第46話【美刃繚乱、無心の凶鎌】
「…誰!?」
恐る恐る問い掛けると、女性は微かに口角を上げた。その表情は冷静で大人びた雰囲気を漂わせている。
「初めまして、月光羽闇。私の名は夜啼 艶。…これより貴方を捕らえ、藤鷹華弦を排除する。」
「なっ…!?」
私を捕らえて、華弦を殺す?
華弦は艶の言葉に鋭く反応し、私を背に庇う様に艶に立ちはだかる。
「その大鎌…以前、羽闇ちゃんを襲撃した女の子と同じ種類の鎌だね?君もその子の仲間なのかな?」
水族館に訪れたあの日、私を捕らえる事を目的に突然現れた宵闇麗夢。彼女が持っていた赤錆色をした異様な大鎌の記憶が鮮明に蘇る。
「ええ…麗夢は仲間よ、表向きは。」
「表向き、ねぇ…。随分と意味深な言い方をするじゃないか…夜啼艶ちゃん、だっけ?…つまり、君達は仲が悪いってわけ?それとも何か深い事情があるとか?」
すると、艶は大鎌を静かに構え直した。
「貴方に話す義理はない。私の目的は、先程申し上げた通り。月光羽闇の捕獲、そして…藤鷹華弦の排除。それが私に与えられた絶対的な命令。」
「ふーん…君達の組織には随分と物騒なルールがあるんだねぇ。こんな組織を束ねるボスってのは、さぞかし恐ろしい人物なんだろうね。」
「話す義理はないと言った筈だ。」
「残念だけど、それは天地がひっくり返ってもありえない筋書きだよ?僕にとって羽闇ちゃんは月に咲く一輪の幻の花…その美しさは僕だけの秘密なんだもん。そんな特別な花を君みたいなよく分からない奴に、はいどうぞって渡せるわけないじゃん?ましてや、彼女の婚約者に相応しいとされるこの僕を消しちゃうなんて…そんなの月夜の夢でも見ないよ?」
彼の平静の仮面が剥がれ落ち、本当の強さが目に見える圧力となって周囲を包み込む。
その圧力に顔色を変える事なく、艶も静かな殺気が放っている。
「抵抗したところで意味はない。何故なら、私には容赦という概念が存在しないから。」
次の瞬間、艶が再び信じられない速さで動き出した。大鎌が空気を切り裂き、光を反射させながら獣の様に華弦へと襲い掛かってくる。
華弦は身を翻し、体勢を低くさせ、時には跳躍しながら迫り来る刃を辛うじて避けている。それでも時折、彼の髪や服を掠める音が聞こえ、私の心臓が跳ね上がった。
「(そうだ、月のペンダント…!)」
先程の衝撃で飛ばされてしまったクラッチバッグの方に目を向けるが、それは少し離れた場所に落ちており、今の状況で取りに行くのは余りにも危険だ。
「(アレがないと何も出来ない…どうしよう、このままじゃ華弦が!そんなの嫌…!)」
今も必死に攻撃を避けているけれど、華弦の動きは徐々に緊迫になっていく。掠る音も遥かに増えている。
月の力を宿していても、ペンダントを持っていない私は只の傍観者。迂闊に動けば、たちまちあの恐ろしい鎌が私を襲うかもしれない。身動きが取れないまま時間だけが過ぎていく。
無力な自分がもどかしい…考えたら駄目、とにかくペンダントを拾わなきゃ!
膠着状態の中、華弦の動きが一瞬、ほんの僅かに止まった。そして、ゆっくりと何かを覚悟したかの様に懐へと手を伸ばす。
現れたのは、小さな桜色の石。
石は花をそのまま閉じ込めたみたいに繊細で、触れればすぐに壊れてしまいそうな儚い形をしている。
「正直、コレはあまり使いたくなかったんだけど仕方ないか…。」
次の瞬間、石が内側から輝き始めた。最初は微かだったものが、脈打つ様に光を増していく。
ピンクの光は温かく、眩しく、華弦の手のひらを優しく包み込む。
その光が完全に収まった時、そこに現れたのは先程までの可愛らしい花型の石とは全く異なる存在感を放った一振りの細身の剣だった。
その剣身は丁寧に磨き上げられた最高級のクリスタルの様に透明で、内部には先程の石と同じ桜色の光が湛えられている。
驚くべき事に剣の周囲にはピンクや真紅、白の花弁が優雅に舞い始めていた。同時に何処からともなく甘く、優しい香りが夜の冷たい空気に溶け出す。
「綺麗…あれが華弦の武器…?」
華弦は生まれたばかりの美しい剣を長年連れ添った自分の体の一部であるかの様にごく自然に、淀みなく構えた。
「それが貴様の、藤鷹家の家宝というやつか。」
「さて…艶ちゃん。君に容赦がないのなら、僕だってもう遠慮はしないよ?…美しい花の香りは人を惹きつけ、逃れられなくする。この剣が纏う甘美な空気に酔いしれるといいよ。」
第46話お読み頂きありがとうございます!
今回は華弦の力が明らかになった回となりましたが、如何でしたでしょうか!?細剣の美しさや香り、そして秘められた彼の覚悟を感じ取って頂けたら嬉しいです。
次回は二人の激しい戦いが始まる予感…!?華弦は艶にどう立ち向かっていくのか!?是非ご期待下さい!




