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第9話 石剣

「やあっと見つけたぜ、手こずらせやがって」


『……』


最果ての村より北へ2時間ほど走った先でヴォルクは銀狼に追いついていた。

呼び止められた銀狼は顔をヴォルクの方へ向けるがその目にこの前ほどの殺気は感じられない。

ヴォルクがどうしたものかと考えると銀狼が驚きの行動をとる。


『………何の用だ人間よ。貴様にくれてやるモノなど何もないぞ』

「あんだ喋れんじゃねえか。話が早くて助かるぜ」


どうやらジークの能力はちゃんと発動していたようだ。

銀狼はその大きく獰猛な口から低く恐ろしい声を発する。


しかし、ヴォルクは全く怖気づいてない様子で耳をボリボリ掻きながら話を続ける。


「危害を加えないから一緒に来てくれ……っつてもどうせ信じてくれないだろ?」

『無論だ。人間の言葉など聞くに値せぬわ』

「オーケーオーケー、そらそうだ。何があったのかは知らねえがその目を見りゃロクな目にあってねえのはわかる」


ヴォルクを見る銀狼の眼は怒りのせいか赤く充血している。

襲い掛かり喉元を引き裂きたい衝動を必死に理性で押さえているのだ。

よほど人間に恨みを持っているのだろう。


「俺は頭が悪いからよう、言葉でおめえを救ってやることはできねえ。だけどよ」


ヴォルクは四股を踏むようにドン! と足を振り下ろし気合をいれると、笑みを浮かべ言い放つ。


「全力でぶつかっててめえの怒りを受け止め切ってやるよ。かかってきな」


『なめるなよ小僧! 私の怒り、貴様程度に受け止め切れると思うな!!』


その言葉を皮切りに二匹の獣が雪上でぶつかり合う。


白を赤にそめながら……













「構えぇっ!!」


多数の砲身が俺たちに狙いを定める。

俺は振り返り火凛の方へ視線を送ると礼の物(・・・)を要請する。


「火凛! GIGANTをくれ!」

「了解しました!!」


火凛は勢いよく返事すると懐よりチャックの様なものを取り出す。

それを空中に張り付けると思い切りそのチャックを引く、すると空間がねじれ一振りの剣がその空間より現れる。

空間系魔道具「ZIPPAR」。特別な空間に様々な物を収納できる魔道具であり、今回の旅に必要な物をたくさん入れてきている。

その他にも俺用の魔道具がたくさん入っており専属使用人は全員この空間にアクセスできるようにしている。


「よっしゃこい!」


俺は「ZIPPAR」より射出された剣をキャッチする。

その剣は飾り気など一切ない、石で出来た1mほどの武骨な剣だ。

刃は研がれておらず、切れ味などは一切ない。


しかし、もちろんタダのなまくらではない。


「放てえっっ!!」


グレゴリーの掛け声とともに一斉に無数の砲弾の雨が俺たちに降り注ぐ。

その全てが高濃度の魔力を内包した砲弾だ。いくら俺でもくらえばタダでは済まないだろう。


くらえば……だがな。


「我らにたてついた事、後悔しながら死ぬがいい!」


砲弾は真っ直ぐ俺たちに飛び……その距離10mを切ったところで落下(・・)した。


「……へ?」


90度の角度で急落下した砲弾は地面にめり込み一斉に物凄い音を立てて爆発する。

おーおーすげえ威力だな。ウチにも欲しいくらいだ。


「う、撃て撃てぇ!」


再び魔戦車の弾幕が展開されるが何度やっても同じだ。

俺に向かって放たれる砲弾は全て俺の手前で落下し、その効力を失う。


「くっ……! 砲撃中止ぃ! 魔導歩兵団出撃しろ!!」


どうやら俺に飛び道具が効果ないと悟ったのか今度はパワードスーツを着用した兵隊が姿を現わす。

あんなものまで開発していたとは……少々平和ボケが過ぎたようだな。

もっと調査を強化しなくては。


「プランCで行く! 総員突撃!」


魔導歩兵団とやらフォーメーションを組みながら俺に向かい突撃してくる。

これまた連携のとれた動き。実に立派だが、それだけだ。


「うおぉっ!」


先頭の1人が魔力で出来たナイフを振りかざし突っ込んでくる。

パワードスーツの力により常人では目にも留まらぬ速さで俺に近づき……その勢いのまま地面にめり込んだ。


「……!!」


地面に叩きつけられた兵士は必死に手足をばたつかせ起き上がろうとするが、その努力むなしく兵士はやがて体力を失い動きを止める。


俺はその兵士の元へ近寄ると首に剣を押し当てる。

そして。


「やめ……」


ずぶり。

辺りに肉がつぶれる音が響き渡る。

流れ落ちる血が雪を赤く染め上げこれから起きる惨劇を想起させる。


「まずは一人」

「貴様……っ!!」


逆上した兵士が次々に襲いかかるが、兵士は俺に近づくと地面に倒れ俺の手によって次々とトドメをさされる。


「その力……重力か!」


その様子を見ていたグレゴリーは俺の能力に気づいたようだ。

だが、知ったところでどうにか出来る代物ではない。


「むん……っ!!」


俺が渾身の力で石剣を振ると強力な重力波が巻き起こり、複数の魔戦車を巻き込みながら基地を破壊していく。


「何という威力……!! 化物め!!」


「さて、反撃開始といこうか」

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