第15話 特訓
「贈呈物の特訓……ですか?」
「そう、贈呈物も鍛えることが出来るわ。私も最初から五行全てを使うことが出来たわけじゃないし」
成る程。てっきり贈呈物の効果は変わらないという先入観があったが、そうではないみたいだ。
ただでさえ強力な俺の能力だが、鍛えたらどうなってしまうのだろうか?
「いいですね!ぜひやりましょう!!」
「いい心がけね、それじゃ今から早速やりましょう」
「はい! ところでどうやれば鍛えられるんですか?」
「簡単よ。贈呈物を使い続ければいいの」
「え?」
ちょっと待ってくれ……ということは。
「あんたのサングラス、明日まで私が預かっておくわね♪」
「ぐおぉぉぉ…………」
いつもの如く頭痛に襲われる。
俺の不眠生活はこうして始まったのだった。
◇
早朝、俺は日が昇るのを確認すると足早に舞衣さんの所へ赴いた。
「舞衣さん!」
「あらおはよう、どうしたの? 顔色が悪いわよ」
「あなたのせいでね……いいから早く返していただけますか」
「しょうがないわね」
しょうがないのはどっちだ、という言葉を飲み込み俺は黙ってサングラスを返してもらう。
下手に指摘してこれ以上待たされたらたまったもんじゃないぜ。
「ふう、やっと楽になったぜ」
「それでどうだったの? 何かつかめた?」
「……不本意ながら」
「それは良かったわ」
そう、あまり認めたくないが効果はあった。
まず頭痛に耐えかねた俺は、気合で能力の強さを調節できるようになった。
入ってくる感情を流れ込む水と例えるなら、そこに水門を作った感じだ。
完全に閉めることは出来なかったが10分の1程度には抑え込める様になった。
入ってくる量を少なくできると、今度は入ってくるものをしっかりと観察できるようになった。
そのおかげで今まで何となくしか理解出来なかった魔法もだいぶ感覚をつかめるようになった。
「しかし荒療治過ぎませんか……?」
「何言ってんの、魔王になるんでしょ?」
「!!」
ドキリ、とした。
舞衣さんの目の前で宣言したので聞かれてたのは分かってはいたが、反対されるのが怖くてその話を切り出せずにいた。
「反対……しないんですか?」
「ロクでもない奴がそんな事言ってたらぶっ飛ばしてあげるところだけどね、あんたは違う。それは能力だけの話ではなくて、あんた自身の人柄も含めての話よ」
「でも……俺なんてこの力が無きゃたいした奴じゃないんです。友達だって多くなかったし、恋人だっていたこと無い。つまんねー人間なんですよ」
むにゅり!
「!?」
俺は唐突に柔らかいものに包まれる!
何と舞衣さんの胸の中に抱きしめられてるではないか。
そこはとても暖かく……優しい、まるで母さんにあやされている様な感覚だった。
「それは周りの見る目が無かっただけよ。私が同級生だったら放っとかないわ」
俺を胸から離し、赤い顔でニカッと笑う彼女はまるで太陽の如く眩しかった。
「あんたが『共感覚』に目覚めたのもそう。人の痛みが分かるいい奴だからきっとその力に目覚めたのよ」
そう言いニコニコと笑う舞衣さん。
だけど俺はそこまで出来た人間じゃない。
人の事を悪く思う事だってあるし、社会奉仕活動に従事したことがあるわけでもない。
だけど、この人にそこまで言わせたんだ。
なれるトコまで成ってやろうじゃないか。
「それじゃコレ♪」
「何ですかコレ?」
渡されたのは手袋や指輪など、小物5点だった。
「朝飯までに魔道具化させといて、出来なかったら朝飯抜きだから♪」
「はは……」
そう色っぽく耳打ちし足早に去っていく彼女を俺は乾いた笑いで見送るのであった。
◇
「ゼェ……ゼェ……!」
「お疲れ様、もうすぐご飯できるから座って待ってなさい」
あいつに課題を出してから1時間後、私がちょうど朝食を作り終える頃にあいつは息を切らしながら私の所に来た。
「それで? 何個出来たの?」
私は息を切らすこいつに水を手渡しながら成果を聞く。
こいつにさっき渡したものは前に滞在した町で買った只の雑貨だ。
大した物は作れないだろうが練習にはちょうどいいだろうと思い買っておいた物だ。
魔道具作成は失敗すると、元になる物『依り代』が壊れてしまう事が多い。なので私は壊れても問題無いようにまずは安い依代で練習させる事にした。
いくら魔法感覚があったとしても、満足のいく魔道具が作れるようになるには長い時間がかかるからだ。
「何個って……全部やれって言ったのは舞衣さんじゃないですか」
彼の手には見るからに高品質の魔道具が5点並んでいた。




