第22話 招かれざる客
俺たちを強くするためにラースがこんなことをしたのは分かった。
そしてラースが口にした俺達が勝てない『奴ら』にも心当たりがある。
「お前の言う『奴ら』というのは……芭蘭のことか?」
「あァ、その通りだ」
ラースは憎々しげな顔をしながら言葉を続ける。
「テメエらは危機感を持っているつもりかもしれねえが俺様から言わせれば全然危機感が足りねえ。事態は思ってるよりずっと悪いんだよ」
「どういう事だ? そもそもお前は芭蘭の正体を知っているのか?」
俺がそう質問するとラースは少しいいづらそうにしながらもこう答えた。
「ああ……知っている。いや知ってるなんてもんじゃねえな。なぜなら俺と奴らは同類、いや『同種』といった方が正しいか? まあ細かいとこはどうでもいい、重要なのはあいつらは俺様と同じってことだ」
「芭蘭とラース《お前》が同種だって……!?」
ラースの口から出た言葉に驚く俺だが、考えてみれば二人には確かに共通点がある。
常識離れした異常な再生能力、そして魔力とは違う未知なるエネルギー。
どちらも二人からしか確認したことのない異常な『力』だ。
もし二人が人間とは違うなにか別の『種族』なのであればこの異常な力にも説明がつく。
「いったい、お前は……お前たちは何者なんだ……!?」
意を決して俺は核心に迫る質問をする。
ラースは俺の問いに少し悩む素振りを見せるが、やがて観念したように話し出す。
「まあ隠してもしょうがねえ。いいだろう話してやる、俺達はう……」
「おっとそこから先は話させるわけにはいかないね」
ラースの言葉を遮るように何者かの声が割り込んでくる。
いったいこんな大事な時に誰だ!?
「やっほー、久しぶりだねえ。元気してた?」
「て、てめえは……!」
振り返った声の先、そこにいたのはなんと今話に出ていた芭蘭だった。
なぜこいつがココに!? 防衛機能は働いていないのか!?
……いや、防衛機能は今ストップしているんだった。まさかこの短期間で侵入してくるなんてとは、確かにラースの言う通り認識が甘かったのかもしれない。
「てめえは……アルデバランか。久しぶりじゃねえか……!!」
殺意たっぷりの視線で芭蘭を睨みつけるラース。
どうやら二人の間には浅からぬ因縁があるみたいだ。
対する芭蘭はニコニコと穏やかな様子でラースを見ている。
「ふふふ、同族の気配を感じて来てみたらまさか君だとはねラース。よく今の今まで僕たちの目から逃れて生きてこれたものだよ。もしかして君のお仲間もまだ生きてたりするのかい?」
「さあどうだかな……。知っててもテメエに教えねえよ」
「裏切り者のくせに随分な態度だねえ。君たちのせいで母さんの計画はだいぶ狂ったというのに」
「ハッ、まだママ離れ出来てないのか? てめえらも変わらねえな」
「……どうやらあれだけの目にあっても反省してないようだね。今度こそ完全に消してやるよ」
二人の間に火花がバチバチと弾ける。
一触即発という言葉がぴったりだ。
二人のどちらが強いかは分からないがラースは手負いだ。
もし今戦えばラースに勝ち目はないだろう。
この局面、俺はどうしたらいいんだ!?
「ふふふ、そう怖がらなくていいよジーク君。今日の目的はそこにいる裏切り者の始末。君たちにはまだ役割があるからね」
芭蘭の言葉に嘘の気配は感じない。
もしここで何もしなければラースは倒されめでたしめでたし。
……になるのだろうか?
もしここで芭蘭と闘っても勝機は薄いだろう。俺ももうひとりの俺も疲弊してしまってるからな。
でも……でも、俺にはあいつを見捨てることは出来ない。
「……おや? どういうつもりだい?」
芭蘭の前を遮るように立つのは二人の俺。
そんな俺達を不思議そうに、そしてどこか苛々しげに芭蘭は目を細めて睨む。
「さあな。確かにこいつのことはよく知らない。だけどここで見殺しにしたら絶対に後悔する」
「そういう事だ。ラースは俺にとってもはや他人じゃないしな。なにせさっきまで同じ体にいたんだ」
俺たちに行く手を阻まれた芭蘭はゆっくりと下を向くと体中から恐ろしい魔力のようなものを吹き出し、低い声で喋りだす。
「そうか……残念だよ。君たちはまだ生かしておくつもりだったんだけどね」
恐ろしい殺気だ。
前に戦ったときとはぜんぜん違う。やはりあのときは本気じゃなかったのか。
「くそ! 戦力差を埋める方法はなにかないのか……!?」
「……一つだけある」
そう答えたのはもうひとりの俺。
「いったいなんだ!?」
「決まっているだろ……合体だ!!」




