第4話 新たなる体
幻影自己人形と同じ性能を持つゴーレムを作る構想は、実は前々からあった。
しかしどう頑張っても、とある機能を実現することが出来なかったので完成することは無かったのだ。
それは魔力の自己回復機能。
様々な魔道具を用いても機械はしょせん機械であり、生物のみが使えるその能力を再現することは出来なかったのである。
そんな時に現れたのがあのキノコマンだ。
彼の持つ胞子には驚くことに自らの身体に適合した魔力を生成する力を持っていたのだ。
俺と賀ヶ山は急ぎこの胞子を解析し、俺の体になじむ魔力を生成できるように改造した。
そしてあらかじめ作っていた俺の姿そっくりのゴーレムに埋め込んだのだった。
「……そして完成したのがあのゴーレムさ」
「なるほど……あのキノコにそのような能力があるとは」
マーレは俺の説明を聞き終え、納得したようにフムフムと頷く。
先ほどの会議を終えた俺は、彼女を連れ自室に帰って来ていた。
内緒でゴーレムを作っていたことでマーレが拗ねてしまったため、詳しい説明をする必要があったからだ。
「本当に悪かったって、埋め合わせは必ずするから機嫌を直してくれよ」
「……デート」
「え?」
「デートしてくれたら許してあげます」
顔を真っ赤にさせ、頬を膨らませながらそんなことを言うマーレ。
なんだこの可愛い生き物は。
「わ、わかったわかった。仕事が落ち着いたらな。約束する」
「ふふ、約束ですよ♪」
俺が押し切られ了承するとマーレはコロッと態度を変えいつもの調子に戻る。
もしかして今までの態度は演技かと思えてくる豹変ぶりだ。
女ってこわい。
俺がそんなことを思っているとマーレは「そういえば」と俺に質問をしてくる。
「ところで肝心のそのゴーレムはどこに行ったんですか?」
「ああ、もうロシアに渡る準備をしているよ。魔王国内にいる限りいつでも俺とゴーレムは意思の疎通ができるからな。離れて行動する方が効率的なんだ」
その代わり魔王国を出てしまうと一切動向は分からなくなってしまう。
俺の事だから迂闊なことはしないと思うのだが……少し不安だ。
「まあ今は信じて待つとしよう。俺たちは俺たちの仕事をしなきゃな」
「はい♡」
こっちは任せな。
だからそっちは任せたからな、俺――――
◇
「へっくしゅん!!」
「大丈夫ですかジーク様?」
「お、おう大丈夫だ」
どうやら誰かが俺の噂をしているみたいだ。
人前で思いっきりくしゃみをしてしまったぜ。
うう、恥ずかしい。
「さて、話の続きをしようか」
俺、つまりゴーレムになった方のジークは現在カリンとヴォルクと一緒に円卓の間で会議中だ。
議題はもちろんロシアでの活動内容についてだ。
「今回の目的地はここ。かなりの豪雪地帯のようだから念入りに準備をしないとな」
俺はカリンとヴォルクに地図を指さしながら話す。
「確かにここらは人もあんまりいない危険な場所だぜ。油断してたら地元民でも凍えちまうぜ」
「となると厚めの防寒具……それに寒さをしのげるテントの様な物も必要ですね。私が手配しときます」
俺が助言するまでもなく二人はテキパキと計画を詰めていく。
うーん。楽ちんだが寂しい。
「過酷な環境であればあるほど魔獣は強くなる。そこらへんも気をつけなくちゃな」
俺は会話に参加しようとあらかじめ調べておいたロシア事情を口にする。
するとそれを聞いたヴォルクは神妙な顔になり、俺に向かって話を始める。
「確かにロシアの魔獣は強いぜ……だけどもう一つあの国には厄介な奴らがいる」
「厄介?」
「ああ。ロシア軍さ」
ロシア軍。
たしか一度は魔獣たちに壊滅させられかけたが、大統領が自ら現場でその手腕を振るったことにより事態は好転し、再建に成功。
現在では多数の魔兵器を所有する強力な軍隊になったはずだ。
「特にヤベーのが大統領……国民は『閣下』と呼んでる奴だ。一度だけ見たことがあるが背筋が凍りそうになったぜ」
ヴォルクをしてここまで言わせるとはよほどの人物なのだろう。
気をつけねば。
「とりあえず今日出来ることはこんくらいかな? 今回は少人数での作戦だから過酷なものになるだろう。二人ともしっかり休んでくれ」
「はい!」
「うっす!!」
二人は元気よく返事をし、部屋を出ていく。
俺はそれを見送ってから自らの準備を始める。
「魔道具がいらない分荷物は軽くて済むけど……やっぱり不安になるな」
この体では魔道具が使うことが出来ない。
その理由はおそらく特殊な魔力生成方をしているからだ。
ただでさえ多くなかった魔力の量も半分になり、神力も仮初の体に宿る事は無かった。
だけどそれがどうした。
魔道具と神力だけが俺の全てじゃねえ。
それに無くしたモノがあれば得たモノもある。
今からそれを使うのが楽しみだぜ。
「待ってろよ世界。その謎は俺が全部解き明かしてやるからな」
俺の心には不安など微塵もなく、冒険のワクワクで満たされていたのだった……




