第16話 スイレン
テレサと共にマーレの待つ女王の間に入る少し前、俺たちは意外な人物に会っていた。
「お待ちしておりました、ジーク様」
「お前は……スイレン。なんでこんなところに」
そこにいたのは専属使用人の一人、スイレンだった。
青く透き通った髪に白い肌が特徴的な彼女はよく似合う白いドレスに身をまとい俺たちを待ち受けていた。
「どうやら戦闘の意思はないようじゃの。いったい何用じゃ」
テレサがそう尋ねるとスイレンはここにいる理由を語り始める。
「私がここにいる理由はただ一つ。あなた方の助けになるためです」
スイレンはそう言うと俺とテレサの手を取り、回復魔法を唱える。
あたりに青色の光が充満し、瞬く間に俺とテレサの傷が癒えていく。スイレンはとある国で凄腕の国家回復術師として活躍していた魔法使いだ。
こと回復魔法に関しては幹部たちをも上回る力を持っている。
そのおかげで先程までの戦いで疲弊していた俺たちの体は瞬く間に元気を取り戻し、消費した魔力もいくぶんか回復した。
「くく、よもやここまでの腕前とはの。これならまだ戦えそうじゃ」
「ああ、正直さっきまでのコンディションでこの先戦うのは厳しかったからな」
「ふふ、それはなによりです」
上品な感じでスイレンは微笑む。
どうやら本当に彼女は俺たちの力になるためにいてくれたようだ。
「しかしいいのか? こんなことしたらお前も危ないんじゃないのか?」
「心配いりません。あなた様の味方をすると決めたのは私だけではありません」
スイレンがそう言うと柱の影からふたりの人物が姿を現し、俺に飛びついてくる。
「ジークさまー!」
「ん、やっと会えた」
出てきたのは双子の姉妹、アンとスイだった。
彼女たちは出てくるや否や俺に飛びついてくる。なんだかこうするのも久しぶりな気がする。
最近は色々と動き回っていたせいで構ってやれなかったからな。
「どうしてお前たちまでここにいるんだ?」
抱きついてくる二人にそう聞くと、驚くべき答えがかえってくる
「だっていまのジークさまってにせものでしょ? アンはすぐわかったよ!」
「ん、わたしたちにはバレバレ」
「に、偽物だって!? どうしてそんなことが分かるんだ!?」
「だってジークさまの魔力は金ぴかなのに、あっちのは赤くて黒いんだもん」
「ん、一目瞭然。あんなので騙せると思ってるとは滑稽」
「え? 赤い? 黒い? どう言う意味だ?」
当然のことながら魔力に色などない。
温度のように何となく肌で感じ取ることは出来るが、魔力が大きい小さいといったことしか分からないはずだぞ?
俺は彼女たちの言っていることが理解できず困惑するが、隣にいるテレサの反応は違った。
「驚いた……! その年で魔力視が出来るとは……!」
「魔力……視?」
テレサの口から聞きなれない言葉が飛び出す。
いったい何だそれは?
「魔力視というのは魔力を視覚で知覚する能力のことじゃ。わしら魔女にのみ伝わる秘伝の能力のはずなのじゃが……。こやつらは自らの才能のみでこの力を会得したようじゃな」
あのいつも余裕な姿勢を崩さないテレサが冷や汗を流している。どうやら二人はとんでもないことをしているようだな。
それにしても魔力の色で人を見極めることが出来るとは。
この力があればあいつがまた偽物を作ったとしても見極められるってワケか。だとしたらあいつと戦うにあたってとても心強い戦力となるな。
「ジークさま! あたしたちもたたかうから連れてって!」
「ん! 必ず役に立つ!」
二人もこう言ってるが流石に危険過ぎるのではないのだろうか?
彼女たちの戦闘の能力とセンスは俺も認めるところではあるが、それでも子供。
何か安全な場所があれば……。
「……あ、あれならいけるかもな」
考え抜いた末に俺は思いつく。
彼女たちを安全に連れていく術を。
それが俺の体内に収納すると言うやり方だ。
俺の体内を守るため俺の装甲はかなり頑丈に作られており、中に衝撃を通さないようにもなっている。
この中にいれば安全だ。
というわけで彼女たちは俺の体内に入り、一緒に行くことになったのだ。
出来れば彼女たちの力を借りることなく勝ちたかったのだがそう贅沢を言える状況でもない。
「悪いな、一緒に戦ってくれるか?」
「うん! とうぜん!」
「ん、任せて!」




