第5話 贈呈物(ギフト)
いきなり家元とか十七代目とか俺には縁のない言葉が続々と出てきて面を食らってしまったが、いつまでもボケっとしてるのも失礼なので詳しく聞いてみるとするか。
「『五行相克』、それが舞衣さんがたくさんの魔法が使える秘密なんですね?」
「ええ、陰陽師が使う五つの魔法感覚である火行、水行、土行、木行、金行、その全てを扱うことの出来る『贈呈物』よ」
何の属性も使えない俺からしたら、何ともうらやましい話だ。
あれ、そういえば気になる事をもう一つ言ってたな?
「さっき『贈呈物』って全員が持ってるって言いましたよね?じゃあ俺にも特殊能力があるんですか?」
「ええ、誰もが持ち得ているわ。だけど自分がその能力に気づけるかは別。自分の特殊能力に気づけなかったり、発現しないまま一生を終える人もたくさんいるわ」
「そうですか……」
俺は露骨に落ち込む。
『贈呈物』があれば、俺も舞衣さんの役に立てると思ったんだけどなあ……
「だけどあなたの力には心当たりがあるわ」
「本当ですか!」
「ええ、初めて会った時サングラスに魔法をかけたでしょ?」
確かにやった。魔法をかけたサングラスを付けたら不思議な頭痛が止んだんだっけ。
「あれはただの魔法じゃなくて魔道具作成。魔法よりずっと難しい技術よ。贈呈物無しに成功させたとは思えない」
「じゃあ俺の力は魔道具作成に関係ある可能性が高いと」
「ええ、頭痛はおそらく本来の効果の副作用と考えられるわ」
それは実に便利そうだ。
ちょっと元気が出てきたぞ!
そんなことを考えていると舞衣さんは懐から何かを取り出して、俺に手渡してきた。
「ちなみにあの時あなたの頭に巻いていた物はこれ。その名も『魔封じの包帯』。巻いた箇所の魔力を封じる効果を持つわ。さっきも言ったけど魔道具作成は超高等技術、それも貴重な代物で100万円近くの値が付くわ」
「100万!?」
危ねえ!!びっくりして思わず落としそうになったぞ!!
なんてもんをポンと渡してくれるんだこのお嬢様は!!
「何を驚いているの。私の見立てだとあんたの作ったサングラスの方が性能は上だわ」
え?
このサングラスが!?
「そのサングラスは魔力は封じず、贈呈物のみを鎮静化させてる。そんな効果聞いた事も無いわ」
なるほど。
贈呈物を鎮静化してるから副作用の頭痛も収まったのか。
あれ?
「でもそれって……」
「サングラスなしで、その頭痛をどうにか出来るようにならないと、贈呈物の正体は探れないわね」
「ちっくしょおおおぉぉっっ!!!」
俺の叫びは岩に反響し良く響き渡ったのだった。
◇
魔力歩行も上達し、俺たちの旅は順調なものだった。
日の出と共に出発し、魔力歩行で移動しながら口頭で教えられること、魔法の基礎知識や呪文名、魔道具についても舞衣さんに教えてもらった。
舞衣さんは博識で、陰陽師の使う五行以外の魔法についても詳しく教えてくれた。
教えてくれたことは名称だけでなく各属性の長所や短所、属性同士の相性まで多岐にわたり、三日もすれば俺は立派な魔法博士になっていた。
舞衣さんは覚えが早いと驚いていたが、それは俺が元々ファンタジー系の物語が好きだったからだろう。
まさか役に立つ日がくるとはな。
座学と同時に魔法を実際に使う訓練もした。
舞衣さんは相変わらず実技を教えるのは下手だったが、意外にも俺は物覚えが良く基礎的な魔法はほとんど習得することが出来た。
魔法感覚が不明で強力な魔法が使えない俺だったが、魔力の練り方だけは天才的に上手いと言われた。これが上手いと威力はあまり変わらないが魔法が頑丈になるらしい。
うーん、地味だ。
舞衣さんとも旅を続けていくうちに随分仲良くなった。
舞衣さんは俺の一つ年上だった。
年が近いことや、お互いこんな状況で人と話すことに飢えていた事もあり、移動中話はよく弾んだ。
同い年だったらもう少し緊張したかもしれないが、舞衣さんは年上で頼れるお姉さんといった感じなので胸を借りる感じで俺も距離を詰めれたのは僥倖だった。
しかし、そんな頼れる彼女も、時々憂いを帯びた表情をのぞかせる時があった。
当然だ。俺は失うモノが名前くらいだったが、社会的地位もあったであろう彼女には知り合いや大切な人もたくさんいただろう。その悲しみは俺には計り知れない。
俺はそんな彼女が少しでも気を紛らわせられるならと、よくふざけたりオーバーなリアクションをとったりして見せた。
それに対して舞衣さんはよく笑ってくれた。
それでも彼女が時折見せる悲しい顔は、俺を複雑な気持ちにしたのだった。




