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月の婚約者〜私の運命の相手は誰?〜  作者: 紫桜みなと
5章

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第82話【予期せぬデートプラン】

「デパート?」


私の頭の中は、益々疑問符で埋め尽くされる。

まさかデートの場所がデパートとは思わなかった。しかも、壱月も先程知ったばかり?

助手席の一葉さんに顔を向けると、彼は私の戸惑いを感じ取ったのか、微かに口元を緩めた。


「フフッ…羽闇嬢、驚かれましたか?直前まで目的地をお伝えせず、申し訳ありませんでした。今日はデパートでショッピングを楽しもうと思いましてね。羽闇嬢の新しい一面が見られるかと思い、内密にこの様な計画を立ててみました。日頃の特訓で疲弊している君を、少しでも癒やしたいという私の心遣いですよ。それと…ついでにショッピングの後に近くの図書館にも寄らせて頂きたいのですが、構いませんか?少々気になる本があるのです。実は先日の国際文献学会で発表された最新の天文学に関する論文集が、その図書館に所蔵されていると耳にしまして。」


ショッピングと図書館。彼の趣味が読書だとは知っていたけれど、まさかデートに図書館を組み込んでくるとは思わなかった。しかも天文学に関する論文集が目的という点も、彼の知的な一面が更に強調される。その意外な組み合わせに私の中の緊張が一気に緩んでいくのを感じた。どうやら心配する必要がなかったかもしれないと私は安堵の息を漏らす。むしろ、読書好きで知的な一葉さんらしいデートプランだと思った。


「ショッピングに、図書館ですか…。何だか雰囲気が違うイメージがあって凄く楽しそうですね!勿論大丈夫ですよ!それに、その…天文学の論文集っていうのも少し興味があります…!」


私の声は安堵と期待で弾んでいた。そして、一葉さんの穏やかな笑みが私の心を更に軽くする。


「おや?それは意外だ、君はああいった難しいものは苦手な印象がありましたが。確か最近、テストで赤点をとったとかで萱から説教を受けたと―」


「なっ…!何で知ってるんですか!?っていうか、それとこれとは話が別でしょ!?…確かに難しいのは苦手ですけど、一葉さんが気になってるものは気になるものなんです!」


「クスッ…それはまた大胆な事を言ってくれますねぇ。」


私の焦りとは裏腹に、一葉さんの口元には先程よりも楽しげな色が浮かんでいる。バックミラー越しに、壱月が小さく口角を上げているのも見えた気がした。

車は間もなく、駅前の広々としたロータリーに到着した。午後の日差しはまだ強く、キラキラと輝く光がフロントガラスに反射して、街全体を明るく照らしている。休日ということもあり、駅周辺は想像以上に多くの人々でごった返している。家族連れが子供の手を引いて楽しげに歩き、友人同士が笑い合いながら最新のカフェの話をしているのが聞こえる。そして、手を繋いで寄り添って歩く恋人達の姿もあちこちに見られた。誰もが思い思いに休日を楽しんでいる様子で、その賑やかさに私自身のデートへの期待感が一層高まるのを感じた。何処からか聞こえてくる大道芸人の陽気な音楽や近くの屋台から漂う甘く香ばしい匂いが、月光邸では味わえない非日常感を演出していた。私の心臓は高鳴りを抑えきれずに、トクトクと速いリズムを刻んでいる。


「(わぁ…!お祭りみたいに賑やかで楽しそう!)」


壱月はまるでこの混雑を予測していたかの様に驚くほどスムーズに車を停車させると、再びバックミラー越しに私達に視線を送った。彼の表情はいつもの様に冷静で、乱れる気配は一切ない。どんな状況でも動じないその姿は、流石一流の執事だと感心させられる。


「お待たせ致しました…一葉様、羽闇様。駅に到着致しました。車をお停めしておりますので、いつでもお降り頂けます。」


壱月の落ち着いた声に、一葉さんは静かに頷いた。一葉さんの視線はちらりと自身の腕元の高級時計へと向けられる。彼の中では既に帰りの時間まで緻密に計算されているのだろう。その完璧主義な一面は、私には到底真似できない領域だ。一葉さんは時計から視線を外すと、壱月に顔を向けた。


「萱、ありがとう御座います。時間ぴったりとは流石ですね。迎えは十七時で構いません、場所は図書館を出る頃に改めて連絡しましょう。周辺の混雑を考慮し、最もスムーズに合流出来る地点を指示しますので少々待機していて下さい。我々の今日の予定は滞りなく進行する筈です、何か不測の事態があればすぐ連絡します。」


「承知致しました、一葉様。何か御座いましたら、遠慮なくご連絡下さい。いつでも駆けつけられるよう、万全の準備を整えておきます。どうぞ、このひと時を存分にお楽しみ下さいませ。」


壱月は運転席を降りると、車の後部座席のドアへと回り込み、静かに開けてくれた。まず一葉さんが先に降り立ち、軽やかな動作で私に手を差し伸べる。


「…さあ、羽闇嬢。お手をどうぞ…足元には気を付けて下さいね。段差がありますので、焦らずゆっくりと。」


彼の紳士的なエスコートに、私は自然と差し出された手を取った。ひんやりとした一葉さんの指先から、彼の物静かな雰囲気がそのまま手のひらに伝わってくる。その感触に、ほんの少しだけ胸が高鳴るのを感じた。彼の視線が、私と繋がれた手元に一瞬だけ落ち、すぐにまた私の顔へと戻る。その短い視線に、何か深い意味が込められている気がして、思わずドキリとした。


「ありがとう御座います…一葉さん。壱月も、運転ありがとう。」


車から完全に降り立つと、壱月は私達に向かって深々と頭を下げる。その完璧な動作には寸分の狂いもない。彼の白い手袋が、眩しい日差しの下で一段と際立って見えた。


「行ってらっしゃいませ、一葉様、羽闇様。くれぐれもお気を付けて。」


「うん…行ってきます。壱月も気を付けてね、無理はしないで。」


「はい。お気遣い痛み入ります、羽闇様。」


私は彼に笑顔でそう伝えると、一葉さんと共に駅前広場に面した大きなデパートの方向へとゆっくりと歩き出した。 背後で、壱月が私達の姿をじっと見つめているのが分かった。彼の表情が何処か寂しげに見えたのは、きっと私の気のせいではないだろう。壱月は私達の姿が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。

駅前の喧騒の中、私たちはゆっくりと足を進める。人波が押し寄せ、体がぶつかりそうになるが、一葉さんは常に私の隣で周囲の雑踏から私を守ってくれている様だった。彼の腕が、時折私の肩に触れる。そのさりげない気遣いが私をより安心させた。

一葉さんは周りの人混みを気にする事なく、落ち着いた様子で私の横を歩いている。彼の隣にいると、何故だか不思議と心が落ち着いた。

私達は言葉を交わす事もなく、只、並んで歩き続けた。

そして目の前には、私達が向かうデパートの巨大な入り口が少しずつ近づいてきていた。磨き上げられたガラスの扉が、午後の陽光を反射してキラキラと輝いている。その先にはどんな世界が広がっているのだろう。

期待に胸を膨らませながら、その輝く扉へと足を踏み入れた。

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