第2話 会話
「なんだこれは……」
「マッシュシュマッシュマシュマシュマッシュ」
大広間に到着した俺たちを出迎えたのは2mをこえるほどの大きさのキノコだった。
デカイだけならまだいいのだがこのキノコ、なんと柄の部分に顔がありやがる。
しかも口からは意味不明な言語を発しているので、その顔は模様でもなくちゃんとした顔みたいだ。
「じーくさまー!」
「さまー」
俺が呆気にとられていると、アンとスイがボフッ! と俺の体に飛びついてくる。
俺がその頭を優しくさするとまるで子犬のように嬉しそうな顔でグリグリとその頭を手に押し付けてくる。
今日も元気いっぱいなようで何よりだ。
「アンにスイよ、この不思議な生命体はお前たちが見つけのか」
「うん! スイとねー、もりをあるいてたらでてきたの!」
「ん、歴史的発見」
「そうかそうか。よくやったな」
しかし先ほどの報告では『ツノ無し』を捕獲したとの事だった。
この不思議生物は本当に魔獣なのだろうか?
こんな生物見た事ないぞ。
「ご足労いただきありがとうございます。ジーク様」
俺がキノコをじろじろと観察しているとシェンに声をかけられる。
どうやら俺を呼ぶように手配してくれたのはシェンのようだ。
「勝手ながらこの生物……のようなモノは調べさせていただきました」
「そうか。それで何か分かったのか?」
俺がいつものように詳細ときくと、シェンはいつものように眼鏡を光らせ俺の望んだ答えを返す……ことはなく、珍しい事に頭をポリポリとかき申し訳なさそうにしている。
「それが……申し訳ない事にこの生物の正体は分かりませんでした。遺伝子構造はきのこに非常に酷似しているのですが、中身は全くの別物。生体スキャンをしたところ脳や肺と思われる器官も存在していました」
「なるほど……」
「更にこの生物の言葉は地球上のいかなる言語とも合致せず、正直言って解剖するしかもう調べようがありません」
解剖……は最後の手段にするべきだろう。
今のところこの生物は表情から察するに友好的そうだ。
正体の分からない者と敵対するのは避けたい。
そしてなにより、こいつは何か俺の知りたい事を握っている気がするのだ。
「スイ、こいつとはどのようにして出会ったんだ?」
「ん、私とアンで国近くの森で『何もしないから出てきてー』って思念波を飛ばしながらツノ無しを探していた。そしたら急に地面からそのキノコが出てきて助けを求めてきた」
「ん? こいつの言ってることが分かるのか?」
思わぬ返答を受け、質問を返すと今度はアンが答えてくれる。
「えーとねー、他の魔獣さんよりはぼんやりだけど、なんとなくならわかるよ!」
やはりただのキノコとは違い思考回路が存在するのは間違いないみたいだ
だとしたら……俺なら何とか出来るかもしれない。
久しぶりに部下達にいいところを見せれるかもしれない。
「くくく、どれどれ私に任せたまえ」
俺はキノコマンの目の前に進む。
……近づくとデカイな。
目で何やら訴えかけてきて怖い。
「マママママッシュ。シュマッシュシュ」
なるほど、さっぱりわからん。
だが俺には言葉の壁を越える力がある。
まさに今日のために目覚めたかのような力が。
「行くぞ。『共感覚・言語同調』!!」
俺はキノコマンと感覚を繋げることを試みる。
すると、意外なことにその行為はあっさりと成功してしまう。
「よし、ではやるか」
それでは俺の持ってる言語感覚、その中でも魔王国で使われている日本語を送り込むとしよう。
そしてそれと並行してこいつの持っている不可思議なキノコ語を貰うとしようか。
「マッ……!」
どうやらキノコマンは受信を開始したようで体を強張らせる。
どれどれ俺も貰うとするかね。
ちなみに俺は何回も経験しているのでその痛みには慣れっこだぜ。
……とその時まではそう思っていた。
しかし。
「がぁっ!! こ、これは!?」
異質。
俺に流れ込んできたその感覚はあまりにも異質だった。
言葉が難しいという次元ではない。
言葉の使い方がそもそも違うのだ。
通常俺たちは口にする音の種類で言葉を判別するが、こいつらは違う。
なんと、言葉の音階で会話をしているのだ。
『マッシュ』という単語には何の意味もない。ただの鳴き声みたいなものだ。
だがその鳴き声の低音と高音の順番で会話をしていたのだ。
「くくく、これではシェンも分からんはずだ」
俺は確信する。
やはりこの生き物は特別な存在だ。
何としても、その謎を解き明かしてやる。
「さて、私の喋ってることが分かるようになったかな? それともマーマッシュマシュシュ(そちらの言葉で喋ろうか?)
「気遣い感謝する。しかしその必要はない」
「!!」
そのキノコから発せられた渋い声に大広間にいる人間はみな驚き静まり返る。
「そうか。私はクリーク・O・ジーク。この国の代表だ」
俺は日夜欠かさず練習している気品あふれるお辞儀をかましてやる。
まあ文化が違うだろうから意味は無いだろうが。
「ふむ。ワシはMr.マッシュ。気軽にミスターと呼んでくれ、黒い御仁よ」




