第7話 覚悟
「ここらへんでいいか」
町を出た俺は部下たちを率いて町を一望できる丘へと降り立った。
そこから見える光景は悲惨なものだった。
町に存在した建造物はそのほとんどが崩れ去っており、もう復興できるレベルではなくなっている。
人の気配もなく、火が町の残骸を燃やす音だけが悲しく響いている。
「お待ちしていましたジーク様」
俺が町を見ていると町の外で待機していたシェンに声をかけられる。
その傍らには浮遊するカゴのような物があり、数名の死体が丁寧に詰められている。
「神秘の聖痕持ちは全員回収いたしました。いつ次の段階を開始しても構いません」
「そうか」
この作戦の開始前、シェンの打診もあり強力な聖痕持ちは研究の為その死体を全て回収することになった。
死者を冒涜する様で気が引けるが、これも国民を守るためだ。
俺一人の感情でやめるわけにはいかない。
しかし一つ気がかりなのはあの青年がカゴの中にいない事だ。
神秘の聖痕持ちではなかったのだろうか?
まあ見逃していたとしても実験体が一つ減るだけだ、いいとしよう。
「よし……始めるか」
俺は覚悟を決め、町に向かい手をかざし魔力を練り始める。
「範囲指定。効果量指定」
イメージするのは燃え盛る炎。
全てのモノを飲み込み食らい自らの糧にする貪欲なる赤の力。
「全てを喰らえ 過剰なる焼却!!」
俺が魔力を解放すると同時に町の中心部より大きな火柱が音を立てて出現する。
それは次第に大きくなり、やがて町一つを飲み込む大きさになる。
「おお、なんと見事な……!」
「さすがジーク兄だぜ!」
「私に負けず劣らずの美しき魔法……」
部下達は感動しているが俺にはちっとも喜びの感情まど湧かない。
いったいどれだけの命がこの町で生まれたのだろうか。
どれだけの人が出会い、別れ、その命を全うしたのだろうか。
俺は、それらすべての事象を無駄にしたのだ。
「……これくらいでいいか」
俺が魔法を解除すると火柱は消え、焼け焦げた大地がその姿を現す。
人の姿はおろか建物の残骸すら残っておらず、そこにはただただ焼け焦げた平らな大地が残るのみになった。
とても数刻前までそこに町があったとは誰も思わないだろう。
「……これにて本作戦を終了とする。各自出発準備をしてくれ」
俺はそう命令すると、最後に町があった場所を一瞥する。
俺は今回の事を忘れない。
俺のエゴで死んだ命があったことを。報われない思いがあったことを。消え去った文化があったことを。
今後もずっと忘れず背負って生きていく。
だから、どうか
「俺を、許さないでくれ」
◇
「……なるほど。こんなことするのはあの国ぐらいだろうな」
とある国の執務室。
スーツに身を包んだ男が部下に渡された書類に目を通すと、彼は書類を机に置き疲れた様子でそう言った。
「ではやはり……」
「ああ、一日で町をまるごと焼き尽くすとはな。全く恐ろしい連中だよ」
男は部下に自嘲気味にそう話す。
「しかしあのカルト集団が消えたのは悪い話ではない」
「そうですね。これであの土地を有効活用できます」
「違うよ」
「え?」
「危険分子が我が国から消えたことでようやくあの計画を進めることが出来る」
男はその顔いっぱいに笑みを浮かべ、言い放つ。
「連合軍を作る。早速各国に通達しろ」
こうして、世界は動き出す。
より苛烈で、過酷で、残酷な方向へと。
それぞれの『正義』の為に――――
◇
「はぁ……はぁ……」
とある地下水路。
大昔に作られたそこは今や記録から忘れ去られた場所であり、ごく少数の農民が緊急時に水を引く際に使用するのみであった。
そこを歩き進むのは一人の人物。
その背には人を担いでいるが、その人物は既にこと切れており二度と動くことはない。
「待っててね……絶対仇は取るから……」
その言う人物の瞳は狂気に侵され酷く濁っている。
しかしその狂気は最近発現したものではなく、幼少のころから生まれ育まれてきたモノだ。
「あいつだけは殺す……何を犠牲にしてでも……絶対に許さない……!!」
そう言うとその人物は立ち止まり、背負った者へ狂気と親愛がこもった笑みを向ける。
「だから少し待っててね……ウーゴ」
見逃された狂気は、地の底で膨れ上がりいずれ地表に這い出るだろう。
しかし、それはまだ先の話。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
次章からは今章とは変わり明るい話になる予定です。
引き続き応援のほどよろしくお願いします!!




