第14話 かみかくし
ラースと戦っている中で分かったことが一つある。
あいつは、俺の能力「共感覚」を使いこなせていない。
もし使いこなせているのであれば俺の攻撃は読まれロクに当たりもしなかっただろう。
付け入る隙があるとすればここしかない。
シェンが加わり、まだ奥の手を残している今こそ最大のチャンスだ。
「うおおおぉぉぉっ!」
雄叫びをあげながら俺は真正面からラースに突っ込む。
当然ラースは無防備な俺を狙って魔法を放ってくるが、シェンが警備システムを巧みに操りその攻撃を阻止してくれる。
「クソがぁ! 邪魔ったらしい!」
「ククク、私の目が黒いうちはジーク様に指一本触れさせません」
苛立ったラースの意識が俺の後方のシェンに向く。
今だ。
今こそ俺の持つ最強の精霊魔法を発動する時。
「現界したまえ、朱色の鳥よ」
俺がその言葉を唱えた途端、あたりの空気が急に冷たく感じるようになる。
しかし実際に気温が下がったわけではない。これから現れる存在に生きとし生けるものは本能的に恐怖を感じるため、寒いと錯覚してしまうのだ。
「羽伸ばせ飛ばせ、羽ばたたせ
啄ばみ肉食み、その身を晒せ」
俺の詠唱に呼応し地面より巨大な鳥居が出現する。
これこそがかの者を呼ぶゲート。ラースもその異常性に気づいたのか警戒し始めるがもう遅い。
「来たれ、異界からの使者。神隠司!」
俺の呼びかけに応え鳥居の中から一羽の巨大な赤い鳥が姿を表す。
全長7mほどのその鳥はその大きな羽を羽ばたかせ鳥居の上に乗る。その姿は神秘的であり、まるで物語に出てくる不死鳥のようだ。
「頼んだぞ神隠司」
神隠司は俺の言葉に『くるるぅ』と鳴いて返事をしてくれる。
どうやら力を貸してくれるみたいだ。
「ハッ! どんな力を持ってるかは知らねえが死ねば何にも出来ねえだろうがよぉ!」
ラースはそう言って神隠司に向かって巨大な刃を飛ばす。
しかし俺はその攻撃を無視しラースに向かって走り出す。
神隠司も魔法に避けるそぶりすら見せず、悠然とした感じで鳥居の上に鎮座している。
「どういうつもりか知んねえが、そんなに死にてえなら死んじまいなっ!」
ラースの放った魔法は神隠司に当たる……かに見えたが、その刃は神隠司の体をすり抜けてそのまま後方の壁へと激突する。
攻撃が当たったはずの神隠司は何もなかったかのように鳥居の上で毛づくろいをしている。
「オレ様が外した……!? いや、そもそも手応えが無かった。となるとあの鳥は幻の類ってワケか。無駄な事をさせやがって!」
ラースは神隠司を幻と決めつけ再び俺に視線を移す。
しかし俺と奴の距離はもう数m。ここまで近づければいける!
「くらえ、灼熱魔刃!」
「狙いはいいが……遅え!」
俺は最大速度で魔法を構築するが、奴の拳はそれよりも速かった。
俺が魔法を完成させるよりも早く奴の拳は俺の頭に激突……することなく俺の頭をすり抜けた。
「……あ?」
目の前の光景を理解できないのかラース口から呆けた声が漏れる。
きっとこいつは「また幻か?」とでも思っているのだろうが話はそう簡単じゃない。
現に俺はラースの背後に回り込み魔法を完成させているのだから。
「な!? いつの間に!?」
「もう遅い!」
俺の放った渾身の魔法は、ラースの背中に音を立てて命中した。




