第18話 亀裂
「……っ!」
俺の体から抜け出た俺は、再び仮初の体に戻り飛び起きる。
そこでまず目に入ったのは心配そうに俺を見る3人の部下たちだった。
「おきたー!!」
「おわっ!」
わんわん泣きながら飛びついて来たのはアン。
俺が意識の失っている間泣いていたのだろう。目元が真っ赤じゃないか。
スイは飛びついては来ず俺の服の端をきゅっと握るだけだが、その目元はアンに負けず劣らず真っ赤だ。
どうやら心配をかけてしまったようだな……。
「その様子ですと上手くいったようですね」
「ああ。心配をかけたなシェン」
「いえいえ。私はジーク様なら必ず成功して戻ってくると信じていましたので」
シェンは誇らしげにそう言う。
しかしそれを見たアンとスイが横槍を入れてくる。
「えー? シェンもしんぱいしておろおろしてたじゃん!」
「ん。私達と同類」
「な、何を言うのですか! ジーク様の前で!!」
ぎゃあぎゃあと言い合う二人を見て俺は思わず「はは」と安堵の笑みを浮かべる。
しかし安堵したのも束の間。意識を取り戻したゆっくりと俺の本体が起き始める。
「下がって下さいジーク様!!」
すぐさま俺を守るように陣形を組む三人。
彼らが警戒するのも無理はない。
だけど俺には分かる。
「大丈夫だ。もうあいつは」
起き上がったもう一人の俺は辺りを不思議そうに見渡すと、自らの手を握ったり開いたりする。
「不思議な感覚だな。長い間眠っていたような感覚だ」
「はっ。寝すぎなんだよお前は」
断言できる。
今ここに俺の体はラースから取り戻された。
「ジーク様が2人……!? いったいどちらを何とお呼びすれば!?」
シェンが混乱してるが無視する。
急にアホの子みたいになったなコイツ。
「それで? 肝心のあいつはどこ行ったんだ?」
それは俺も気になっていた。
俺はラースを追い出しただけ。倒してはいない。
それなのに王の間に奴の姿は無かった。
「いったい奴はどこに……?」
「奴ならジーク様が気を失っている間に溶けたように地面に消えていきました。なのでてっきり倒されたのかと思いましたが違ったようですね」
どうやらまんまと逃げられてしまったようだ。
まだ遠くには行ってないと思うのだが……。
「シェン。防衛設備で奴を追うことは出来るか?」
「少々お待ちを……、どうやら今の戦いで損傷してしまったようです。復旧するには一回の端末を修理する必要がありますね」
「そうか。じゃあ急いで復旧に取り掛かってくれ」
「かしこまりました。すぐに直してみせます」
そう言って足早に離れていくシェン。
念のためアンとスイも同行させた。下の階にはラースが潜んでいるかもしれないからな。
しかしそれにしても。
「あいつはいったい何が目的だったんだ?」
そう。
ラースの目的が分からない。
あいつは一切俺の仲間には危害を加えず、俺だけを目の敵にしていた。
この国を乗っ取るのが目的? いったい何のために?
もう1人の俺に尋ねてみるも、心当たりが無いらしく首を横に振る。
ううん、狙いが分からないと対策の立てようもないな……。
俺が頭を抱えていると、もう1人の俺が何かに気づく。
「おい、なんか揺れてないか?」
「え?」
確かになんか地面が揺れている。
その揺れは次第に大きくなっていき、戦いで地面に入った亀裂が大きくなり始める。
「くっ! 一旦退くぞ!」
「ああ!」
俺たちは亀裂が入る王の間の中央部より飛び去って部屋の端にいく。
その瞬間亀裂が巨大な穴となり、大きな柱のようなものが生えてくる。
いや……あれは柱ではない。
腕だ。柱に見間違うほど大きな腕。
そしてその腕の持ち主が穴の中から現れる。
「「こ、こいつは……!」」
俺は、俺達は現れたその姿に見覚えがあった。
山羊の頭に黒い翼。巨大な肢体に漂う死臭。
それはキリスト教の中に出てくる悪魔と酷似した姿。
間違いない。あれは魔王城の地下、『奈落』に保管されていた謎の生命体だ。
「……あア、悪くなイ感じダ」
山羊の悪魔がそう喋る。
その声、そして感じ取れる魔力。間違いない。
「お前……ラースだな」
「あア、よう分かったナ」
ニヤリと山羊の頭に笑みを浮かべると、続けてラースは驚愕の事実を口にした。
「ククク、一度は危ないと思ったガ、お前が俺の本当の体を持ってテ助かっタぜ!」




