表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/142

第8話 牢獄

時空神の懐中時計(タイム・ウォッチ)


 それがジークがテレサに渡した魔道具の名前だ。


 読んで字のごとくこの魔道具は時間に干渉する。

 しかし時間に干渉する魔法は大量の魔力を消費してしまうので、テレサといえど他人を老けさせたり物を劣化させたりなどは出来ない。


 しかし自分にかけるとなると話は変わってくる。

 テレサの肉体が全盛期に近づくほどにテレサの魔力は爆発的に増幅するからだ。そのため魔力の増幅量が消費量を上回り数年単位の時空干渉を可能にした。


 今のテレサの年齢は20代前半といったところ。

 彼女にとって肉体、魔力両面においての最盛期と言えるだろう。


「くくっ! 軽い軽い! こんなに体が軽いのは何十年ぶりかのう!」


 テレサは体を浮遊させ宙を舞ながら気分良さそうに叫ぶ。

 一見隙だらけに見える行動だが、マーレは攻め込めないでいた。


(なんという魔力濃度……! これではうかつに攻めたらやられるのはこっちですね)


 テレサの周りには見えない魔力のフィールドが貼ってある。

 そこにうかつに魔法を放ってしまったら立ち所にその魔法は解析され無力化、または反射されてしまう。

 マーレはそのことに気づいていたため出方を伺っていたのだ。


(さすがに簡単には食いついてこぬか。ならばこちらからいくぞ!)


 テレサはあえて隙を晒していたのに攻めてこないマーレを見て作戦を変えることにした。


「紅玉の弾丸ルビー・バレット!!」


 テレサ得意の宝石の弾丸。しかしその威力と大きさはいつもの比ではない。

 通常時だと拳大ほどの大きさだが、今放ったのは大砲の弾の如き大きさだ。


 マーレは急いで水球を二つ発射しテレサの魔法の迎撃をする。

 テレサの放った魔法は確かに強力だったがマーレの水球には及ばず、水球にぶつかると中に吸い込まれ押しつぶされてしまう。


(よし!)


 自分の魔法が変わらず通じることが分かったマーレは心の中で小さくガッツポーズする。

 しかし対するテレサは自分の魔法が敗れたにも関わらず小さく笑みを浮かべ、なんと水球の元へ駆け出した。


「なっ……!」


 テレサの思わぬ行動にマーレはほんの一瞬だけ思考が遅れてしまう。

 テレサはその隙を見逃さずマーレの水球に近寄り、密かに練っていた魔法を発動する。


宝玉の牢獄(ジュエル・ジェイル)!!」


 テレサの手から放たれたのは赤青緑と色とりどりの小さな宝石たち。

 その宝石たちは二つの水球を取り囲むように位置取ると、突然目も開けられないほどの光を放つ。


「これは!」


 光が収まりマーレが水球のある場所を見てみると、なんと二つの水球は宝石が作り出した綺麗な光の結界の中に閉じ込められていた。

 遠隔で操作を試みるマーレだが結界内の水球はピクリとも動かず、また魔法の解除も出来ない。


「くくっ、危ない橋だったがこれでもうこの厄介な魔法も使えまい」


「……一体何をしたのですか」


「簡単なことよ。結界内の時を止めただけじゃ。まあ正確には極限まで時間を遅くしたというのが正しいがの」


 宝石には複数の属性が秘められている。

 眩く煌めく『光』。

 どんな衝撃にも屈さない『硬さ』。

 そして悠久の時を耐え抜く『不変』。


 テレサはこの『不変』の力を極限まで高め、時の流れすら止める不変の結界を作ったのだ。


 しかし当然この結界を維持するにも少なくない魔力を消費し続けなければならない。

 その上『時空神の懐中時計(タイム・ウォッチ)』の効果もそう長くは持たない。全盛期の姿でいられるのも長くてあと数分。

 早めに勝負を付けつけなければテレサに勝機はない。


「悪いが勝負を急がせてもらうぞ! いでよ宝玉眼の赤毛竜ジュエルアイズ・レッサードラゴン!!」


 パキリ、と時空に裂け目が開き、そこから首の長い全長10mほどの四足の竜が雄叫びを上げながら現れる。

 体は細身ながらも引き締まっており人間など簡単に引き裂くほどの筋力がある。背中には体の大きさと同じくらいの羽が生えており、これを羽ばたかせることでこの巨体を自由自在に動かせることができる。

 そしてその眼はまるでダイアモンドのごとく光り輝いており、見るもの全てが魅了されるほどの不思議な力を持っている。


「くくっ、久々の再会を喜びたいところじゃがそうも言っておれん状況でな。すまんが力を貸してくれ」


 そう言ってテレサが竜の下顎を優しく撫でると竜は「クアァ……」と甘えるような声で返事をする。


「なるほど、それがあなたの奥の手ということですね。でしたら私も全力を持ってお相手させていただきます」


 マーレはそう言って先程までの水球とは桁違いの魔力を放出し始める。

 あまりの魔力量に大気は震え、地面にはヒビが入る。


「グルル……!」


 テレサの召喚した竜がマーレに警戒し唸り声を出す。


「高ぶっておるなルビィ。くくっ、その気持ちわしも分からないでもないぞ」


 マーレの背後に形成されていく巨大な水の塊を見ながらテレサは赤毛の竜、ルビィをなだめる

 。

 お互い手加減なしの最大の魔法。おさらくこれが最後の攻撃になるだろう。



「「……」」


 そしてその時は訪れる。

 まるで二人は示し合わせたのかのように同時に動き出すと、己の信じるもののため、己の守りたいものため、己の全てをかけて魔法を放つ!


大真紅の竜息吹(スカーレット・ブレス)!!」

母なる海女神(マザー・エンプレス)!!」


 二つの巨大な魔力の激突は女王の間全体を包み込み、光で埋め尽くした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ