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35話 頭が残念なヒーロー。


 35話 頭が残念なヒーロー。



「はぁ……はぁ……はぁ……」


 息を荒くして、


「なんだ、この呪の重さ……信じられん……凶悪な神呪……」


 ナイフに触れた手を、プラプラと揺らすウムル。


 そんなウムルの姿を横目に、

 センは、ナイフを自分の手の中に戻し、


「大げさな……確かに、気持ち悪くなるけど、そこまで慌てふためくほどのものじゃねぇだろ」


 などとつぶやきながら、

 センは、

 茶柱の方に向かって歩き、


「ちょっと、お前も、試しに掴んでみ」


 そう言いながらナイフの柄を向けてみる。


 ツミカは、いぶかしげな顔で、そのナイフを観察していたが、

 五秒ほど経ったところで、恐る恐る、手を伸ばした。

 すると、


「うぅうううううぅぅぅぇっっっっっ!!!」


 柄を掴むと同時、

 ツミカは、沸騰したヤカンにでも触れたかのごとく勢いで、

 ナイフを乱暴に放り捨てて、

 その勢いのまま、


「おろろぉ……うぇ、おぇっ……っっ!!」


 ガッツリと、ガチンコのゲロを吐いた。

 ビシャビシャの吐しゃ物が地に散乱する。


 その様を見て、

 センは、


「……これは……どうやら、俺が間違っている感じかな……?」


 などとつぶやいたところ、

 図虚空が、




「……ようやく気付いたか。自分の愚かさに」




 などと、声をかけてきた。


「センエース。あんたは、間違いなく『きわめてすぐれた魂魄を持つ稀代のヒーロー』だが、しかし、頭の方が残念すぎる」


「うっせぇ、だまってろ」


 そう言い返しつつ、

 再度、手の中にナイフを戻す。


 センは、ナイフの感触を確かめつつ、

 心の中で、


(……うん、気分悪いね……自律神経がウネっている感じがする……全身を蟲が這っている感じもする……吐きたくなる気持ちは分かる……けど、『実際に吐いてしまうほど』じゃないんだよなぁ……これの5倍くらいキツくても、ぶっちゃけ余裕)


 ――『トンカツ屋の店員』は、

 揚げたてのトンカツを素手で触っても、

 ほとんど熱さを感じることなく、余裕の顔をしていられる。


 一般人が、揚げたてのトンカツを手にしたら、

 当然、熱くてたまらないわけだが、

 しかし、プロは、熱さに耐えるだけでは飽き足らず、

 触っただけで、おおよそのグラム数まで分かってしまう。


 ――ようは、『慣れ』の問題。

 人間とは慣れる生き物。

 『繰り返した事』に対して、

 大小の差はあるものの、

 しかし、必ず『耐性』がつく。


 そして『その手』の『芯の奥に刻まれた感覚』は、

 奪おうとしても、そうそう奪えるものではない。



 『地獄のドン底』の『奥底』の『向こう側』を、

 何千年、何万年、何億年という『頭おかしい年月』を重ねて、

 ひたすらに、延々に、黙々と、ずっと、バカみたいに、

 全力で這いずり回って生きてきた男の、

 『精神的耐性値』をナメてはいけないのである。



「……ぁ、あんたっ……頭おかしいんじゃない?! なんで、そんなもんを持って、平気な顔をしていられるの?!」


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