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月の婚約者〜私の運命の相手は誰?〜  作者: 紫桜みなと
4章

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第55話【傷痕と組織の影】

医務室には張り詰めていた緊張が解け、温かい安堵の空気が満ちていた。差し込む午後の日差しは穏やかで、消毒液の匂いの中に微かに甘い果物の香りが漂っている。

落ち着きを取り戻した鳳鞠君は、今は華弦のベッドの傍らに少しだけしょんぼりとした様子で立っている。夜空君は先程置いてくれたフルーツバスケットの横で穏やかに微笑み、碓氷さんは腕組みをしたまま真剣な眼差しで華弦の顔を見つめていた。ベッドの上に身を起こしているとはいえ、まだ身体中に痛々しい包帯が巻かれた華弦はそんな彼らの様子を優しげな瞳で見つめている。そして、部屋の隅には壱月が背筋を伸ばして無言で控えていた。


「藤鷹。身体の調子はどうだ?」


静かに見守っていた碓氷さんが口を開いた。彼の少し硬質ながらも誠実な響きを持つ声が医務室の静けさを破る。華弦はその問い掛けににこりと微笑んだ。いつもの飄々とした華弦らしい笑顔だったけれど、その瞳の奥には隠しきれない疲労の影が微かに宿っている。


「ん〜? 見ての通りだよ、みこ君。まだ力の副作用で身体が中々動かなくてねぇ…。傷口もすっごく痛いし。」


華弦はそう言って、包帯の巻かれた腕を少しだけ持ち上げてみせた。少しだけ大袈裟に状況を説明している様でもあり、同時に冗談めかして自分の不自由さを表現している様だった。


「でも、命に別状はないから安心してよ♪何とか無事…ってとこかな。」


「…そうか。」


彼の言葉に碓氷さんからほっとした息が漏れる。

鳳鞠君が鼻を啜り「良かったぁ…!」と呟くと、夜空君も「うん、そうだね。」と深く頷いた。

華弦はそんな彼らの様子を見回した後、ふと、部屋の中にいない人物に気づいた様子だった。首を傾げ、視線を巡らせる。


「あれ? そういえば、一葉君はいないみたいだけど。どうしたの?」


その華弦の問い掛けに答えたのは夜空君だった。彼の優しい声が、ゆったりと医務室に響く。


「あ、一葉さんはね。急ぎの用事があるらしくて、今は来られないみたいなんだ。でも、後で改めてお見舞いに来るってさっき言っていたよ。」


夜空君の言葉を聞いて、華弦は少しだけ残念そうな、でも納得した様な表情で呟く。その短い呟きに、一葉の事を気遣う気持ちが滲む。


「…そっか。ん、了解♪一葉君にも心配掛けちゃったみたいだね。」


穏やかな時間が流れる中、夜空君がふと私の方を振り返った。


「羽闇ちゃんも、昨夜は怖い思いをしたよね…。怪我はなかった?」


夜空君はそう言いながら、迷う事なく私の頭にそっと手を置いた。彼の指先が私の髪を優しく梳くように撫でる。その手は、只ひたすらに労わってくれている様な柔らかくて温かい手だった。

不意打ちだったその優しさに、私は思わず息を呑む。彼の穏やかな温かさがじんわりと胸に染み渡っていくのを感じた。


「あ…ありがとう、夜空君。私は大丈夫だよ、華弦が命懸けで守ってくれたから。」


私は少し照れながらも、伝えたい感謝の気持ちと華弦への信頼を込めて素直に言葉にした。

夜空君は私の返事を聞くと、心の底から安心した様にふわりと微笑んだ。しかし、私は華弦の傍らでこの場の空気をどうすればいいか少し迷っていた。

皆が私や華弦の無事を喜んでくれているのは嬉しいけれど、彼らはまだ昨夜の私達が経験した事のほんの一端しか知らない筈だ。華弦が敵に襲われ、毒を受けたらしいという断片的な情報だけが月光邸を駆け巡ったのだろう。壱月も部屋の隅で控えながら、私達の様子を静かに見守っている。

少しの沈黙の後、夜空君が皆の気持ちを代弁する様にぽつりと言葉にした。


「…ねぇ。藤鷹君、羽闇ちゃん。その件なんだけど…実は僕達、詳しい事まではまだ聞かされてないんだ。」


夜空君のその言葉に隣に立つ鳳鞠君と碓氷さんが小さく頷く。彼らの表情には、華弦と私の無事を喜ぶ気持ちと共に昨夜一体何が起こったのかと事件の真相を知りたいという真剣な気持ちがはっきりと伝わってくる。


「藤鷹、羽闇。もし差し支えなければ、何があったのか俺達にも詳しく聞かせて貰えないだろうか?」


碓氷さんの真摯な問い掛けに華弦が静かに頷いた。そして、私に視線を寄越す。私も頷き、華弦と共に昨夜の出来事を話し始める覚悟を決めた。


「…そうだね。今後、君達にも危険が及ぶ可能性がある。だからこそ、ちゃんと話しておいた方がいいかもしれない。」


華弦は少しだけ間を置いてから、一つ一つ確かめるように言葉を選びながら話し始めた。


「実は昨夜…羽闇ちゃんとのディナーデートが終わった後、萱君からの迎えの車を待っていた時に…敵に襲撃されたんだ。」


華弦が最初に襲撃された状況を告げた。その言葉を聞いた瞬間、三人の体がピクリと固まったのが分かった。夜空君の穏やかな表情が一瞬にして消え失せ、鳳鞠君は目を見開き、碓氷さんは顎を引いて警戒の色を濃くした。

部屋の隅で控えていた壱月も僅かに視線を動かし、話し始めた私達の方にその全ての意識を向けているのが感じられた。


「そうなの…本当に、突然の事で…。壱月を待っていたら、急に襲い掛かってきて…。」


私は、昨夜の光景が脳裏に蘇り、思わず声が震えるのを感じながら華弦の言葉に付け加えた。身体の内側から、あの時の恐怖が再び這い上がってくる様だった。


「今回の敵は、夜啼艶っていう名の女性だ。案の定、羽闇ちゃんを狙ってきた。…それだけじゃない、初めから僕を殺す事も目的としていたみたいなんだ。」


華弦は、敵の名前とその目的をはっきりと告げた。その言葉に医務室に再び緊張が走る。夜空君と碓氷さんの表情が一気に硬くなり、鳳鞠君は驚きと明確な敵意を瞳に宿らせる。彼らの反応を壱月は無言で見つめていた。


「夜啼艶…!?」


「最初から藤鷹を殺そうと…!?」


鳳鞠君と碓氷さんの声が、怒りと驚きを込めて重なった。彼らの間に生まれた明確な怒りと警戒心が、肌でビリビリと伝わってくる。


「その子は…凄く強かったよ。特に、毒を使った攻撃が恐ろしかったんだ。」


華弦は敵の能力について言及した。毒という言葉に、皆の顔に動揺が走る。


「毒使い…。それで藤鷹君が…!」


夜空君が、息を呑むように呟いた。


「うん…。その毒は身体の自由を奪う、強力なもので…それを華弦に…。」


「それと、もう一つ分かった事がある。よぞらん。」


華弦はそう言って、夜空君に視線を向けた。

彼の瞳は、夜空君が過去に経験した出来事と今回の事件の繋がりを確認する様に促している。


「前に、君と戦った相手…宵闇麗夢って女の子は赤錆色の刃の大鎌を武器にしていたんだったよね?…実は、艶ちゃんも大鎌を武器としていてね。若紫色の刃で…不気味な光を放っていたよ。多分、あの武器は宵闇麗夢や艶ちゃんが所属している()()()()()みたいなものじゃないかな…。それに『麗夢は仲間』って彼女自身が言っていたしね。」


華弦は、戦闘中に艶自身が語った決定的な事実を隠すことなく伝えた。その言葉に、夜空君の表情が更に引き締まる。

鳳鞠君や碓氷さんの間にも、明確な敵組織の存在を認識した事による新たな緊張感が走っていた。

第55話お読み頂きありがとう御座います!

今回は華弦と羽闇が、何も知らされていなかった婚約者候補達に昨夜の襲撃事件明かす重要な回となりました。

毒使いの敵・夜啼艶、そして彼女が口にした『組織』の存在。物語は更に深く動いていきます!

次回もお楽しみに!

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