第7話 姉妹
ある日俺はマーレと共に転移門のそばに来ていた。
というのも幻影自己人形の一人から連絡があり、これからワケありの人物をそちらに送るから対処して欲しいとの事だった。
事の顛末を聞いた俺はそれを承諾。
今に至るというワケだ。
「お、来たな」
門が光だし、二つの人影が飛び出してくる。
「じーくさまー!!」
「ごふぅ!!」
そのうちの一人が俺の腹部に超速突進をかます。
準神話級の鎧越しにこの威力、パねえわ。
「ふふ……よく来たなスイ、アン」
「うん!!」
「ん。当然の行動」
俺の言葉に答えるのは瓜二つの幼女姉妹だ。
補足しておくと舌ったらずなのがアンでしっかりしてる方がスイだ。
「あちらに同年代の子供がたくさん集まっている。遊んでいなさい」
「えー? あたしじーくさまといっしょがいー!!」
「同意、当然の帰結、断固拒否」
「うむむ、しかし私にも仕事がだな……」
『駄目……?』
姉妹はそろって俺のマントを掴みうるうるした目で訴えかける。
これはヤバい。行き場のない父性が爆発しそうだ。
「よろしいのでは? ジーク様の仕事を彼女たちに見せることは無駄にならないはず。私も一緒に行ってサポート致します」
「そうか……ならいいか」
「やったー!!」
「圧倒的勝利」
にしてもマーレが同行を許すなんて珍しい。
隙あれば二人きりになろうとするからなこいつは。
流石に子供には優しい……のか?
◇
そんなわけで俺たち4人は魔王国の敷地から少し出たところに来ていた。
なぜそんなところに来たかというと……
「うわー! なにこれー!」
「初見、巨大、キモ可愛い」
そこにいたのは巨大な芋虫だ。
一軒家ほどの大きさで黒い体色をしており背中にはトゲが生えている。
「こいつはブラックワーム。魔王国で飼ってる魔獣だ、大人しいから優しくなら触ってもいいぞ」
俺は実際にワームの横腹を撫ででやる。
気持ちいいのかワームは小さな口からキュイキュイ鳴き声を出す。
……癒される。
「わー!! かわいー!!」
「興味深い興味深い興味深い」
さすが子供は物怖じしないな。
アンはワームの上にまたがりアンはひたすら横腹をつつく機械になってる。
「ジーク様ジーク様」
「ん? どうしたスイ」
「このワームはどうして飼ってるんですか?」
鋭い質問だ。
今愛玩動物を飼う余裕などない事を見越しての発言だろう。
今後が楽しみな洞察力だ。
「えー? 可愛いからでしょー?」
……姉の方は今後に期待だな。
「コホン。このワームは土を食ってそこに染み込んだ魔力を摂取しているんだ」
「へー、だからずっとじめんをモソモソやってんだ!」
「ああ、そしてその土を排出するときに栄養満タンの土にしてくれるんだ」
「理解。つまりこの土地を農業用に開拓しているんですね?」
「そうだ、スイはかしこいなあ」
「へへー」
思わずスイの頭を撫でてやると嬉しそうに笑う。
……普段無表情の子の笑顔はヤバい。ロリコンになるところだったぜ。
「あー!! スイばっかりズルい!!」
アンも飛び降りてきて俺に頭を撫でろとゴリゴリ頭を押し付けてくる。
これが幼女楽園か……!
「こほん! 目的をお忘れですかジーク様?」
さすがにベタベタし過ぎたのかマーレに叱責される。
危ない危ない帰ってこれないところだったぜ。
「もくてき?」
「ああ、こいつらとは会話ができないからな。何を欲しているのか調べに来たんだ」
共感覚の効果で大まかにどんな感情かは分かるがいかんせん人間とは思考回路が違い過ぎて細かいところは分からない。
「えー? さっきからせなかがかゆいっていってたよ?」
「!? どういうことだ!?」
とんでもないことをさらりと言うアン。
説明の足りない姉を見かねたのかスイが口を出してくる。
「お姉、それじゃ伝わらない」
「スイ、説明を頼んでいいか?」
「ん。私たちは心を読むことが出来る。対象が純粋な存在なほど読みやすくなるから魔獣の心を読むのは人間より楽」
「そんな能力が……」
幻影自己人形からそんな報告は上がって無かった。おそらく知らなかったのだろう。
彼女たちは特別な出自ゆえ様々な能力を持っているみたいだ。気を付けて育てねば。
「それは素晴らしい!! ワームは他に何か言ってるか?」
「えとねー、ふかふかのねどこがほしいってー」
「なるほど、彼らの生態はよくわかってないから助かるぞ」
魔王国で飼育している魔獣は俺が世界中で発見した野良の魔獣を手なずけた者達だ。
当然図鑑なんてないため飼育方法は手探りだ。
「あとねーじーくさまがたくさんなでにきてくれてうれしいって!」
「なっ!」
人目がない事をいいことにちょくちょく来てることをバラされてしまった。
恥ずかし嬉しい気持ちだ。まさかワームに赤面させられる日が来るとは。
「ジーク様? 後でお話が」
「はい……」
何もマーレの前で言わなくてもいいのになぁ……
気を取り直して俺は姉妹に向き直る。
「さてアンとスイ。よければ他の魔獣も一緒に見て回ってもらってもいいかな?」
「それってそれってじーくさまよろこぶの?」
「ああ、もちろんだとも」
「じゃあやる!」
「ん。愚問」
「そうか、ありがとう」
◇
その日俺たち4人は魔王国内の全魔獣に会って来た。
二人はその全てと意思の疎通を成功させ魔獣たちの作業効率を大幅に向上させてくれた。
「ちかれたー」
「ん、同意……」
無尽蔵に思えた体力も流石に尽きたみたいだ。
俺は彼女たちにあるモノを渡す。
「二人とも手を出すといい」
「こ、これは……!」
「驚愕……!」
俺が渡したのはパフェだ。
疲れた時には甘いものが一番だ。
それに二人とも甘いものなどロクに食べたことがないだろう。喜んでくれるはずだ。
「じーくさま!! おかわりっ!!」
「ん! ん!」
「ってはやっ!!」
あっという間に平らげ空の器を向けてくる二人。
どうやらお気に召したようだ。
「クク、食べ過ぎるなよ? この後豪華な晩飯が待ってるんだからな?」
「え!! じーくさまと食べていいの!!」
「当然だ、私たちはもう家族なのだから」
「やったー!!」
「肉、肉所望」
「わかったわかった」
二人の笑顔を見てると俺の荒み切った心につかの間の安らぎが訪れる。
この笑顔を守るためにもしっかり働かねば。
「ようし、食堂まで競争するか!」
『おー!!』
「ふふ、まるで子供が三人ですね♪」
やかましいぜ。




