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最恐魔王の手さぐり建国ライフ!!〜政治に農業、時々戦争!?〜  作者: 熊乃げん骨
第一章 ○○世界における魔王国建国の経緯(いきさつ)
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第19話 悪神

神の誕生(GodBirth)……穏やかじゃない名前ね」

「今やなぜ僕の祖先がそれを願ったのか、その理由は分かりません。命令されたのか、自らの意思なのかすらね」


 何だよそれ……。

 だったら


「そんな事しなけりゃいいじゃないか! 別にお前がしたいワケじゃないんだろ!」


 こんなの間違っている。

 いくら家の方針だからって従う必要などないはずだ。


「それは無理なんです。何百年も前から受け継がれ続けたこの名前は僕の意思よりも強く僕の体を縛る。僕がやりたいかどうかなんて関係ない。出来るから『やる』、それだけなんです」


「何だよそれ……」


「でも安心して下さい。伝承では悪神アンラ・マンユは善神アフラ・マズダーに倒され世界に平和がもたらされるとあります。伝承通りに事が進めば世界はよりよい方向に進むはずです。お二方は今すぐ逃げればその時まで生き延びれるでしょう。そしたら平和になった世界で幸せに暮らして下さい」

「なに言ってやがる! その善神ってのが現れるまでに何人死ぬんだ!! そもそも伝承通りに事が進むかも分からないじゃないか!」


「やめなさい、いくら言っても無駄よ」


 必死で説得を試みる俺を舞衣さんが冷静に止める。


「舞衣さん!! だけど!!」


「歪んだ事をしていることくらいケビンも分かっているはずよ。神を降ろすという抗えない使命と平和を願う心。その二つを両立するためにこんなことをしたのね?」


「………全部お見通しなんですね。」


 ケビンは観念したように肩をすくめる。


「そうです、最初から善神を降ろすことも出来ますが、善き神といえど所詮人が作り出した紛い物。世界にどんな悪影響を生むか分かりません。しかしこの方法なら上手くいけば神同士を戦わせて相打ちに出来るかもしれません。だからこの方法をとりました」


「だからって……。!?」


 納得できず突っかかる俺だがここである事に気づく。



 淡々と語るケビンだったがその目からは大粒の涙がとめどなく流れたいた。


 当然だ。

 したくも無いことで命を捨てなければならないのだから。


「こいつを消してくれケビン! お前が名前に縛られているならそれを変えてやる! だから!」


 確信は無いが俺の力ならできるはずだ。


 俺は誓ったんだ。

 この力で困っている全ての魔人を救うと。


「だから俺にお前を助けさせてくれ!」


 そう言って近づこうとするが頭が急に痛み、足が止まってしまう。

 いったい何が起きてるんだ!?


「…………助けさせてくれ、ですか。あなたは本当に優しい方だ」


 俺のそんな様子に構わずケビンは話を続ける。

 良かった、だいぶ収まって来たぞ……


「正直最初に魔人の国を作るだなんて聞いたときは正気を疑いました。そんなことしたら世界中から標的にされるでしょう」


 ケビンに俺の夢を直接話したことは無い。

 恐らく天上院たちと戦っているときの会話を聞いていたのだろう。


「倒しても倒しても止まること無き人の欲望は絶えず襲い来るでしょう。あなたたちは勝利無き戦争を続けなければならない」


 覚悟はできているつもりだが面と向かっていわれると堪える。


「最初は止めるつもりでした。私が神を降ろすところを見せればそんな事しなくてもいいのだと思い直してくれると思いましてね」

「そんなことを思っていたのか……」


「だけど今は違います」

「!?」


「短い期間ですが共に旅した時間で不思議とあなたなら出来るのではないかと思い始めました」

「ケビン……だったら!」


「でも駄目です」


 ケビンは大きく一歩後ろへ下がる。

 火口までもうあと一歩の距離だ。


「僕は運命から逃れられませんでした、ですがあなたは僕とは違う。どうかこの世界をお願いします」


 そう言ってケビンは俺になにかを託すかの様に笑いかけ――――――火口へと身を投げた。






 ◇






 ――――――落ちる。



 僕は落ちながら意外と落ちるのも時間がかかるんだなあと呑気な事を考える。


 他にやることもないので今までの人生を思い返すが。何とも面白みのない人生だった。


 親に興味のない魔法を覚えさせられ、好きでもない神について勉強させられる。挙句の果てにお前は、私たち一族は神の供物だと脳に刷り込まされる。

 こうして冷静に思い返すと本当にクソみたいな人生だ。自分の意思などどこにもないじゃないか。


 魔力大規模感染マジカル・パンデミック後に起きた戦闘で両親が戦死した時、やっと僕は解放されると思った。

 しかしそれは大きな間違いだった。

 気づけば僕は命じられてもいないのに神降ろしの準備を着々と進めていた。

 そのことに気づいたとき僕の意思はもうどこにもないのだと理解し、僕は全てを諦めた。


 しかし、想定外の事が起きた。

 そう、彼らだ。


 彼らは同行者にするには強すぎる。富士山まで行ける確率は高いが神降ろしの妨害をされる可能性も高い。

 冷静に考えればとっとと見捨てて立ち去るべきだ。


 しかしボロボロになりながらも立ち上がり、更にとんでもないことを言う彼からいつの間にか目が離せないでいた。


 戦闘が終わり倒れこむ彼を見て、気づけば僕はそばに駆け寄っていた。

 脳はけたたましく僕を引き留めようとしていたが僕はそれを振り切ったのだ。


 僕は旅の間彼に接触した理由を探していた。

 旅の間は気づかなかったけど、今なら分かる。


『俺は全ての魔人を救う王、魔王になる男だ』


「そうか……僕も、救われたかったんだね……」


 僕のつぶやきは誰の耳にも届かず、僕自身もまた誰に看取られることなく灼熱の中に消えていった。

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