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特別読み切り「孤高のグルメ」


 孤高のグルメ


 

「すきやき用の鍋が好ましい」



 そう言いながら、センは、

 創造系の魔法を使い、

 目の前に、すきやき鍋を用意した。


 一応、究極超神器である。

 耐久性も洗いやすさも極上。

 実用性を重視するセンは、

 見た目にはさほどこだわらなかった。


 適度な弱火が、鍋を温めていく。

 

「かたい牛脂が、とろりと溶けて、鍋の中で、たおやかな広がりをみせる」


 言いながら、センは、鍋の上で牛脂をころがす。

 遊ばせるように、なじませるように。

 


「その上に砂糖だ。鍋の底が見える程度に、だが、見えすぎない程度にしきつめる」



 手際よく、センは下地をつくっていく。


「ここが大事だ。すべてに通じることだが、土台がしっかりしていないと、何もうまくはいかない。こころおろそかにした者が頂点からの風景を見ることはできない」


 続いて、センは、肉をとりだす。

 先ほど瞬殺したカイザードラグーンの肩ロース。

 抜群のサシが刻まれており、

 白と赤が織りなす圧倒的桃色が、

 食欲の中心を震わせる。


「分厚い肉はロマンだが、しかし、ロマンだけを追い求めた男の末路は悲惨だ。妥協は決して悪じゃない。もちろん正義でもない。正義や悪なんてのは、どの視点から見たところで、結局のところ、相対的な感情論でしかないから」


 ロマンチストでありながら、

 現実主義者でもあるセンは、

 繊細な剣さばきで、

 カイザードラグーンの肩ロースを、

 絶妙な薄さにスライス。

 

「すべてはバランスだ。神闘も、アイテム創作も、世界の運営も、何もかも、結局のところは、『無数に存在する可能性』と、どう折り合いをつけるか。そこにかかっている」


 鍋の上に、肉を敷く。

 ジュゥ……

 と、上品な弱火が、

 最高品質のしもふりを、

 極上のすきやきへと変化させていく。


 桜色だった生肉は、底から次第に、少しずつ、ゆるやかに、小麦色へと焼けていく。

 

「焼きすぎた肉は罪だ。適齢期を過ぎた肉など、コゲたたんぱく質の塊にすぎない。――可能性の閉じた肉を、俺は許さない」


 意識の高い事を口にしつつ、

 センは、丁寧に、肉をひっくり返す。


 焦げ目のついていない完璧な色。

 磨き抜かれた宝石のように美しい。


「ここで醤油を投入する。あくまでも、香る程度の味付け。砂糖の甘さを引き立てるため。濃すぎても薄すぎてもいけない」


 そこで、センは、ワインを用意した。

 ボルドータイプの赤。

 美しき、神の雫。 






「……これが……命の答えだ……」






「――うるせぇ、小うるせぇ」

 

 そう言いながら、ソンキーは、

 自前のフォークで、肉を突き刺すと、

 そのまま口の中に放り込む。



「あああああっ!」


 叫ぶセンを尻目に、

 ソンキーは、肉に歯をたてる。

 かみしめると肉汁が弾けた。

 尊い甘さの奥に、ジュクジュクとした脂の輝きを感じる。


 舌が喝采をあげていた。

 芳醇な旨味が広がって、

 体が活性化していく。


 ――そんなソンキーの蛮行に対し、

 センは、目を見開いて、


「おいごら、カス脳筋……き、貴様……今、自分が何をしたか、わかっているのか?」


「肉なら、死ぬほどあるんだから、また焼けばいいだろうが。ごちゃごちゃぬかさず、さっさと焼け。というか、もっとでかい鉄板を創造しろ。なんだ、この小さい鍋」


「……風情のカケラも理解できない、戦闘ジャンキーのカス野郎が……だから、てめぇはダメなんだ。もう、ほんと、ダメ。何もかもが終わっている。ああ、ないわぁ……ほんと、ない。存在が、最初から、詰んでるわぁ」


 怒りをあらわにするセンに、

 ソンキーは、


「いいから、さっさと焼けと言っている」


 そう言いながら、

 カイザードラグーンの肩ロースを、

 ササっとサイコロ状に切り刻み、

 鍋の中にぶちこんだ!


「だぁあああっ!」


 そのイカれた姿を目の当たりにしたセンは、

 生ごみを見る目をして、


「……だ、だめだ、こいつ……正式に終わっている……あのヤベェ姉よりも終わっている」


「姉貴より終わっているヤツなど、この世にいない」


 そう言いながら、ソンキーは、

 ひょいぱく、ひょいぱくと、

 ある意味で非常に男らしく、

 サイコロステーキをほおばっていく。


「味が薄いな。焼き肉のたれをよこせ」

 

「まじかこいつ……こんなにもマナーのなっていないヤツに育てた肉親の顔が見てみたい」

 

「いつも見ているんだろうが。てめぇの師匠なんだから。つぅか、てめぇも、食に、そこまでこだわりねぇだろ。なに、急に食通ぶってんだ」


 もぐもぐと粗野に肉を噛みちぎる。

 分解されて、ソンキーの血肉になっていく。


 乱雑なお食事を続けるソンキーを尻目に、

 センは、タメ息交じりに、


「……お前の姉貴に、『神の王なんだから、食に関してもちゃんとしておけ』と命じられたんだよ」


「神の王ってのは、そんな細かいところも十全でないといけないのか。あー、よかった、辞退できて」


「俺に負けただけのくせに、何、自分から引いたみたいなノリにしようとしてんだ」


 仕方なく、センも肉をひょいぱくしていく。

 実際のところ、食に対して、

 そこまで強いこだわりはない。

 少なくとも、

 『戦闘技能』に対してのこだわりよりは遥かに下。


 ある程度、たがいに、もくもくと食事を続けたところで、

 ふいに、ソンキーが、


「……そういえば、お前……最近、ウチの姉貴に何か言ったか? つぅか、言ったろ。何を言った?」


「え、なんで?」


「ものすげぇピリピリしていて、むちゃくちゃウザい。基本的に、姉貴は、お前のこと以外では本気でキレねぇ」


「……別に何もしていないが……んー、直近で話した内容で、変わったことと言えば……ああ、ゼノリカについては、ちょっとだけ話したっけ。俺が死んだあとは、頼むぞ、的なやつを」


「……ちっ……」


「おい、なんで、舌打ちした?」


「姉貴にゼノリカの話をするんじゃねぇよ。姉貴、ゼノリカ、大嫌いなんだから」


「はは、なんでやねん」


「……」


 ソンキーは、ダルそうに溜息をついてから、


「……ゼノリカもそうだが、お前が死んだ時の話とかもするんじゃねぇ。姉貴はお前に惚れているんだ。惚れている夫の死んだ話なんかされて、機嫌が悪くならないわけがないだろう」


「また質の低い冗談を……あいつが、俺に惚れるわけないだろ。あいつの価値の高さと、俺の男としての程度の低さを、ちゃんと考えてから発言しろ」


「……」


「なんだよ、そのゴミをみるような目は。ぶっころすぞ」


「もういいや……お前が正式に義兄になるとか、絶対に嫌だし……ずっと、そのままのアホでいてくれ」


 諦めたようにそう言うと、

 ソンキーは、

 最後に、残った肩ロースを直手で掴むと、

 焼き肉のたれをぶっかけて、

 生のまま口の中に放り込む。


 すさまじい咀嚼でサクっと溶かすと、

 そのままゴクリと飲み込んで、


「やっぱり、焼くより生の方がうまいな。刺身こそ至高」


「……ソンキーよ。お前ぐらい、メシに無頓着なやつをみると、やっぱり、食の方も、しっかりしておいた方がいいかも、と思ってしまいますねぇ。反面教師、助かる」


 そう言いながら、センは伸びをして、

 赤く染まる空に視線を向けた。


 神界の深層は今日も穏やかで、

 柔かな光に包まれている。


 センは、全身のオーラと魔力を充満させると、


「じゃあ、食後の腹ごなしに、サクっと殺し合うおうか」


 ここ最近、ずーっと続けている殺し合いの続きに入る。

 お互い、『今の自分』を超えようと、

 お互いを利用している。


 両者とも、あまりに強くなりすぎて、

 お互い以外に、トレーニングの相手になる者がいない。


 だから、別に仲良くもないのに、

 こうして、ずっと一緒に時をすごしているのでしたとさ。


 めでたし、めでたし。


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