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98話 涙。


 98話 涙。


「閃、ちょっと、こっち向いてくれる?」


「……え、なんで?」


「ええから、ええから」


「……」


 トコは、

 普通に顔を赤くしつつも、

 しかし、ゆるぎない意志をもって、

 センに、ソソっと近づき、

 両手で、センの両肩を揉み始めた。


「……え、なにしてんの……?」


 あまりに謎が過ぎる状況に、

 ただただ困惑しているセンに、

 トコは、


「……お礼……」


 時間がたつにつれて、

 トコの顔は、どんどん赤くなっていく。


 別に、トコは『男に慣れているビ〇チさん』ではないので、

 『水着の状態で、一緒に風呂に入りながら、向かい合って肩を揉む』、

 という、この『青年誌が暴走したような状況』に対して、

 『恥ずかしさ』を感じていないわけではない。


 というか、むしろ、心臓が爆発しそうなほど、

 ドキドキがエグいことになっている。


 本当なら、『もう、無理! はずい!』と叫びながら逃げ出したいところなのだが、しかし、彼女は、必死になって、センに対する『礼』を実行している。


「閃……がんばってくれて、ありがとう。……あんたはすごい。世界一の男や」


 全力で、感謝を伝えていく。


 そんな『彼女の想い』が、

 つい理解できてしまったため、

 センは、


(ちょっ……いや……えぇ……)


 『逃げる』とか『やめさせる』とか、

 そういう選択肢をとることができなかった。


 トコの行動が、仮に、

 いわゆる『茶柱的なギャグのノリ』だったなら、

 普通に、トコの頭をシバいて、


『俯瞰で見てみろ! ヤバすぎるだろ、この情景! いい加減にしろ!』


 と、全力で叱りつけていくところだが、

 『トコの想い』があまりにもまっすぐだったため、

 受け入れざるをえなかった。


 センエースは、

 相手が『クソ野郎』だった場合、

 『空気』ごと殺していくデストロイスタイルを貫くが、

 しかし、

 相手から『本気の想い』をぶつけられている時は、

 『その全て』を、正面から受け止め尽くせる度量と器量を持つ、

 という、そんな、ある意味で『クソお人よし』なバカ野郎でもある。


 だから、センは、彼女の『礼』を全身で受け止めた。

 目を落とせば、そこには、

 水着に寄せられた『胸の谷間』があるので、

 必死になって、下だけは見ないように、

 『どこかしら』に目線を放り投げてみたり。


 下腹部に血液が集まりそうになるのを、

 奥歯をかみしめることで制してみたり。


 呼吸が荒くなりそうだと気づいて、

 つい、息を止めてしまって、

 顔がパンパンになったり、


「……」


 言葉に出来ない時間が過ぎていく。

 たがいに、『直接的』には表に出せない『思春期な感情』を、

 はたから見れば全力投球しつつ、


 両者は、たおやかに『お互い』を受け入れた。

 優しいだけの時間が、トクトクと、静かな脈を打つ。



(全身がしびれる……脳が溶けているみたいだ……)



 心の中で、そんなことをつぶやくセン。

 気づけば、両目から、涙が流れていた。

 音もなく、ゆるやかに、デリケートに。


 自分が涙を流しているということに気づいたセンは、


(……俺、泣いているのか……なんでだよ、アホか……この状況で泣くって、どういうことだよ……意味がわからん……あまりにも、バカバカしい……みっともない……つぅか、キモすぎる……)


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