第10話 金色の招待状
謎の男の侵入があった日の夜。
俺と幹部たちは円卓の間に集まっていた。
もちろんあの男の件を話すためだ。
ちなみに数名の幹部は来ていない。
イブキは街の復興作業に従事している。
そしてアンとスイはもう寝かしてある、今回の件に関わらせる気はないからだ。
「さて、まず話すべきは……分かってるな、テレサ」
「うむ。まずはわしからあの男について話させていただく」
まずはあの男が何者かを知らなければ話が始まらない。
申し訳ないがテレサには包み隠さず話してもらう。
「あの男の名は『ゴルディオ』。わしと同じ『十天星』の一員じゃ、『金星のゴルディオ』と言えば名の通った魔法使いじゃよ」
「あの男が『十天星』……」
『十天星』。それは世界中から選び抜かれたたった十人の魔法使いで構成される集団だ。
『十天星』は高い魔法技術と魔法業界への貢献が認められた者に与えられる称号の様なもので、集団と言っても普段は協力したりすることはほぼ無い。
ではなぜこのような集団が存在するかと言うと、それは『十天星』になる時に課せられる制約があるからだ。
それは「魔法使いが存続の危機に瀕した時、力を合わせそれに立ち向かう事」である。
そう。
『十天星』とは魔法使い最後の防衛線なのである。
「『十天星』だか何だか知らねえがそんなの関係ねえ! あの野郎ぜってえ許さねえ! 次会ったらボコボコにしてやるぜ!!」
顔を真っ赤にして憤慨するヴォルク。
どうやら余程悔しかったみたいだな。
「落ち着くんじゃ。『十天星』はみな加入する際の見返りとして『星の力』を授かっておる。油断は禁物じゃよ」
星の力……か。
それが奴の異常な硬さの秘密だろうか。
だがあの時の俺とヴォルクはまだ本気ではない。
次こそはその力ごとねじ伏せてやる。
「ところでテレサよ。奴の目的は分かるか」
俺がテレサに聞くと彼女はしばらく考え、喋る。
「……正直なところ、よく分からぬ」
どうやら思い当たりはないようだ。
まあいい、どんな目的があろうと俺の国と仲間を傷つけたことに変わりは無いのだから。
「そして奴の置いていったこの招待券だが……3枚しかない。テレサよどう思う?」
「魔法的な効果が付与されてる可能性を考えて3人で行くのが得策じゃろう。力押しで総攻撃をかけてもいいがの」
総攻撃もいいが、奴は今までの雑魚とは違う。
下手に動いて大事な兵を失うことは避けたい。
「ここは少数精鋭で行く。念のため別荘とやらの外に兵を集めておくが中に入るのは3名にする。奴に詳しいテレサは連れて行くとして……あと一人はどうするか」
俺が幹部たちを見渡すと、そのうちの一人が待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。
「俺に行かせてくれ」
もちろんヴォルクだ。
俺は別に構わないが他の連中はどうなのだろうか。
マーレを見ると、彼女は俺に信頼して待ってますとばかりに強い眼差しを送ってくる。
照れるぜ。
シェンもやれやれといった感じで肩をすくめているので、どうやら譲ってくれるみたいだ。
そして問題の虎鉄だが……
「漢にはやらねばならぬ時がある。それが今なのだろう? 行くがよい、留守は拙者が守り通して見せよう」
「虎鉄……サンキューな! これでジーク様を馬鹿にした借りを返せるぜ!!」
『『『ハア!?』』』
幹部たちの声が綺麗にハモる。
仲いいなお前ら。
「待ちなさいヴォルク!そんなこと聞いてないわよ! わたしが行くわ!!」
「全く……とうとう私が行く時が来たようですね」
「拙者、敵、斬る」
「なんだよおめえら譲ってくれたんじゃねえのかよ!?」
騒ぐ彼らを宥める内に夜は更けていくのだった……。
◇
次の日の朝。
俺とテレサ、そしてヴォルクの3人は指定された場所に来ていた。
そこに建っていたのは全てが黄金で出来ている大きな邸宅だった。
見ているだけで目がチカチカするぜ。
ちなみに離れたところには虎鉄を筆頭にした別動隊を待機させてある。
「それにしても悪趣味だな……」
「全く、感性を疑うのお」
「そうか? 割とイカしてるじゃねえか」
俺とテレサがゴルディオの趣味に辟易としていたがヴォルクの感性にはマッチしたようだ。
もしかしたら似た者同士なのかもしれない。
そんな会話をしながら邸宅の前に行くと、これまた黄金で出来た立派な門の前に一人の女性が立っていた。
スーツ姿に眼鏡が光るいかにも仕事のできるキャリアウーマンといった感じだ。
「よくいらっしゃいました。私はゴルディオ様の秘書、リアと申します」
「招待感謝するよ。良き一日になる事を祈っているよ」
俺は心にもない事を言ってリアと名乗う女性に招待券を渡す。
「……確かに確認しました。中に案内いたします」
スタスタと中に歩き出し先導する彼女。
いいぜ、もうちょっとこの茶番に乗ってやるよ。
「行くぞお前たち。気を抜くなよ」
「くくっ、お任せれ。なのじゃ」
「腕が鳴るぜえ!」
気合満々で臨む俺たち。
この時の俺はまだ、あんな結末になるなんて思ってもいなかったのだった……




