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第15話 奥の手

俺の魔法が直撃したラースは弾け飛び床を転がる。

かなりのダメージを与えたはず。しかし奴は太い腕を地面に押し当てすぐに起き上がってみせた。

くそっ。どんだけタフなんだ。


「ハア……ハア……やるじゃねえか。まさかここまでやるとは思わなかった……ぜ!」


ラースは離れた位置から腕を伸ばし拳を当てようとする。

しかしその攻撃も俺に当たることは無かった。確かに体の芯を捉えていたその攻撃は俺の体が霧のように霧散することで空振りに終わる。


「ちっ! またかよ!」


苛々しげに語気を荒げるラース。

奴がまだカラクリに気づかぬうちにトドメを刺さなくては。


俺は俺が消えたすぐ横から姿を現し、ラースに向かって走り出す。

次に俺を攻撃してきた時がやつの最後だ。


「ナメんなよ? オレ様がそう何度も引っかかると思ったら大間違いだぜ!」


奴はそう不敵に笑うと再び腕をぎゅいんと伸ばす。

しかし俺の方向ではなく、自分の真横にだ。いったい何をする気なんだ!?


「いくぜえ、憤怒の(ラース)……剛鞭(ウィップ)!!」


ラースは伸ばした腕をまるで鞭のようにしならせ横に薙ぎ払った。

とてつもない速さと攻撃範囲を持ったその一撃は俺の体に命中し、再び俺の体は霧となりすり抜ける。

しかし攻撃はそれだけにとどまらず、空振ったその先で姿を消していた俺に命中する。先程までとは違い今度の俺は本体だ。霧散して避けることは出来ない。


「かっ……はぁ……!!」


あまりの衝撃に俺は肺から空気を全て排出し、意識を失いそうになってしまう。

だけどここで倒れたら全て終わりだ……

俺は片膝をつきながらも、力を振り絞り倒れることだけは阻止する。


「今の攻撃をくらってまだ意識があるとは大したもんだ。だがもう限界のようだな」


ゆらり、とラースは膝をつく俺の元へやってくる。


「俺の攻撃がすり抜けたアレ、鳥の効果なんだろ? お前が魔法を使ったようには見えなかったからな。最初は肉体を切りに変化させてんのかと思ったがそれには大量の魔力がいる。だとしたら考えられるのは幻覚魔法のたぐいだ。そこでオレ様は広範囲の攻撃でコソコソ隠れているお前をあぶりだしたってワケだ」


「まさかお前の頭がそこまで回るとはな……」


ラースの推理は大正解だ。

俺の召喚した神隠司の能力は「認識阻害」。

これがかかった者は他者の認識した空間軸からズレる。

脳筋な相手にはぴったりの能力だと思ったのだが、思った以上にラースは知恵が回るようだ。


「さて、と」


ラースはむんずと俺の頭を片手でつかみ持ち上げる。


「お前も頑張ったがこいつで本当に終わりだ」


大きく振り上げたラースの拳が俺めがけて放たれる。

絶体絶命の状況。しかしここが千載一遇のチャンスでもある。


今こそ、最後の奥の手を使う時だ。


「頼んだ、ぞ……二人とも……」


俺が掠れた声でそう言うと、俺の胴体部分が勢いよく開き中から二人のある人物が出てくる。


「いくよスイ!」

「ん、アンもしっかり合わせてね」


出てきたのは幹部のアンとスイ。

流石にこの展開は予想できなかったのかラースは目の前に現れた二人に呆気にとられる。


「「融解光線メルトレーザー!!」」


二人の放った超高温の熱線がラースの体に直撃し、吹き飛ばす。

その衝撃で俺の体も宙を舞うが、二人が受け止めてくれる。


「だいじょーぶ?」


「ああ、ありがとな二人とも」


「ん、当然。それより上手くいってよかった」


俺たち3人は顔を見合わせて作戦の成功を喜び合った。



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