第19話 最初で最後の共闘
「本当の体……だと……?」
ラースの正体はあの悪魔みたいな生き物だってことかよ。
もとより人ではないと思っていたが、まさか悪魔だとは……。
「来るぞっ!」
もう1人の俺の言葉で我に帰った俺はラースの振るった拳を跳んで避ける。
元の体に戻ったせいか今までの攻撃よりも速く、鋭い。
避けるのに精一杯で反撃の糸口が掴めない!
『落ち着け! 奴はまだ自分の体に完全に順応していない。今なら押し切れる!』
俺の頭に響く声。
どうやらもう一人の俺が共感覚の力で
どうやらもう一人の俺が共感覚の力でテレパシーの様に話しかけてきているようだ。
これならラースに聞かれず作戦を立てれるってわけか。
流石俺、頭がいいぜ。
『今こうしている間にもあいつの魂はあの体に少しづつ馴染んでいる。完全に順応してしまえば勝ち目はないだろう』
『じゃあ……アレでとっとと片をつけるってワケだな?』
『そうだ。話が早くて助かる』
俺と俺は視線を交わし、小さく頷き合う。
そして同時にラースへ視線を移し、魔法を発動する。
「「交差する火炎!!」」
完全に同タイミングで放たれた二つの火柱はラースの眼前でぶつかり、巨大な爆発を引き起こす。
本来ならかなり高難易度の共鳴魔法だが、合わせる相手は自分。何も意識しなくても合わさるって寸法だ。
「ぐっ……!」
さすがのラースも今の一撃は効いたようだ。
片膝をついた奴に俺達は合図も無しに追撃をする!
「うおおおっ!」
もう一人の俺の怒涛の格闘攻撃がラースに降り注ぐ。
魔力こそ残り少ないが、もう一人の俺には身につけた強力な魔道具がある。
特に身につけた鎧『神々の戦鎧』と「|巨人族の手甲《手甲」は準神話級の魔道具だ。
例え魔力を通わさなくても装備しているだけで身体能力を神性生物級に引き上げてくれる。
その2つの魔道具のサポートを得た拳は一撃一撃が並の魔法を優に凌ぐ威力だ。
それを証明するかのように、一発二発三発と拳が当たる度にラースの体は砕け、折れ、ひしゃげていく。
それでも隙を突き反撃を試みるラースだが、その攻撃は俺が阻止する。
時に魔法で、時に丈夫な体で受け止め、もう一人の事をサポートする。
「ゼハァ……ゼハァ……」
すると5分も経たない内にラースの肉体はボロボロになり、立っているのもやっとの状態になる。
やけに呆気ない幕切れだ。
「……どうした。早くやれよ」
まるで死を望むかのように己の首を差し出すラース。
妙だ。もっと抵抗すると思ったのに。
攻撃が激しかったのは最初だけで途中からまるで自分から負けにいってるみたいだ。
「……」
そんなラースのもとへもう一人の俺が近づく。
「よかったな。ようやく憎い俺様を殺せるぜ? これで晴れてお前の体は自由の身ってワケだ」
ラースにもう抵抗する意思はないように見える。
これにて一件落着……と思いきやもう一人の俺の口から出たのは驚きの言葉だった。
「なぜ……なぜお前はわざと負けたんだ?」




