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第3話 ナグルファル

「こ、これは……!!」

「ふふふ、驚いていただけたかな?」


 明朝、俺は黒蓮教の二人を連れ魔王城のすぐ近くにある開けた場所に来ていた。


 そこにあるは宙に浮かぶ木造の巨大な船。

 黒い船体は光沢を帯び、船の側面からはこれまた巨大なおぞましい爪が伸びている。

 そして立派に広がる帆には魔王国の紋章がデカデカと描かれている。


「これが我が国の保有する魔導船『神殺しの巨船(ナグルファル)』だ。気に入っていただけたかな?」

「ハハ……!! 凄い! これなら奴らを殲滅できる!!」


 どうやら気に入っていただけたようだ。


「さて、乗り込むとしようか。空間転移テレポーテーション


 俺は空間魔法を用い船のデッキに転移する。


「待たせたな」

「とんでもございません」


 船のデッキには既に部下が揃い膝をついて出迎えていた。出発の準備も整っているようだ。

 俺にはもったいない部下達だぜ。


 今回連れて行くのは総計3名。

 虎鉄にテレサ、そしてもう1人。


「ジーク様。船内にて冷たい飲み物を用意しております」

「ご苦労。短い間だがよろしく頼むぞ」

「はっ!! この命に代えましても」


 こいつの名前はクロム。カリンと同じく俺の専属使用人の一人だ。

 2mを超える長身で、その全身を黒一色のゴツゴツした鎧で覆っている。

 フルフェイスの兜を被っている為その表情は伺いしれないが所作は軽やかで鎧を着ているとは思えない動きで俺をサポートしてくれている。

 背には自分の身の丈ほどの大剣と大楯を背負っている。


 総勢5人いる専属使用人達は普段俺か俺のゴーレムの補佐をしている。

 それぞれが何かしらに特化した能力を持っており、その点においては幹部をも凌ぐ。

 ちなみに城外では親衛隊と呼ばれてるらしく幹部に並んで人気が高い。

 もっともクロムは不気味がられてるのか人気は低いが。


 クロムが特化しているのは「防御能力」。

 その力は防御に専念されては俺も苦戦する程だ。

 今回未知の場所に行くにあたり、クロムの能力は非常に頼りになる。


「では行くか」


 俺は船室に入り煌びやかな席に座る。

 恥ずかしいが俺の専用席だ。


「それでは出発致します」


 操舵輪に手をかけたクロムが声を発する。

 この船は予め魔力を込めてあるため魔人ならば誰でも操作出来る優れものだ。

 もちろん操縦者の魔力を送ることもできる。


 目的地は中国東部河南省、この船ならば1時間ほどで着くだろう。


神殺しの巨船(ナグルファル)、起動」


 クロムの掛け声と共に起動した船は音もなく上昇し、船内に振動を起こさず前進する。


「素晴らしい乗り心地だな」

「はい。重力魔法と空間魔法の合わせ技、実に見事です」

「くくっ、まさかこんな物が造れててしまうとはのう。魔工派の連中が見たら発狂するじゃろうな」

「ぬぬ、空の乗り物は何度乗っても慣れぬな」


 気づけばテレサと虎鉄も船内に入って来た。

 クロムはすかさず船を自動操縦モードに切り替え2人分の飲み物を用意する。親衛隊の中でも武闘派のクロムだが使用人スキルは高い。兜越しのせいで声がくぐもってしまい怖がられてなければ、もっと民に人気が出るのだろうが頑なに嫌がる。シャイな奴だ。


「皆様方、到着まで少し時間がございます。よろしければ食事でも」


 クロムはせっせと食事の準備を始める。

 そういえば食事になればクロムの口元くらい見れるのではないか?

 そんな事を考えていた俺だがふとある事に気づく。


「ん? 3人分しか食事が無いぞ?」

「はい、私は出発前に済ませておきましたので」


 鉄壁かよチクショウ。




 ◇




「そろそろ目的地上空になります」


 食事を楽しみ、いい具合に椅子でうたた寝しているとクロムが旅の終わりを知らせる。


「……むぅ。速いのも考えものだな。今度ゆっくり空の旅を楽しみたいものだ」

「くくっ、その時はぜひ連れてってもらおうかの」

「……拙者は遠慮いたす」


 どうやら虎鉄は乗り物が苦手みたいだ。

 ただでさえシワの多い顔がさらにシワクチャになっている。


「……目的地上空に到着。これより降下します」


 船は揺れる事なく止まり、そのまま下降していく。

 そして地表近くまで下降すると止まり、側面についた爪が地面に落下する。


「ただの飾りかと思っとったがいかりだったとはの」

「良いデザインだと思わないか? ジルが設計したんだ」

「ほう……あの変人もたまには良い仕事をする」


「錨が無事固定出来たようです。それと錨付近に多数の人がいるみたいです、おそらく黒蓮教の者かと」

「なるほど」


「ならば我々も行こう」


 ドアを開け入って来たのは黒蓮教の二人。

 どうやら隣の部屋で休んでいたみたいだが船が止まったのを見てこっちに来たようだ。


「では着陸いたします」


 船はその胴体をゆっくりと地表に降ろす。見事な運転技術だ。


「さて、暴れるとするか」

「くくっ、腕がなるわ」

「……早く終わらせて帰投致そう」


 こうして俺たちは中国に降り立った。


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