84話 紅院正義。
84話 紅院正義。
「あいつに死なれてこっちが『死ぬほど困っとる』んも事実なんじゃい!!」
本音をブチまけるトコ。
その行為には『複数の想い』が見え隠れしている。
――トコは気づいている。
『一那の精神』が不安定になっていること。
だからこそ、トコは、全力の本音をブチまけたのだ。
人間関係の、それも『精神問題が大きく関わる難題』において、
『何が正解か』など、誰にもわかりはしない。
だからこそ、トコは、『本音』だけでぶつかろうと決めた。
それが正解か否かは知ったこっちゃない。
ただ、心の底から『真摯』であろうとした。
そんだけ。
――バチバチしている二人を尻目に、
センは、
「お忙しそうだから、俺は、そろそろ失礼して――」
と、どさくさに紛れて帰ろうとしたら、
まず、カズナが、
「宣言など不要! というか、いつまで、そこにいる! さっさと消えろ! 無価値なド庶民が!」
続けて、トコが、
「いや、だから、帰すなぁ、言うとるやろ、ぼけぇえええええ!!!」
収集がつかなくなった、このヤバい現状。
そこで、
「――いくらなんでも、さわがしすぎる」
と、重低音の声音でそう言いながら、
威厳たっぷりの老年男性が入ってきた。
白髪全開、シワビッシリと、
見た目は70~80にも見えるほど、
極めて質の高い貫禄と品格で包まれているが、
実際の年は52で、まだまだ現役世代。
高身長で、
スっと伸びた姿勢と、
たっぷりの口髭が特徴的な、
バッキバキに高価な和服に身を包む男。
『紅院正義』。
並んで立つと、祖父と間違えられることも多いが、
実際のところは『ミレー』の父である。
正義の姿を見た瞬間、
「……もうしわけありません」
カズナは、すぐさま頭を下げた。
トコに対しては横柄な態度のカズナだが、
さすがに、正義が相手だと、そうもいかない。
別に、正義に対して、心から平伏しているわけではないが、
その荘厳なオーラにあてられて、つい、頭が下がってしまう。
場が静かになったと同時、
正義は、ゆっくりと歩を進め、
センの目の前までくると、
「娘たちを守ってくれたこと、心から感謝する」
そう言いながら、スっと手を出してきた。
大きな手だった。
『この国の歴史』を支えてきた家の現当主。
絶対的支配者の血脈。
「あ、えっと……まあ、はい」
などと、軽く狼狽しつつも、
センは、正義との握手に応じた。
(雰囲気、エグいな、このオッサン……)
などと、センが心の中で思っていると、
正義が、
「目が覚めたばかりで、万全ではないだろう。今日は帰って、家でゆっくり体を休めるといい。車を手配させよう」
そう言った直後、
トコが、
「ちょっ……オジキ?!」
目を丸くして、
「まだ、話は終わって――」
と、文句を言おうとしたトコを、
正義は、強い視線で制し、
「……トコ……」
多くの言葉を使わず、
名前を口にするだけで、
トコの猛抗議を黙らせる。




