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閑話2 孵化

 俺の魔力量は多くない。


 魔人全体でみれば中の上くらいはあるが幹部連中と比較されたらぶっちぎりで最下位だろう。ゆえに魔力を貯める魔道具と魔力を急速回復させる魔道具で補っているのだが……


「ふぎぎぎぎぎ……!!」


 このタマゴ、回復速度を遥かに上回る速さで魔力を吸い取りやがる。


 そしてみるみる内に貯蔵していた魔力も無くなっていく。

 ……これ、マズくね?


「なかなかの大喰らいみたいっすね……」


 見ればイブキの額に脂汗が滲んでいる。


「大丈夫か?」

「へへ、当然っす。こんなんでへばるほどヤワな鍛え方してないっすよ……っと!!」


 ゴウ!! と更にイブキの体から魔力が迸る。

 まだこんな力を隠し持っていたのか。


「うおー!!」

「むーー!!」


 アンとスイも出力を上げる。

 俺も負けてられないな。


「ふおおおおぉぉっ!!」

「はああああぁぁっ!!」

「おおおおおぉぉっ!!」

「やああああぁぁっ!!」


 4人の魔力が折り重なりタマゴに注がれる。


 不思議な感覚だ。

 バラバラなはずの魔力の波長が重なり結びつく感覚。

 むず痒いが心地いいぜ。


「ん!? 何かタマゴから音がするっす!」


 耳をすませば確かにタマゴの天辺よりコンコンと殻を叩く音が聞こえる。


「もうすこしみたい!」

「ん!」


「よし! 息を合わせろ!!」


 共感覚(シナスタジア)の力を使い4人の心を連結リンクさせる。

 波長が完全に連結リンクされると俺たちの魔力は数倍に膨れ上がる。


「すげえっす……!! こんな現象見たことも聞いたことも無いっすよ!」

「ふふ、『共感覚(シナスタジア)魔力同調フルシンクロ』とでも名付けようか」


 俺の能力とこいつらとの信頼関係があって初めて使える技だ。

 今後役に立ちそうだな。


「ん! ヒビが入った!!」


 スイの言葉通りタマゴのてっぺんにヒビが入る。


 そしてそれはどんどん広がっていき……




 パキン!!




『おお!!』


 軽快な音と共に生まれたのは……


『きゅい!!』


「これは、ヘビ……?」


 タマゴより顔を出したのは漆黒の鱗に包まれたヘビのような生き物だった。

 その生き物は俺を真っすぐに見てきゅいきゅい鳴いている。かわいい。


「ジーク様の事を親だと思ってるんじゃないすか? 抱いてあげると喜ぶっすよ♪」

「そうか? では……」


 俺はタマゴの中に手を入れ胴体と思わしき所を掴む。

 そしてそのまま優しく持ち上げてやると……


「な!?」

『きゅい♪』


 その生き物には手足があった。

 そして尻尾と立派な爪。極めつけにその背中には……翼が生えていた。


「まさか……竜!?」

『きゅい♪』


 俺の言葉に鳴き声で返事をする竜。

 どうやら言っていることを理解できているようだ。


「そんな!? 本物の竜がいるなんて聞いた事無いっすよ!」


 イブキが驚くのも無理はない。

 地球上にいる魔獣は全て地球に存在していた生き物をベースにしている。

 ヘビが魔獣化してもこうはならないはずだ。

 おまけに全ての魔獣に存在するはずの角も生えていない。


「かーわいー!」

「ん。よし、よし」


 竜を撫でまわす2人。

 竜は撫でるたびにきゅいきゅいと甘えるような声を出している。


「まあ今のところ害は無さそうだし育ててみるか。よく懐いているようだしな」

「そうっすね。何故かあーしと魔力の波長も近いですし」


 それにしても不思議な存在だ。

 育てているうちに謎が解ければいいんだが。


「それでこの子の事は公表するんすか?」

「いや、こいつはあまりにも珍しい。狙われる可能性があるから止めておこう。


「了解っす。他の幹部連中にはどうするっすか?」


「くく、折角だ。秘密にしてこいつが大きくなったら脅かしてやろうじゃないか」


「ひひ♪ジーク様もワルっすね!」

「たのしそー!!」

「ん。興味深い」


「それじゃ決まりだ。ちゃんと秘密にしろよ?」


『はーい!!!』












 ◇










「おや、ジーク様。こんなところまでどうされましたかな」


「ちょっとお前に面倒を見て欲しい奴がいてな」

「ほう、それはそれは。私は全然構いませぬぞ」


「助かる。それでこいつ……そういや名前を決めてなかったな」


 どんな名前がいいだろうか。

 カッコよくて強くなりそうな名前がいいな……


「決めた、名前は『アジー』。よろしく頼むぞ」


「お任せ下され」


 暗い空間に「きゅい」と嬉しそうな声が響き、消えていった――――


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