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最恐魔王の手さぐり建国ライフ!!〜政治に農業、時々戦争!?〜  作者: 熊乃げん骨
第二章 ○○世界における魔王国の建国
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第9話 問答

 明朝。


 俺はイブキを従え改めてテレサに会った。

 夜はバタバタしてちゃんと話せなかったからな。


 幻影自己人形ドッペルゴーレムから何があったかも聞いておいた。

 報連相はしっかりしろ!


「成る程。イブキとテレサは交流のある魔法組織にそれぞれいたわけか」

「そうっす」


 だから知り合いだったのか。魔法の世界も狭いな。


「つっても緋色の魔女は有名な魔法使いっす。あーしもそこそこ名の通った魔法使いなんすけどね」

「くくっ。その通り」


 確かに昨日その実力の一端を見たが恐ろしく練りこまれた魔法だった。

 本気でやりあえば勝てるかどうか……


「それで? どうしてそんな力のあるお主が我が軍門に下る気になったのだ?」


 この点に関しては幻影自己人形ドッペルゴーレムに聞いてもよくわからんと言っていた。

 敵意は感じないがスパイなら放っておけない。


「くくっ、簡単な話よ。主殿が気にいったからじゃ」


 パチッ♪っとウィンクする様は実に愛くるしい。

 しかしいかんせん信用しきれない。うーん、どうしたものか。


「ジーク様。確かにこの痴女はいけすかねえ奴っすけど計算して媚びるような奴じゃねえっす。そこは保証するっす」

「ほお、お主が擁護するとは珍しい。今日は雷かの」

「私が降らしてやりましょうか!?」


 確かに共感覚(シナスタジア)で探っても嘘をついてるようには感じない。

 俺に寄せられる好意も本物だ。


「よかろう。真意はわからんがそんなものに怯えていては示しがつかない。テレサ、お前の入国を歓迎しよう」

「さっすが主殿! 話が分かるのじゃ♪」

「はあ、余計な手助けしたっすかね……」


 こうして新たな仲間テレサ・スカーレットが加わったのだった。









 ◇








 そして時が過ぎ、魔力大規模感染マジカル・パンデミックが発生して明日でちょうど二か月経つ今日。

 城内はドタバタしていた。


「へへ、早いですね大将。もう俺が来てから一か月以上経つなんて」

「そうだな。皆よくやってくれている」


 明日。

 正式に魔王国ゾロ・アストは建国宣言をする。


 既に国民は20万人を超え大所帯になっている。

 爆発的に増える国民に何回か食糧危機に陥ったが魔狼部隊と植物魔法の研究者の尽力でなんとかなった。今度ねぎらってやらんとな。


 建国宣言をするからといって特に今までと何かすることが変わるわけではない。

 これからも助けを求める魔人を助け、彼らが幸せに暮らせる国を作っていくだけだ。


 ではなぜわざわざ宣言などするかというと、これはけじめだ。


 世界に対して我々は遊びやふざけでやってるのでは無いと知らしめる必要がある。

 生半可な気持ちでちょっかいを出すのではないという牽制の意味も含めて。


「未だに魔王国の存在を信じ切れず迷っている魔人もたくさんいるみたいですからね。大将のカッコいい演説姿を見れば信じますぜ!!」

「そうだな。演説の様子は月の鏡(ムーンミラー)で放送するからな……」


 正直今から凄い緊張で胃が痛いどころの騒ぎじゃない。

 幻影自己人形ドッペルゴーレムにやってもらおうとも考えたがバレた時にあまりにもカッコ悪い。


「ジーク様、ここにいらっしゃいましたか」


 どうしたもんかと思案しているとマーレに声をかけられる。

 俺を探していたみたいだ。


「突然で申し訳ないのですがお目通ししておきたい者がおりまして……お時間よろしいでしょうか?」

「この忙しい時に来客か? いったい誰なんだ?」


 本体である俺に面会などあまりある事ではない。

 城には俺の自動操作人形(ゴーレム)が何体かいるからだ。


「よかろう。今行く」

「すいません。こちらです」


 まあちょうど暇を持て余していたところだ。

 現実逃避よりはタメになるだろう。





 ◇




「失礼致します」

「うむ」


 マーレに連れられ王の間で座るとほどなくして一人の男が入ってくる。

 黒いスーツを着こなした坊主頭の男性だった。

 切れ長の鋭い目に高そうな銀縁メガネをかけている。細身ながらも締まった肉体は戦闘力も期待できそうだ。


「お初にお目にかかります。私はシェン=レンと申します。以後お見知り置きを」


 そう言いながら優雅にお辞儀をするシェン=レン。

 実に胡散臭いぜ。


「うむ。私は魔王国頭首クリーク・o・ジークだ。よろしく頼むよ」


 俺が挨拶を返すと再びシェン=レンは再び大袈裟にお辞儀をする。いつまで続くんだこのやり取りは。


「マーレ」

「はい、説明させていただきます。彼、シェン=レンは私の分身体が海外で活動中接触した人物です。利害の一致から協力関係にありましたが、今回是非ともジーク様に挨拶したいとの事でしたのでこの場を設けました」

「なるほど合点がいった。して、わざわざ私を引っ張り出したんだ。つまらぬ話はよしてくれよ?」


 本当は暇を持て余していたがな!


「はい。今回私の目的は一つ。ジーク殿と問答したくて参ったのです」

「問答?」

「はい。もし貴方が私の仕えるに相応しい主であるか試させていただきたいのです」


「彼は優秀です。試すような真似をして申し訳ないのですが付き合っていただいてよろしいですか?」


 マーレがシェン=レンに聞こえぬよう耳打ちしてくる。

 成る程。逆面接という訳だ。

 ここんとこ試す側だったから新鮮だな。


「よかろう。何でも問うてみるがいい」


「ありがとうございます。それでは問一。『もし国民が人質に取られた場合いかがしますか?』」


 何だその質問は? 馬鹿にしてるのだろうか。

 考えるまでもない質問だ。


「無論、見捨てる」

「!?」


「どんな手を使ってでも助けるとでも言うと思ったか? そんな希望的観測この世界では何の意味もない。被害が少なく済む内に問題は解決する」

「驚きました。しかしそれは薄情なのでは? 全ての魔人を救うのではないのですか?」

「もちろんそのつもりだ。しかしそれが叶わない(・・・・)願いということくらい分かっている」

「……詳しく聞かせていただいても?」


「今も何人もの魔人が世界中で悲惨な目に合っている、その時点で全ての魔人を救うなどという願いは破綻している」

「それならば何故叶わぬ願いを公言しているのですか? 信用を失うだけでは?」


「覚悟さ」

「!?」


「我が名は勝利無き戦争(クリークオーネジーク)。それは覚悟の名だ。戦いから逃げないというな」

「なるほど。叶わぬ願いを公言しているのも魔人を助ける行為から逃げぬためだと」

「そうだ。救っても救っても悲惨な目に合う者はこの地球上から消えはしない。だから俺は全員救うつもりで行動する。終わりがないことは覚悟の上でな」


「ふふふ、貴方の考えよく分かりました。それではもう一つだけ、『救えるのは一つ。貴方は自分の命とこの国どちらを取りますか?』」


「これまた愚問だ。もちろん国だ」

「それでいいのですか? この国が貴方無しで回るとは思えませんが」

「今はまだ、な」

「というと?」


「この国は近々俺がいなくても問題無いようにする。替えの聞かない存在など枷にしかならないからな」

「自分の存在さえ枷だと仰るのですか?」


「それが覚悟だ」

「!!」


 俺は英雄になりたいわけじゃない。

 ただ苦しんでる彼らの気持ちを自分の事のように感じてしまったから救いたいだけだ。

 その為なら俺の身などどうでもいい。


「フフフ、分かりました。貴方は私の想像したよりもずっと面白い方でした」

「お眼鏡にかなったかな?」


「もちろん、狂気の沙汰ほど面白い。私シェン=レン喜んでこの身を捧げましょう」


 またまた大袈裟に膝をつくシェン=レン。

 最後まで怪しい男だ。


「食えぬ男よ。まあいい、私の役に立つ内は生かしといてやろう」

「それで構いませんよ。私もこの国が私にとって楽しいものである内は尽くさせていただきます」


 挑戦的だな。

 こういう奴が一人いても面白い事になりそうだ。



 ◇



「申し訳ございません。まさかここまでお手を煩わせることになるとは」


 深々と頭を下げるマーレ。


「よい。あのような振る舞いをしているのにお前が口を挟まなかったんだ。それ程引き入れたい人材だったのだろう?」

「寛大な処置、感謝の言葉もありません」


 それに最近気を遣われてばっかで新鮮な気持ちになれた。

 ああいうのも悪くない。


「建国宣言の前に自分の気持ちに整理をつけるいい機会になった」

「はい……しかし私はこの国よりもジーク様を取ります」


 そう語る彼女の目は今まで見た中で一番真剣な瞳だった。


「お前がそれを望むならそうするがいい」

「はい」


 人は真に分かり合う事など出来やしない。

 そんな事人の心が分かる俺が一番分かっている。


 だけどだからこそ俺がまとめてやる。

 そう思った。


「さて、そろそろ明日に備えて休むとしようか」

「はい……」


 そしてその日は、来る。


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