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第5話 魔戦車

『ガアッ!!』


 銀狼は威嚇するようにこちらに向かい吠えると、猛然と突進してくる。

 やべえな、もう魔力がスッカラカンだっていうのに。


「おいおい。いきなり大将首を取れると思うなよ?」

「同感です。ここは我々が」


 二人が銀狼を遮るように俺の前に躍り出る。

 確かに魔力のない俺よりは戦えるだろうが、それでも無謀だ。

 それほどまでにあの銀狼の放つ魔力は圧倒的なのだ。


「出し惜しみはしねえ! 真月トゥルームーン!!」


 ヴォルクは魔道具を発動し巨狼モードに変身する……が、それでも相手の銀狼の方が一回り大きい。


「うおおおぉっ!!」


 ヴォルクは迫りくる銀狼を迎え撃つかのように走り出す。

 正面から行く気か? 無謀すぎるぞ!


「ジーク様! 私たちが足止めしてる間にやってください!!」


 そう言うと火凜も銀狼へ向かい走り出してしまう。


 今の俺に何ができる……ってまだ言語を共有してないじゃないか。

 話が通じりゃ多少は落ち着いてくれるだろう。

 あいつらが怪我する前に場を納めなければ。


「くらえ! 『共感覚シナスタジア()言語同調ランゲージチューニング』!!」


 銀狼に向かい力を使うと、いつもの頭痛に襲われる。

 どうやら成功したみたいだな。


「頼む! 落ち着いてくれ! 俺たちは敵じゃないんだ!!」


 銀狼は俺の言葉にピクリと反応したが、その敵意は薄れる気配はない。

 いったい何がそこまでこの狼を駆り立てるんだ!?


「上等だ! かかってこいやぁ!!!」


 敵意を切らさない銀狼へヴォルクが飛び掛かり額同士を空中でぶつける。


『ゴン!!』と鈍い音と衝撃波が一面の銀世界に広がり、雪に亀裂を走らせる。


「がっ……!!」


 銀狼の突進を食い止めたヴォルクだがその代償はデカかったようだ。

 額より血を流しながら後方へと吹っ飛び、雪の中に埋もれてしまった。


 ……これほどまでとは。

 俺の計画が甘かったと言わざるを得ないな。


「はぁっ!! 火生土行かしょうどぎょう地黄煎火じおうせんび!!」


 ヴォルクを吹き飛ばし隙のできた銀狼に向けて五つの地を這う火炎が放たれる。

 火凛の放った魔法は火と土の複合魔法である。

 寒い環境では火の魔法の威力は下がってしまうが、この魔法なら威力の低下を防げるはずだ。

 考えたな。


「弾けろ!!」


 火凜の呼びかけにより放たれた火炎は爆発し、それにより発生する地面の破片をまるでシャワーのように銀狼へ浴びせる。

 こいつは痛そうだぜ。


 しかし、そう簡単に事は運ばなかった。


「この魔法でも効果なしとは……!」


 爆風によって舞い上がった土煙が晴れると、そこには傷一つない銀狼の姿があった。

 どうやらあの銀色の毛は相当な硬度を持っているようだ。


「こうなったら本気の本気でいくしかねえようだな」


 いつのまにかヴォルクが戻って来ていてそう息巻く。

 ものすごい勢いで吹っ飛んだわりには傷は浅いようだな。流石の丈夫さだ。


「ああ、出し惜しみをする余裕はない。全力でいくぞ!」


 俺がそう叫び奥の手を使おうとした瞬間……爆発が起きる。


 俺たちにではない。


 銀狼にだ。


「くくく。ようやく来たか」


 突如そう笑い出したのは軍人だ。

 いったいどういう事かと問い詰めようとした瞬間、俺たちを囲むようにあるモノが現れる」


「これこそが我がロシア軍が誇る第三魔兵器隊の魔戦車である! もう安心したまえ!!」


 そう、俺たちの目の前に現れたのは戦車の軍団だったのだ。

 俺も本物の戦車を見た経験は無いが、それでも明らかに異質と分かるフォルムだ。

 白銀に輝く車体は独特の流線形のフォルムをしており、この真っ白な世界に溶け込める効果がありそうだ。

 そして何より気になるのはこの戦車から感じる魔力だ。


 世界の魔兵器の発展具合は把握しているはずだったのだが……この戦車から感じる魔力は世界の平均を遥かに上回っている。

 いったいロシアはどうやってここまで急速に魔兵器を開発できたんだ?


「ハハハ! 放て放て!! あの犬っころを仕留めるのだ!!」


 戦車は次々に砲塔より青白い弾を銀狼に放つ。

 恐らく魔力を凝縮して精製したであろうその弾は着弾すると爆発し、中に閉じ込めてある魔力を対象に浴びせる仕組みのようだ。


「グゥ……ッ!!」


 超硬度の毛をまとう銀狼もこの弾幕は応えるのだろう、口を歪ませ苦悶の表情を浮かべている。


「いいぞ! そのまま続けろ!」


 軍人の呼びかけに砲弾の雨は更に勢いを増す。

 おいおい、このままじゃ銀狼の命がヤバいんじゃないか……?


「おい……」


「ギャオオゥゥッ!!」


 俺が砲撃をやめさせようとすると、銀狼は憎しみのこもった遠吠えを上げると猛スピードで走り出す。


 俺たちの反対側へ。


「逃げた……のか?」

「そのようだな。仕留めてもよかったのだが命があっただけよしとするか」


 俺が放心していると軍人が近づき話しかけてくる。


「紹介が遅れたな、勇敢なる御仁よ。私はロシア軍魔兵器隊所属グリゴリーだ、よろしく頼むよ」


 男はそう言うと、白い歯を輝かせ手を差し出してきたのだった。


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