第16話 使命
まずい。
それが私の最初に抱いた感想だった。
魔道具は内包する魔力量でだいたいのランクが図れる。
こいつが持ってきた魔道具は私の見立てによると『一般魔道具』が3つに『高位魔道具』2つだ。
一般的に一流の魔道具職人になるには最低10年の修業がいると言われる。
そして一流の魔道具職人が数週間かけてやっと完成させられる物が『高位魔道具』だといえば、こいつの規格外さが伝わるだろうか。
こいつはロクに魔道具を作ったことがないにも関わらず1時間で『高位魔道具』を2つも作ってしまった。
これは異常だ。
いや、異常という言葉すら生ぬるい程の事態といえよう。
サングラスを作った時は緊急事態だったから成功したのかと思ったがそうではなかったみたいだ。
もしこのまま贈呈物を鍛え続ければこいつはとんでもない魔道具職人になるだろう。それこそ神話級を作れるくらいに。
しかし、それはこいつの為になるのだろうか。
この力が知れ渡れば間違いなくこいつは世界中のあらゆる組織に狙われるだろう。
封じるべきか、鍛えるべきか。
知り合って間もない頃だったなら間違いなく前者を選んだだろう。
しかも命を奪うという形でだ。
残酷に思われるかもしれないが、この力はそれほど危険なものだ。そこまでする意味がある。
だけど今は違う。
今の私にはとてもこいつを殺すなんてできない。
だとしたらやるべき事は一つ。
正しく鍛え、正しく導く。
それが、私に課せられた使命だ。
◇
どうしたんだろうか、舞衣さんに魔道具を見せたら何やら下を向いて考え込んでしまったぞ?
我ながらそこそこ上手くできたと思ったんだけどな。
「…………よし」
うつむいていた舞衣さんは、何か決意をしたのかのように頷くと俺に向き直った。
「遅い! こんな出来じゃ魔王だなんて夢のまた夢よ! やり直し!」
さきほどの神妙な面持ちはどこえやら大声で叱りつけられる!
「え? え? マジですか?」
戸惑う俺などお構いなしに舞衣さんは俺にまた何個か小物をグイグイと押し付けてくる。
「ほら、早くなさい!」
「ちょっと待ってください。もう魔力がスッカラカンなんですよ!」
「知らないわ! 魔道具でどうにかしなさい!」
「そんな殺生な!」
おれの抗議も空しく朝飯はお預けされてしまった。
くそう。
次こそは見返してやるぜ!
◇
「いいんですか? あんなこと言ってしまって」
私があいつを追い返すと入れ違いにケビンがやってくる。
あいつとのやり取りを見ていたのか。いやらしい奴め。
「それにしても凄いですね、あの人の能力は。国を作るというのもあながち夢物語じゃなさそうだ」
「あんたは一体何が目的なの?」
こいつに関してはまだ謎なことが多い。自国も大変だろうにわざわざ他国の調査に来ている余裕があるのだろうか?
「僕の目的ですか? そうですね……世界平和とでも言ってきましょうか」
「は?」
怪しさが天井知らずだなこいつは。
真面目に会話する気があるのだろうか。
「ふふ、僕はいたって真剣ですよ。富士山に行くのだって世界の為にその力を使えないかと思ったからです」
「…………」
ニコニコとそう語るケビン。
駄目だ、さっぱり真意が読めない。
「あんた、あいつの力を狙ってるワケじゃないでしょうね」
もしあいつの力を利用しようとしているならここで消さなければならない。
その覚悟ならあるつもりだ。
「いやだなあ、違いますよ。むしろ彼が世界平和にその力を使っていただけるなら支援したいくらいです」
「…………いいわ、そういう事にしといてあげる。ただし、あいつに何かしようとしたらタダじゃおかないわよ」
「わかりました。肝に銘じておきます」
「本当かしら、あんたって妙に日本語が達者だし怪しいのよね」
すると、その一言に思うことがあるのかケビンは急に真剣な顔になる。
「やはりそう感じますか」
「どういうこと?」
「僕は少し前まで日本語が全然話せなかったんですよ」
「!?」
日本語が話せなかった?
少なくとも目の前のこいつはまるで何年も日本で過ごしたの如く喋っているぞ?
「僕だけじゃなく、周りの仲間もそうでした。なぜか日本語だけが喋れるようになりました、あの日から」
あの日とはもちろん魔力大規模感染が起きた日だろう。
つくづく謎が多い。解明できる日は来るのだろうか。
「私の仲間からも急に外国語が喋れるようになったという報告は上がってないわ。どうやら日本語に限った話みたいね」
「そうですか……それが分かっただけでも収穫ですかね。ありがとうございます」
「ええ……どういたしまして」
こうして謎を残しながらも朝は明けるのだった。




