第15話 夕焼けは黄金色
『ゴルディオ。お前を我が配下にする』
「……は? 何を言っているんだ?」
理解できないといった表情を浮かべるゴルディオ。
しかし俺はこの案に絶対の自信がある。
「では聞かせてくれ。なぜ出来ないと言える」
「そんなの簡単だ。俺様は大衆の目の前で破壊活動をした。国民は俺様によくない印象を持っているだろう、それにあの狼君もな」
「その程度の事なんの問題もない。国民なら俺が説得できる、ヴォルクに関しても俺が言えば納得してくれるだろう」
「そんなに上手くいくもんか?」
「いくさ」
幸いな事にあの騒動で市民に怪我人は出なかった。
壊れた店や物品も魔王国で修繕したので怒ってる者も少ないだろう。
「だとしても何故俺様を仲間に?」
「お前は自らの命を差し出すと言ったが…………そんなものはいらん!!」
「な! 俺様は十天星の一員だぞ! その首にどれだけ価値があると思ってやがる!!」
「なるほど、ではその大層な首に首輪を付けれたらどれだけ私の名は上がるだろうか?」
「!!」
そう。何も殺すだけが勝利ではない。
前の俺は目が曇ってしまってその事に気づかなかったが魔王国は元々あらゆる人種をかき集めて誕生した国だ。今更多少肌の黒いオッサンが入ったところでなんの問題もない。
「……本当にいいのか? 俺様が裏切る可能性だってあるんだぜ?」
「ああ、その時はまた殴って目を覚まさせてやるさ」
そう言って俺は手を差し出す。
「来い。お前もお前の大切なモノも俺が守ってやる」
ゴルディオは俺の手をしばらくジッと見つめ、その後視線を俺の顔に移す。
「たいした奴だぜ。しょうがねえ! この俺様が力を貸してやる!!」
黄金に輝く夕焼けを浴びながら、俺とゴルディオは固い握手を交わした。
◇
「……というワケで新しく仲間になったゴルディオだ。仲良くしてやってくれ」
「よろしくなっ!!」
円卓の間に暑苦しい声が反響する。
幹部の面々もこれには苦笑いだ。
ちなみに腕は俺の部下で一番の回復魔法使いに治させた。
あの騒動の次の日、ゴルディオを伴い幹部会議を開いた。
議題はもちろん今回の騒動とゴルディオの件についてだ。
「くくっ、まさかこやつと仲間になる日が来るとはのう。長生きはしてみるもんじゃ」
「人格はアレっすが……十天星が仲間になるとは。戦力として申し分ないっすね」
「このおじさんへんなのー!!」
うん、おおむね好評みたいだな。
一人を除いて。
「おいオッサンあんまり調子乗ってると痛い目見んぜ? 俺はまだ許してねーんだかんな!」
昨日からヴォルクはあの調子だ……
いいようにやられたのが余程悔しかったのだろう。
「大将を馬鹿にしといて仲間になろうなんざ恥ずかしくねーのかよ!」
……ん?
何か誤解してないか?
そういえば話を聞かないから無理やり寝かせた記憶があるな。
「なんだよあの時のアレは演技さ。それに今はお前の大将の部下なんだぜ? 馬鹿にしてるワケないだろ」
「……え? そうなのか?」
ヴォルクはキョトンとした顔で俺の方を見るので俺はコクリと頷く。
「むむむむ……ならいいか! オッサンよろしくな!!」
ゴルディオの背中を笑いながらバンバン叩くヴォルク。
そうか、俺の事であんなに怒っていたのか。少し恥ずかしいな。
「それでは今後の彼の扱いについては私から」
シェンが紙を配り説明を始める。
昨日の夜俺の考えを話してから一晩で資料をまとめてくれた。
もうあいつ一人でいいんじゃないか?
「表向き彼の会社と魔王国は対等な関係で友好条約を結んだことにします。しかし実際はゴルディオカンパニーは我らの魔王国に吸収する形になります」
「ほう、表向きは。のう」
「こうしとけば今まで通り商売を続けられるからな。それに魔王国と繋がりを持ちたいけど直接は言えない奴らの窓口になれる」
そう、世界にはまだ協力できる国や組織があるはずだ。
ゴルディオにはその窓口になってもらう。
「それにあの魔王国と取引をしている唯一の会社となれば評価はうなぎのぼりよ! 魔王国への支援金を差し引いてもお釣りがくるぜ!」
ガハハと高笑いするゴルディオ。
ゴルディオ会社の倉庫と魔王国は転移門でつなぐ予定だ。
魔王国の特産品を売り出す計画も進んでいる。
魔道具は売らないがな。
「今までなかった貿易という手は確実に国力を上げてくれるでしょう。今回そのパイプが手に入ったのは大きい。ここまで計算づくとは流石ジーク様」
「お、おうそうだな」
んなワケあるか。
ゴルディオは怪しむ目で俺を見るが無視だ。
「ところで会長。俺様の役職はないのか? かっこいいのを頼むぜ」
ゴルディオは部下になると決めてから俺の事を会長と呼んでる。
聞くと「社長の上は会長だろ?」といった答えが返ってきた。こいつはよくこんなんで会社を動かせるな。
「ああ、お前には特別幹部として魔王国のバックアップをしてもらいたい」
「特別……いいね。俺様にピッタリだ」
「大将! なんだその……特別幹部ってもは。俺たちより偉いのか!?」
特別という言葉に焦りを感じたのかヴォルクが焦った様に聞いてくる。
そういえば話してなかったな。
「幹部が魔王国の表の顔なら、特別幹部は魔王国の裏の顔……表舞台に立たず陰から魔王国を支える者の役職だ」
今後おおっぴらには言えない汚い仕事も増えてくるだろう。
その為に用意したのが『特別幹部』だ。
大っぴらには公表されない彼らは魔王国のジョーカー的存在になるだろう。
ちなみに幹部連中も存在を知らない『特別幹部』は何人も存在する。
いずれも強力な力を持った実力者たちだ。
「さて語る事は尽くしたかな……」
「はい。それではこれにて閉会させていただきます。疑問があるものは私の元まで来てください」
「それでは、解散!!」




