第14話 ケビン
後で聞いた話によると俺が寝てた宿があったところは最近できた村らしい。
迫害を怖れた魔人が協力して作ったらしく、同じ魔人の俺たちをこころよく受け入れてくれた。
俺たちは2日ほど休養と準備のため村に残ると、目的地である富士山に出発するのだった。
「そういえば何で富士山に行くのに味方がいるんだ?」
俺は器用に魔力歩行するケビンの隣に行き、話しかける。
「まだ言ってませんでしたね。あの場所は魔力溜まりになってます。そうなっている場所には強力な魔獣が湧くんですよ」
『魔力溜まり』、確か魔力が異常に発生した土地の事だ。
富士山全域がそうなってしまっているなら大変だ。
「恥ずかしい話、僕はそんなに強くないんです。使える魔法も木の魔法だけ、戦闘向きじゃないんですよ」
以前こいつの魔法を見せてもらった事もあるが、確かに戦闘向きでは無かった。
相手を拘束したりするのが関の山だろう。
「だからわざわざ富士山から離れたトコまで仲間を探しに行ったんですよ」
なるほどな。
組織には内緒だったから仲間は現地調達するしかなかったワケか。
俺たちはお互いの事を話しながら移動した。
よく話してみるとケビンはいい奴だった。気が利いて話し上手で聞き上手だ。
おまけにイケメンと来たから世の女たちは放っておかないだろう。ぐぎぎ。
「そういやケビンってどこの国出身なんだ?」
俺の何気ない質問に、なぜか彼は少し困った様子で答える。
「僕の家系は少し複雑でしてね。一応今はドイツ人として暮らしているけど、僕の祖先は色々な国を転々としていたみたいなんだ」
「へえ、じゃあケビンの名前も他の国の言葉が混ざっているのか?」
「さあ、僕もよく分からないんだ」
彼は眉を少し下げ、困ったように答える。
「ふーん、そんなもんか」
何となく触れて欲しくなさそうなので、俺はそれ以上追求せず移動に集中したのだった。
◇
「うめえ!!」
「ふふ、それはどうも」
すっかり日も暮れ、俺たちはいつものごとく野宿をしていた。
ただしいつもとは飯のクオリティーが違った。
「ケビン! お前料理上手かったんだな!! 村でも作ってくれたら良かったのに!!」
俺は野菜と干し肉が入ったスープをゴクゴクすすりながらケビンを褒め称える。
「そんな、僕なんて大したことないよ」
謙遜しているが、彼の料理は大したモノだった。
繊細な味付けに考えられた栄養バランス、外という良くない調理環境でここまで出来るのはたいしたもんだ。
「ぶー」
俺のすぐそばで舞衣さんが膨れている。
無理もない、今までは彼女が料理をしてくれていたのだが、俺はこんなに喜んで食べたことはない。
彼女の料理も美味しいのだが、いかんせん豪快な味付けになりがちだ。
「どうせ私の料理は大味ですよー」
いかん、拗ねてるところも可愛い。
「俺は舞衣さんの料理の方が好きですよ! 男は大味なくらいがいいんです!」
俺は舞衣さんの頭をよしよししながら宥める。
先の戦闘以来、彼女との距離はとても縮まり、これくらいでは怒られない。
「にしても大したもんだな、ケビンのその魔法」
「はは、料理くらいにしか役立ちませんけどね」
実はこの料理に入っている野菜は魔法で作り出したものだ。
植物の魔法を操れるケビンは種さえあれば、その植物を一瞬で成長させられる。
俺も真似してみたのだが上手くできなかった。どうやら植物の魂が急な成長に耐え切れず朽ちてしまうらしい。ちなみに木行を使える舞衣さんがやっても同じ結果だった。
何がいけないのかとケビンに聞くと。
「この魔法は魂に負荷がかかるから、それを上手く逃がさなきゃいけない。その為には地道な練習と魂に対する深い知識と理解が必要なんだ」
と言われた。
魔法感覚があっても万能では無いみたいだ。
俺ももっと頑張らねば。
◇
楽しい食事が終わり一息ついていると、俺は舞衣さんに呼び出しを食らった。
まださっきの事を根に持っているのだろうか……
「来たわね」
「はい。どうしたんですか、改まって」
怒られるのではとビクビクしていたが、舞衣さんは真面目な様子だ。
俺の心配は杞憂だったみたいだな。
「あんたの贈呈物の事よ。それは危険すぎる、しっかり理解した上で使わないといけないわ」
確かに、まだ俺自身も使いこなせていない自信はある。
「確かにそうですけど、どうするんですか?」
「決まっているでしょ、特訓よ」




