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第11話 嫌い

 8つの頭を持つ蛇の怪物へと変貌を遂げた元老院は己の本能のまま暴れ始める。


 特徴的なその頭は見た目よりもよく伸び、逃げ惑う人々を捕食する。腹部まで含めると100mを超すそのリーチからは、常人では逃れられない。


「陰陽京守護隊聞こえるか! 全員緊急招集だ!!」


 興亀は急いで仲間を招集する。

 今こうしている間にも一人、また一人と犠牲者が出ているためその表情は必死だ。


「こちらも出来る限りの陰陽師を呼んだ。じきに来るだろう」


「あたしも人命救助に行かせたわ。とてもあたしたち以外にあいつ(・・・)の相手は出来ないでしょうしね」


「ぼ、僕も呼んだけどあんまり来ないと思うよ」


 四象家の面々が陰陽師に伝わる連絡魔道具で仲間を呼ぶ。

 ものの数分で援軍は来るだろうが彼らでは蛇の化け物にダメージを与えることも出来ないだろう。


 今ここにいる四人でやらなければならない。


「せめて虎鉄がいてくれりゃあな……」


「は? なんであいつの名前が出てくんだよ!?」


 興亀の言葉に雀長が反応する。


「あいつはもうここの人間じゃない。陰陽京ここの平和を守るのは陰陽師おれ達の仕事だ!」


 そう言って雀長は魔力を練り始める。

 彼の操る属性は火。瞬く間に灼熱の火が彼の周りに発生し空気が揺らめき始める。


「火行・火鳥飛刃かちょうひじん!!」


 雀鳥の手から放たれるのは鳥の形をした火のやいば

 羽ばたきながら蛇の化け物へと飛んでいくその魔法は見事8つある頭の1つに命中し、頭を切り落とす。

 しかし……


「おいおいマジかよ……!」


 切り落とした断面はものの数秒でぐじゅぐじゅと気持ち悪い音を立てながら再生を始める。

 そして時間にして1分も立たない内に頭部は完全に再生を遂げてしまう。


「ちょ、こんなに早く再生されたらキリがないじゃないか!」


「だけど何かしら弱点があるはず……龍々家、何か分かるか?」


 渾身の攻撃が効果なく焦る雀長をよそに興亀は龍々家へ助言を求める。


「うむ、少し見てみるか」


 一歩前に出た龍々家はカッ!! と閉じていた眼を見開き蛇の化け物を観察し始める。

 青松院家に伝わる秘技『龍眼』は魔力の流れを視覚情報で感じとることが出来る。龍々家はこの技を使い敵の魔力の流れを見極め強力すぎる再生能力の秘密を暴くつもりなのだ。


「……成程。これは厄介だ」


「何かわかったのか!?」


 眉をしかめる龍々家に興亀が詰め寄る。


「うむ。あの蛇の化け物の頭部、その一つ一つが強力な魔力を持っている上に他の頭部と太いパイプで結ばれている。そのせいで一つの頭部を破壊したところで他の頭部よりすぐに魔力が供給され回復してしまう」


「じゃ、じゃあどうすれば奴を倒せるんだ?」


「全ての頭部の破壊。しかもそれを再生するまでの一瞬のうちにやらなければならない」


 一同の間に重苦しい空気が流れる。

 相手は規格外の化け物。一つの頭を相手にするだけでも骨が折れるというのにそれを同時に8つも討伐するなどとても不可能だ。


 そんな様子を蛇の化け物は見逃さなかった。

 彼らの隙をつき、頭の一つが四人に気づかれぬようするりと近づくきその大きな口を開き襲い掛かる。


「いつの間に!?」


 いち早く気づいた興亀が臨戦態勢をとるがもう遅い。

 めいいっぱい開いた口は四人まとめて軽く飲み込むほどの大きさを持っている。それを全て受け止めるのは不可能だ。


「ここまでか……!」


 興亀が諦めかけたその時、両者の間に割って入るようにある人物が現れる。


「金行魔法剣……金月!!」


 その者から放たれたまばゆい閃光は蛇の頭部を縦に真っ二つに切り裂く。

 例に漏れずその切断面もすぐに再生を始めるが化け物にも痛覚はあるようでむき出しになった気道から威嚇音のようなものを発しながら一旦引いていく。


「大丈夫か、お主ら」


 蛇が退いたのを確認し近づいてくるのはもちろん虎鉄だ。よほど急いで走ってきたのだろう、息は切れ肩は上下している。


「なんだよオメエ来てくれたのかよ!!」


 思わぬ仲間の登場に興亀の顔はほころぶ。

 龍々家も援軍の登場に肩を撫で下ろし、虎虎はどうでもいい感じを出しながらも嬉しそうだ。


 しかし雀長だけは不快感をあらわにしてつっかかる。


「なんでここに来た!? お前がいなくてもあんな奴俺たちでなんとか出来る!!」


「お主が拙者を好ましく思っていないのは分かっている。しかし今はそんな事を言ってる場合ではなかろう」


「ちっ……! お前は本当に変わってないな!」


 虎鉄の言葉に雀長は更に機嫌を悪くする。

 その様子を興亀と虎虎は不思議そうに見つめる。雀長がここまで頑なに虎鉄を否定する理由が分からないのだ。

 雀長は優秀な陰陽師ではあるが生来の小心者だ。

 しかし同時にプライドも高く、昔から虎鉄に対し気に食わない態度を取っていた。


 しかし今は非常事態。いくら彼のプライドが高かったとしてもここまで拒否するのはおかしいように思えた。


 そんな中、いきり立つ雀長の肩に龍々家が優しく手を置く。


「お主も難儀なものだ。そのような言い方しか出来ぬとはな」


「どういうことだ?」


 龍々家に虎鉄が尋ねる。


「こやつが怒っているのはお主を嫌っているからではない。むしろその逆だ」


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