第4話 共鳴
「ガウッッ!!」
狼の魔獣は、軍人の喉笛をかみ切らんと牙を剥き襲い掛かる。
「そこまでだ、勇猛なる牙!!」
俺が唱えたのは上級の岩魔法。
先端の尖った岩の柱を複数地面より生やすこの魔法は、攻防兼ねたお気に入りの魔法だ。
「キャウンッ!」
この魔法により襲い掛かった魔獣は吹き飛び、且つ岩の壁による追撃の阻止にも成功する。
「お、お前は……!?」
「話はあとだ。今は協力してやる」
俺は男にそう言い放つと岩の壁を飛び越え、魔獣の前に躍り出る。
「さて、やるとするか……!」
「グルル……!!」
狩りの邪魔をされ魔獣は相当頭に来ている様だ。全員目が血走り殺意に満ちているぞ。
だがビビってたら示しがつかない。
スマートに決めなければ。
「ギャウゥッッ!!」
魔獣は一斉に口を大きく開き突っ込んでくる。
狼魔獣の攻撃手段は三つ。
牙による噛みつき。
爪による引っかき。
そして氷属性の息吹。
この中でも特に厄介なのが息吹だ。
息吹自体の威力は低いが、当たると体が凍り動きが遅くなってしまう。
それだけは何としても避けなければ。
「まずは一匹……っと!」
迫りくる牙をかいくぐり俺は一匹づつ丁寧に顔面を殴り処理していく。
息吹は近距離戦闘時には使用しないためこれが一番確実で堅実な戦闘方法になる。
「とはいえこれは気が遠くなるな……」
確実とはいえ接近戦を続けていては効率が悪い。
魔獣が遠吠えすると近くの群れも来てしまうため、ジリ貧って感じだ。
しょうがない。勿体ないが魔力を使うとしよう。
「火凜!! アレをやるぞ!!」
「!! 了解です!!」
俺の考えを察した火凜は一旦戦闘を中止し、俺から魔獣の群れを挟んで逆側に移動する。
「火行・炸惨火!!」
そして、目標位置につくや火の魔法を使用する。
放たれた無数の火の玉は花弁のように放射状に広がり、魔獣の移動を阻害し一か所に固まらせる。
「ふふ、いい仕事だ」
現在俺と火凛は魔獣の群れを挟む形になっている。
これで前準備は完了だ。
「いくぞ! しっかり合わせろよ!」
「はい!!」
俺と火凜は同時に魔力を練り、これまたピッタリ一緒に前方へ手を突き出し魔法を発動する!
「「交差する火炎!!!!」」
ドンピシャのタイミングで同時に俺と火凛の手から放たれる炎の柱。
それは魔獣たちの隙間を縫い、群れの中央で交差し混ざりあう。
「今だ!! 弾けろ!!」
交差した二つの炎柱は混ざり合い巨大なエネルギーとなり、轟音を上げ一つの天へそびえる炎柱へと姿を変える。
立ち上がる炎は瞬く間に固まっていた数十匹の魔獣を燃やし尽くし塵へと変える。
「すごい……」
火凜は自分で放った魔法のあまりの威力にポカンとしている。
まさかここまでの威力になるとは思わなかったのだろう。
「これが噂の共鳴魔法か。すげえ威力だぜ」
そう、今俺と火凜で放ったのは『共鳴魔法』という特殊な魔法だ。
二人の魔力を同調させることで使用できる魔法なのだが、テレサ曰くあまりの難易度の高さゆえ滅多に使われることは無いらしい。
お互いの信頼関係と呼吸を合わせることが最も重要なのだが、なにせ信頼度でいったら俺は火凜を完全に信用し信頼している。火凜が本当に俺を慕っているかは不安だったがそれは杞憂に終わった。本当に良かった……。
もう一つの条件である呼吸を合わせるのも俺の共感覚で簡単に成功させることが出来た。
なので俺は思ったよりもあっさりと『共鳴魔法』の習得に成功したのだ。
この魔法は威力もさることながら、魔力の燃費が異常にいいのだ。
ゆえに魔力量が限られている今にはもってこいの魔法なのだ
「大将! やつら今のでビビったのか動きが鈍くなってやがるぜ!」
「よし!一気に決めるぞ!」
次に練るのは岩の魔力。
最初に使った魔法に似ている魔力だが今度はヴォルクの魔力の波長に近づけている。
「行くぞ!」
「おう!」
「「氷河の大重牙!!!!」」
俺が無数の岩の柱は生やすと、ヴォルクがその岩に氷のコーティングを施す。
氷のコーティングにより柱は巨大な氷の牙となり魔獣たちに襲い掛かる。
「ギャウンッ!!」
巨大な氷の牙は次々に生えていき、しまいには辺り一面がそれで覆われてしまう。
この分では魔獣は一匹も残っていないだろう。
「へへ、少しやりすぎちったかな」
「……そうだな」
魔獣はまだ結構残っていたため俺も強めに魔力を込めはしたがここまでになるとは……
恐らくこれはヴォルクのせいだろう。あいつの潜在能力には驚かされるぜ。
「お、終わったのか……?」
静かになったのに気付いたのか隠れていた軍人が出てくる。
ところどころ傷ついてはいるが元気そうだな。
「ああ、もう安全だろう。いったい何があったんだ?」
「わ、我々ロシア軍はとある生物の調査をし、遂にその生物を発見したのだが……共に調査していた仲間はみなそいつにやられてしまったのだ」
そう語る男の顔は青ざめている。
よほど恐ろしい目にあったのだろう。
「しかし魔獣なら全て倒したぞ? なにをそんなに怯えているんだ」
「ち、ちがう……」
「へ?」
「俺たちが負けたのは魔獣じゃないんだ!!」
「なんだって!?」
「何かくるぞ大将!!」
その瞬間、突如俺たちに降り注がれるのは強烈な殺気。
この世の全てを憎むかのような殺気は俺の思考を一瞬止める程であり、致命的な隙を生んでしまう。
「ぐっ……!!」
これはヤバい。
俺の直感が全力で警鐘を鳴らしている。
出し惜しみしてる暇はない!
「うおおおっ!! 王家の守護聖盾!!」
四人を囲むように展開される黄金の障壁。
神性の無い今の俺が使える防御魔法である。
ズゴオンッッッ!!
そして俺が魔法を展開した直後、凄まじい衝撃が俺たちを襲う。
「な、何ものだ……!」
何ものかの攻撃により俺の魔法には大きくヒビが入る。
伝説級のこの魔法と同格かそれ以上の攻撃が出せる奴がいるとは……予想外だ。
『ガアアアアアッッッ!!!!!!』
突如放たれる恐ろしい咆哮に鼓膜が痛む。
およそ人のモノとは思えない、相手は獣か?
ズゴオンッッッ!!
そして再び開始される攻撃により、とうとう俺の魔法は砕け散ってしまう。
「こ、こいつは……」
砕け散る障壁の向こう……そこにいたのは巨大な銀色の狼。
美しく煌めく毛を持ったその狼は神秘的なたたずまいとは似つかないほど表情を憎々しく変えこちらを睨みつけている。
そして……その額には、角が無かった。
「大将……!」
「ああ間違いない。訪問者だ」
『ウオオオオオォォォン!!!』
銀狼は開戦の合図とばかりに遠吠えを上げる。
どうやら簡単にはいきそうにないな。




