第99話【三者の食、能力者の摂理-火燈鳳鞠Side-】
これは羽闇と舞久蕗の見送りから、二時間程経った後の話だ。
ファミレスの席で、俺は少ししょんぼりとしていた。
「はぁー…」
大きく溜息を吐いた俺を、隣に座る華弦は紅茶の入ったティーカップを傾けながら面白そうに見つめていた。向かいの席では夜空が窓の外を流れる景色に静かに目を細め、烏龍茶を啜っている。
「うぅ…!ラーメン…!ファミレスに来る予定じゃなかったのにどうして…」
目の前に置かれたコーラをストローでぐるぐるとかき混ぜながら、ぶつぶつと不満を漏らした。
「フフッ…ほまりん、そろそろ機嫌直したらどうだい?此処でもラーメンは食べられるじゃないか♪」
「でもさー!今日は三人で俺のオススメのラーメンを食べに行く予定だったのにー!」
「仕方ないだろー?あんなに行列だったんだし、食べられるのに二時間は待たされるらしいじゃん。それに、ほまりんが悪いんじゃない?お昼の時間、いつも混雑してるのすっかり忘れてたんだろ?」
「うぐっ……!」
華弦に図星を突かれ、言い返しが出来なくなった。三人でラーメン屋に行くのが楽しみすぎて舞い上がっていた結果、すっかりその時間帯の混雑具合を忘れていたのだ。
そうだよな…今日は土曜日だし、あの人気のラーメン屋が空いているわけがない。
そんなわけで、心待ちにしていたラーメン屋は結局お預けとなり今に至る。
午前中からの不運続きに再び溜息を吐いた。
「はぁ〜…寝坊するわ羽闇にもダサい姿を見せるわで……俺、マジで自分をぶん殴りたい気分だよ…!」
「……ぶふっ!」
ぼそりと呟くと、華弦はまたしても笑い出した。
「ぷっくくくっ…!いやいや…そう自分を責めないでいいんだよ、ほまりん。中々面白い姿だったんだからさ?片足だけスリッパ履いているところとかもう最高だったし!羽闇ちゃんもきっと、『鳳鞠君の意外な一面が見られて幸せ!』なーんて思ったかもしれないよ♪」
「全然慰めになってないからな、華弦!むしろ馬鹿にしてるよね!?」
その時、女性店員が俺達のテーブル席に料理を運んできた。
「お待たせ致しました、ご注文のメニューです。まずレモンサラダをご注文のお客様は……」
「はい、僕です。」
夜空が返事と同時に静かに手を挙げると、女性店員は彼の前にレモンサラダを置いた。
彩り豊かで、見るからにヘルシーそうだ。
「次にサーロインステーキをご注文のお客様…」
「はーい♪」
続いて華弦がヒラヒラと手を挙げると、分厚いサーロインステーキが彼の前に置かれた。
ボリュームもあって、滅茶苦茶いい匂いだ。
「そして、豚骨ラーメン大盛りをご注文のお客様は……」
ちらりと女性店員が此方に視線を向けたので、俺はとっさに元気よく手を挙げた。
「あ!俺、俺!」
そして、待ってましたと言わんばかりに盛々の豚骨ラーメンが俺の前にドンと置かれた。
湯気と共に、食欲をそそる濃厚な豚骨の香りが鼻腔をくすぐる。
「わぁー!ありがとー!」
「いっ、いえ……!ごゆっくりどうぞ。」
満面の笑顔でお礼を言うと、女性店員の顔はさっきよりも赤くなったように見えた。
彼女はぺこっと頭を下げてその場を去っていった。
「さあ、いっぱい食べるぞーっ!いっただきまーす!」
待ちきれずに、俺は熱々のラーメンにがっつく。口いっぱいに広がる豚骨スープの旨みに至福を感じ、しょんぼり気分なんて完全に吹っ飛んでしまっていた。
「んー!美味しい!やっぱりラーメンは最高だな!」
「相変わらず美味しそうに食べるねぇ、ほまりん♪」
「んぐっ……お腹空いてたんだもん!ラーメン食べないと生きていけないしー!」
そう言って、更に麺を啜る。
俺と華弦のやり取りを静かに聞いていた夜空がおっとりとした笑みを浮かべながら口を開いた。
「火燈君。今日は行けなくて少し残念だったけど、次こそは君のオススメのラーメン屋に連れて行ってね。」
「勿論!次こそは絶対に!今度は、羽闇と舞久蕗と海紀も連れて皆で行こうよ!」
その提案に、二人は大きく頷いた。
勢いよくラーメンを啜り続けている中、華弦がナイフとフォークを軽やかに動かし、ステーキを小さく切り分けていた。彼の所作はまるで高級レストランにいるかの様な優雅さで、ファミレスの喧騒とはミスマッチな程だ。
「ねぇねぇ!華弦さー、普段は少食なのに肉だけは話は別って感じで物凄い食欲を見せるよね?」
俺はふと気になった事を華弦に尋ねた。
一瞬、驚きの表情が彼の顔に浮かんだものの、すぐに掴みどころのないいつもの笑みに戻った。
「えぇー?何で知ってるの、ほまりん?」
「能力者の立食パーティーで見掛けてたんだもん!華弦がローストビーフとかステーキとか、お肉ばっかり取ってるところを!」
身振り手振りで説明する俺に、華弦は軽く笑った。
「アハハッ!そっかそっか、見られてたかー♪にしても、君が以前から僕に夢中だったとは知らなかったなぁ♪」
「誤解を招く言い方するなよっ!そんなんじゃなくて、いつも肉のコーナーに華弦がいるから目立ってただけだよ!」
必死に否定しても、華弦は切り分けたステーキを頬張りながらニヤニヤと笑みを深めるだけだった。
「ふーん?ま、確かに肉が好きだからパーティーだとついそればっかり食べてるねぇ♪一葉君に見つかってはよく怒られてるよ。」
「うん…それも何度も見掛けたよ。」
うんざりする程見てきた光景を思い出す。
パーティーで毎回のように肉料理の前を陣取り、皿いっぱいに盛り付けている華弦。それを見た舞久蕗は呆れた様子で彼を注意していた。
お構いなしに肉を食べ続ける華弦を結局舞久蕗が引っ張っていき、野菜や魚の入った小鉢を持ってきてあげていたのもしっかり覚えている。
「あらら♪でも、僕の能力を考えるとある程度のスタミナは必要不可欠なんだよねぇ。華の力は見た目よりも結構体力使うからさ。」
華弦はもう一切れのステーキを口に運ぶ。
彼の能力は見た目の華やかさとは裏腹に、かなり体力を消耗するらしい。そう考えると、肉ばかり食べるのも納得がいく。




