガント)』は正確には魔道具ではない。

そもそもこの体では魔道具が使えないのだから当然といえば当然なのだが。


元々は術者の魔力に応じて重力を発生させる剣を作りたかったのだが、派手に調整をミスしてしまった結果『周囲の魔力を吸収し常に高重力波を発生させる』効果のトンデモ兵器になってしまった。

これでは使用者まで重力の被害を受けてしまうので使い物にならない。そう思いながらも何かに役立たないかと倉庫にしまっておいたのだ。

そして今、その石剣は長い沈黙を破り活躍している。


魔力を込めなくても常時発動している以上、ゴーレムの体でも問題なく使用することができ、副作用の自身にかかる負荷もゴーレムの肉体ならさして問題にはならない。


よって失敗作だったこの魔道具は今の俺にとってはいいとこづくめの武器になったのだ。



「そらよっ!!」


俺がGIGANTを一振りするたびに刀身に込められた重力波が刀身を離れ巨大な力の波となって魔戦車を潰し、弾き、吹き飛ばしていく。


「め、めちゃくちゃだ!! 勝てるわけがない!!」


勝ち目なしと気づいたのかちらほら逃げ出すも者も現れ始める。

しかしそれを看過するほど俺は甘くはない。


「火凛」

「はい」


火凛はその一言で俺の意図を汲み逃げ出した者の掃討に当たる。


「おい! あまり好き勝手できると思うなよ!」

「ほう、これまたずいぶんオシャレしてきたな。これからデートか?」

「ほざけ!!」


現れたのは先ほどの兵が着ていた物よりも強そうなパワードアーマーを装着したグレゴリー。

感じる魔力量が先ほどまでのとは段違いに大きい。いわゆる隊長機なのだろうか。


「我らの仲間をよくもやってくれたな! 生きて帰れると思うなよ!」

「それはこっちのセリフだ。そんなおもちゃでどうにかできると思うなよ」


「そのセリフは……こいつの性能を見てから言うんだな!」


そう言うやいなやものすごいスピードで接近するグレゴリー。

俺のそばに来ても全く体勢が崩れる様子はない。どうやら高重力下でも動けるほどの性能があるようだ。


「とっておきをくらいな! 魔道粒子砲発射準備!!」


グレゴリーが叫ぶとパワードーアーマーの右腕先端部から砲塔が生え、高濃度の魔力をチャージする。

巨大なエネルギーの塊となった魔力は青白い光と強烈な熱をあたりに散らしている。


「跡形もなく消し飛びやがれ! 魔道粒子砲発射!!」


爆音と共に発射される光の塊。

全てを飲み込むかのごとく発射されたそれは地面を深くえぐりながら俺を飲み込み、基地の約半分を更地に変えてしまう。


「はははは! 我がロシア軍の魔兵器技術は世界一ィ!! お前たち古臭い魔人ごときに勝てる道理などない!」


勝ちを確信したグレゴリーは声高々にそう宣言する。


「さて、残りの女も始末するとするか。魔力切れを起こす前に早くせねば……」


そう言って歩き出そうとしたグレゴリーだが、その一歩が踏み出されることはなかった。


「な……なぜ!? なぜ立っている!?」


気づいてしまったからだ。更地の中に悠然と立っている俺の存在に。


「発想は悪くないがエネルギーの変換効率がイマイチだな。そもそもお前らは魔法という物への理解が少なすぎるんだ、そこをしっかりするだけで消費魔力を半分にすることができるぜ」

「いや、そういう問題ではないだろう!! なぜ岩をも溶かすこの攻撃をくらって無傷なんだ!!」

「いくら威力が高かろうとこんな単純な魔力構造の攻撃、目を瞑ってても無力化できるぜ」


先ほどの攻撃は魔力を熱エネルギーに変換した代物だった。

キチンと変換されていれば何かしらの手段で防ぐ必要があったが、今回の攻撃は変換がお粗末だったため容易に熱エネルギーを魔力に逆変換できた。

「ほぐし」を応用すればこのようなことも出来る。


「魔力はただのエネルギーじゃない、その性質は不思議で不可解で神秘的なものなんだ。まあ、もっとも魔力を扱えないお前たちにはピンとこないかもしれないけどな」


俺はそう説明しながらゆっくりとグレゴリーへと歩を進める。


「だったら……直接ぶん殴るまで!!」


策もへったくれもない大振りの一撃。

俺はそれをギリギリのところまで引きつけ、躱す。


「ふん……っ!!」


そして繰り出すは腹部への正拳。

ゴーレムの膂力を存分に生かしたその一撃は「ベゴンッ!!」と物凄い音を起こしパワードーアーマーを破壊する。


「が……はっ……!!」


その衝撃は装着者まで及び、グレゴリーはその場に崩れ落ちる。


「ふぅ、思ったよりもかかったな。向こうは大丈夫だろうか」


俺がそう一息つくとちょうど火凛もやってくる」


「お、そっちも片ついたか」

「はい。それに捕らわれていた村の人たちの救助も完了してます」

「全く手のかからない部下だよお前は……。そういうことなら早く銀狼を追った方がいいな」


ヴォルクが心配だ……と言おうとした瞬間、地面に崩れていたグレゴリーが突如笑い出す。


「くく、はははははは!! そうか、一人いないと思ったらあの狼を追っていたのか!」

「何がおかしい」

「それはおかしくもなるさ!! あの狼は今日、我がロシア軍の精鋭部隊が討伐する運びになっている!! もう今頃狼も貴様の仲間も殺されているだろうよ!!」


「何だと!?」

「言っとくが精鋭部隊は俺たちよりもずっと強い! 助かる見込みなどこ万に一つもない!!」

「ぐっ……!!」


ヴォルクならその精鋭部隊とかち合ってもなんとかなるだろう。

しかしあの銀狼と戦った後だとしたら?

そうなったらヴォルクも銀狼もタダでは済まないだろう。


「火凛っ!! 俺はヴォルクの元に行く!!」

「はい、ここの後始末はお任せください」


俺は来た方角を向くと足に魔力を急速にためる。


「ははは!! 無駄だ! もう手遅れなんだよお前たちは!!」


笑いながらそう嘲るグレゴリー。

だが俺の心はその程度では揺るがない。


「無駄かどうかはやってみないとわからないさ。少なくとも神に戦いを挑むよりは勝算はある」

「は?」


俺は知っている。

この世に本当に不可能なことなどないと。


それを教えてくれた人がいる。


だから、俺は絶対に諦めない。


「待ってろよヴォルク!!」


俺は溜めた魔力を爆発させ猛スピードで飛び上がる。

不可能を可能にするために。


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