第5話 最高幹部
後に聞いたところによると狼の長の名前はタスクというらしい。
彼と結んだ条約はこんな感じだ。
・日に大型の魔獣を最低10体提供すること。しかし何らかの理由で達成できなくてもペナルティは課さない。
・サポートとして戦闘経験のある魔人を何人か連れて行ってもよい。
・負傷及び病気に罹った場合は無償で治療する。
・魔王国の一角にある「魔狼宿舎」を好きに使ってよい
・魔王国の魔人を不当な理由で傷付けた場合上記の契約は全て破棄される。
これなら狼側にとっても悪くない条件のはずだ。
彼らの腕前なら一日に何十頭も狩れるし、森に転移門を作ったのでそこに投げ入れれば済むので面倒くさくないはずだ。
「そうそう、実はもう一つ頼みたいことがあったんだ」
『何だ?』
「実は魔王国で色々な魔獣を育てているんだけど難航していてね。同じ魔獣として意見が欲しいのだ」
『ふん。それくらい造作もないわ。後で頭の切れる者を何頭か寄越そう』
「助かるよ」
◇
契約成立後俺たちは狼たちを連れて国に戻った。
『何と……! いつの間にここまでの国を作ったんだ」
何やら動きがあるのは気づいていたみたいだがここまでの規模とは思ってなかったみたいだ。
大きな口をあんぐり開けて驚いている。
「わー! おっきいわんちゃんだ!!」
「すごーい!!」
『こ、こら、止めないか!!』
狼を連れ街中を歩いていると子供たちが狼に飛びつき遊びだす。
あらかじめ国民には害のない狼を連れ帰るとお触れを出してはいたが流石子供。物怖じしないな。
『見てないでなんとかせんか!』
「いいじゃないか減るもんでもない。ほらお前のトコの子供も遊んでいるぞ」
気づけばまだちっちゃい子狼たちが魔人の子供たちと一緒になって走り回っている。実に微笑ましい光景だ。
『フン、楽しそうに遊びおって。しかし存外悪くないものだ。他種族との交流というのもな』
「そうだな。お互い民を導くもの同士仲良くしようじゃないか」
これは本心だ。
いつか出来たら嬉しいものだ。本心を語り合える友が。
こうして俺は狼たちを彼らの宿舎に送り届けたのだった。
「ご苦労だったなヴォルク。長く付き合わせすまない」
「とんでもねえ大将!! むしろ大将と長く一緒にいれてこっちは鼻高々ってもんですぜ!!」
思いつきで一緒に行動してみたがこいつは思っていたよりも優秀だった。
こいつならアレに任命しても申し分ないだろう。
「さてヴォルクよ……実は建国するにあたって特に優秀な人物を幹部に任命しようと思っているんだ」
「ははーん、分かったぜ大将。俺の鼻で探せってんだな? 任しときな大将、バチコーンと見つけてきてやるぜ!」
「ふっ、それもいいが……私はお前にやって欲しいと思っているんだ」
「へ?」
「高い戦闘力と忠誠心。おつむが少し足りないところはあるが良い勘を持っている、荷が重いなら辞退しても構わんのだがどうかな?」
ヴォルクは俺の話を聞くと下を向きワナワナと震える。
いささか急だったろうか?
「大将……」
「ん?」
「やるに決まってるでしょうがぁっ!!」
「うおっ!」
「嬉しいぜ大将! 生きててこれほどハッピーな日は初めてだ!!」
おんおん泣きながらヴォルクはびしゃびしゃの体で俺に抱きついてくる。
力が強くて振りほどけん……
「分かったから離してくれ……」
「おぉすまねぇ!」
バッと俺から離れるヴォルク。
しかし俺の鎧は既にびしゃびしゃだ……
「よい。では幹部ヴォルクよ、これから一層の活躍を期待するぞ」
「任せてくれ大将! このヴォルク必ずやこの国を守り抜いて見せるぜ!!」
◇
「よろしかったのですか? こんなに早く幹部を決めてしまわれて」
「マーレか」
ヴォルクと別れるとどこからともなくマーレが現れ声をかけてくる。
いやほんとドコにいたんだよ。
「構わん。奴は役に立つぞ」
「ジーク様がいいならいいんですけど……」
見ればマーレは頬をプクっと膨らませどこかスネた様子だ。
ははーん。自分以外に幹部ができて嫉妬してるんだな。可愛い奴め。
「マーレ。お前の貢献度は群を抜いている、今後もお前には他の幹部より重要な案件を任せることが多くなるだろう。そこでだ、お前さえよければ最高幹部になってくれないか?」
「!? しょ、しょうがないですね……まあジーク様のサポートが出来るのなんてわたくしぐらいですし!? やらせていただきますよ!!」
赤面しながらまくしたてるマーレ。どうやら機嫌を直してくれたみたいだ、よかったよかった。
「あ、そうそう。ジーク様に面会希望者がいるんでした」
「面会希望者? 自動操作人形じゃだめなのか?」
「ええ、本人に会いたいと申しております。只者ではない魔力でしたので放っておくわけにもいかず待たせております。いかがしますか?」
「ちょうど手も空いた事だし行ってみるとしよう。どんな奴なんだそいつは?」
「そうですね……一言で言いますと」
「ああ」
「侍です」




