第4話 邂逅
衝撃の事実が判明したあと、僕らは2時間以上かけておババに聖痕を彫られた。
ローナは頬にハート型の聖痕『愛』を、右手に手の形の聖痕『蒐集家』を彫った。
僕の『正義』は特殊なモノなので背中から手足まで全身に聖痕をいれることになった。
全身に刺青を入れることに少しは恐怖心があったが、おババの腕は凄く全然痛くなかった。
「ふぉふぉふぉ。これで完了じゃ、男前になったぞウ―防」
「ありがとうおババ。嘘みたいに体が軽いよ」
聖痕は完成した時点で効果を発揮する。
僕の体も魔力が満ち溢れていて、今にも爆発しそうなくらいだ。
「すごい魔力……! やっぱりウーゴはすごいよ!」
羨望のまなざしで僕を見るローナ。
天にも昇る気分だ……。
「あまり浮かれる出ないぞウ―防。お主は『神秘の聖痕』に選ばれたんじゃ、軽率な行動は出来んぞ」
「分かってるよおババ」
『神秘の聖痕』。
それは選ばれしものにのみ宿る伝説の二十二種類の聖痕だ。
そのどれもが普通の聖痕を超える力を持ち、『神秘の聖痕』を宿したものは英雄として祭り上げられる。
この後行われる町の人総出の集会でもきっと僕が紹介されることだろう。
「なんにせよおめでとう。まさかこの年で『神秘の聖痕』を彫れるとは……」
再び目元を覆うおババだが、今度は本当に涙を流しているようだ。
『神秘の聖痕』を彫るというのは彫り師にとっても名誉なことなのだろう。
「それじゃおババ、そろそろ行くよ。集会までに力を試しておきたいしね」
「うむ。また集会でな」
こうして僕たちは新たな力を得てテントを抜けた。
「ふふふ♪ 改めておめでとうウーゴ。『正義』なんてウーゴにピッタリだね♪」
「そうかな……」
僕は頭をポリポリかきながら気恥ずかしそうにそう返す。
未だに信じられない。
僕が『神秘の聖痕』に選ばれたなんて。
しかし身体に刻まれたこの模様がそれが事実だと物語っている。
「それでこの後はどうするの?」
「まずはおばさんに報告に行こう。そのあとは聖痕の力を少し練習してから集会に向かおうか」
「うん!」
こうして僕たちは一度帰路についた。
ふふ、おばさん喜ぶだろうなあ。
◇
僕たちの結果を聞いたおばさんは文字通り飛んで喜んでくれた。
家に余裕がないというのに無理してご馳走を作ってくれて、幸せなひと時を過ごした。
お腹を満たした僕たちは、家を後にして町のはずれで練習をすることにした。
ローナの『愛』は回復系の能力で、対象を思えば思うほど回復力が増す能力だった。
対して『蒐集家』の方は……よく分からなかった。
何かを集める能力なのだろうが、その何かがさっぱりだった。
おばさんにも聞いてみたけど心当たりが無かった。
まあその内分かるか。
そして肝心の僕の『正義』も試してみたが……凄かった。
なんと身体に残る聖痕に力を込めると僕の姿が変わったのだ。
一点の曇りもない白銀の鎧に身の丈ほどの大剣と大楯。
正義の騎士を具現化したような姿はあらゆるものを威圧するだろう。
剣を一振りすれば真空波が飛び、軽く跳躍しただけで一軒家を軽々飛び越すほどジャンプできてしまう。
おババの言っていた通り軽率に力を使えば甚大な被害が出るだろう。
気をつけねば。
そんなことをしているとあっという間に時間は過ぎ、集会が始まる時間になってしまう。
さすがに『神秘の聖痕』持ちの僕がサボるわけにはいかない。
僕とローナは急ぎ集会会場に向かうのだった……
「うわあ! もう人でいっぱいだねえ!」
「集会には町中の人が集まるからね」
中央広場からはテントが撤去され大きな舞台が建てられていた。
どうやらもう始まっていたらしく町長が舞台の上でいつもの長ったらしい話をしていた。
内容はいつもの我らの誇りだとか邪教徒は許さんとか聞き飽きた内容だ。
僕とローナはそんな話を聞き流しながら舞台から少し離れたベンチに腰掛ける。
すると。
「失礼。隣に座ってもよろしいかな?」
「え? いいですよ」
見覚えのない男性に声をかけられる。
黒髪のアジア人だ。観光客だろうか? 珍しい。
「君はこの町の人かい?」
「ええ、ウーゴと言います」
男性は柔和な感じで話しかけてくる。
魔力を感じないから安全だとは思うが……少し怪しい。
とはいえ今の僕には『神秘の聖痕』がある。
何とかなるだろう。
「ところで先ほどから町長の話を聞いていたのだが……君たちの町は長い間戦ってるのかい?」
「ええ、魔力を悪しき使い方をする邪な魔人『邪教徒』と僕たちは長い間戦っているんです」
僕らの町の歴史は戦いの歴史だ。
『邪法』を使う凶悪な邪教徒に対し、僕らは正しき力『聖痕』で対抗してきた。
奴らを根絶やしにするまで真の平穏は訪れないだろう。
「邪教徒……か。私は外の世界でそのような存在は聞いた事がないのだがねえ」
「当然です。奴らは数の多さにモノを言わせ自分たちが正しいという風に振舞っているんです」
奴らの事を考えるだけで虫酸が走る。
神聖なる魔力をいたずらに使い、世界を汚す愚か者。
僕らは幼少のころからそう教わっていたため惑わされることはない。
「もし……もしもだよ。間違っているのは自分たちだとしたら君はどうする?」
男性は不思議なことを聞いてくる。
何を言ってるんだろうか。
|僕たちが間違っているわけないじゃないか《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。
全く大人が聞いていたら邪教徒認定されてもおかしくないぞ?
ヒヤヒヤさせないでおくれよ。
「その心配はありません。僕の正義にかけてね」
「正義……ね」
男性は僕の言葉に納得したのか前に向き直り町長の話に耳をかたむける。
僕も暇だし町長の話を聞くか。
『……我々は戦わなければならない!! この身に宿る聖痕に誓って!!』
いつもの台詞だ。
いい加減言い飽きないのだろうか。
『こんな酷い世界に変わってしまったことで邪教徒は激増してしまった!! 我々は行動せねばならない!!』
これはその通りだ。
魔力大規模感染が起きてから邪教徒は膨れ上がってしまった。
嘆かわしい事だ。
『そこで世界を浄化する手始めとしてある国を滅ぼすことにした!!』
おお! 町長も思い切ったことをするな。
という事は今一番邪教徒が集まってるあの国だろう。
いいね。僕の初陣に相応しい相手だ!
僕が熱くなってると思わぬところから声をかけられる。
「君は戦争反対ではないのかい?」
「え?」
いいところで男性が横やりを入れてくる。
まあ部外者には聖戦の重大さが分からないか。
「僕だって戦うのは好きじゃないですよ。でも邪教徒は別です、奴らは根絶やしにしなくちゃいけない」
これは理屈ではない。
もはやこの町に住む全員の本能ともいえる。
この感情は善悪を超えた先にある。
「そうか……」
男性は僕の言葉に納得したのか会話を打ち切る。
その顔はどこか悲しげだ。
僕は話す相手を失ったので再び町長の話に耳を傾ける。
『君たちもよく知ってる国だ!! 今更口に出すのもおぞましいが……あえて言おう我らの敵を!!』
町長は握りしめた拳を振り上げ叫ぶ。
『その名は魔王国ゾロ・アスト!! 住民全員が邪教徒という腐りきった国だ!!』
魔力大規模感染のせいで世界に住む大勢の人に魔力が宿った。
それだけならよかったのだが、何とおぞましい事にその人々は邪法……外の世界で言う魔法を使い始めたのだ。
僕たちの町では邪法を一度でも使った時点で邪教徒認定され極刑にかけられる。
それほど邪法はいけないモノなのだ。
僕たちが粛清に乗り出そうとした矢先、魔王国とかいう馬鹿げた国が生まれあろうことか邪教徒達を匿ったのだ。
やっと奴らを討てるんだな。
『なんと今回新たな『神秘の聖痕』持ちが誕生した!! これも神の啓示だろう!! 私たちはかならずっぶ……』
突如として町長の演説が止まる。
何事かと目を凝らして壇上の町長を見ると……
その体に大きな刃が突き刺さっていた。
「……!! 何が起きたんだ!!」
「ウーゴ!!逃げて!!」
ローナが僕の方を見て叫ぶ。
いや、正確には僕ではなく更に奥だ。
僕はそれに気づきその人物に向き直る。
「あなたはいったい……!」
そこにいたのは先ほどまで僕と話していた男性だ。
しかし先ほどまでとは違いその体からは魔力が溢れてる。
ベンチから立ち上がったその男は右手を町長が立っていた場所へと向けている。
「お前が……お前が町長をやったのか!! いったい何者だ!!」
僕の問いに男は指を鳴らし答える。
その音とともに男の体を覆う漆黒の鎧。
まさかこいつは……!!
「名乗り遅れてすまない。私はクリーク・O・ジーク」
「君たちの言うところの『邪教徒』さ」
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