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月の婚約者〜私の運命の相手は誰?〜  作者: 紫桜みなと
4章

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第45話【香る庭の惨劇】

「おっと、もうこんな時間か…。そろそろお開きとしようか、羽闇ちゃん。」


華弦は満足そうに微笑むと、優雅な仕草でウェイターに合図を送った。


「え、もうそんな時間…?」


もう少しだけこの空間を堪能していたかったんだけどな…。

楽しい時間はあっという間だ。


「うん。萱君に迎えを頼んであるし、戻るとしようか。」


「そうね、分かったわ。」


ウェイターが運んできた伝票を受け取ると、華弦はスマートに会計を済ませた。


「さて、行こうか♪お姫様。」


差し伸べられた手に導かれ、私も席を立つ。

フルール・ド・リュンヌの店内は最後まで上品で落ち着いた雰囲気を湛えていた。特別な夜を演出してくれたこの場所に心の中でそっと感謝の言葉を贈る。


「(…ありがとう、素敵な夜だったよ。)」


店の扉が開くと、夜の涼しい空気が優しく頬を撫でる。

空は深い紺碧に染まり、星々が瞬き始めていた。


「華弦、こんな素敵な場所に連れてきてくれてありがとう。ドレスを着て、キラキラした夜景を眺めながら美味しい料理を食べて…本物のお姫様になったみたいだったわ!」


「本物も何も、正真正銘のお姫様じゃないか。僕の方こそ、君とこんな素晴らしい夜を過ごせて心から感謝しているよ♪実はさ…このレストランには庭園も併設されていてね。せっかくだし萱君の車が来るまでの間、そこで休んでいかない?夜の庭園も中々趣があるんだよ♪」


「へぇー!夜の庭園って想像しただけでわくわくするね!是非連れて行って欲しいな。」


「勿論さ、案内するよ。」


華弦に手を引かれたまま、レストランの脇に設けられた装飾的な門をくぐる。


「到着ー♪」


「わぁ…綺麗ー!」


裏手に広がる庭園は店内とはまた違う、格別な輝きに満ちた世界が広がっていた。

夜の闇に木々や草花のシルエットが浮かび上がり、点在するガーデンライトが幻想的な光を落としている。

細部まで常に手入れが行き届いているのがよく分かる、流石高級レストラン…!


「でしょ?此処は僕もたまに来るんだ♪一人で考え事をしたい時とかね。」


彼はそう言うと、庭園の中央にぽつんと置かれた白いベンチを指さした。


「そろそろ萱君が迎えに来る頃だし、あそこに座って話そうか。」


「うん!」


やがて、二人でそのベンチに腰を下ろした。

夜の帳の中、白い花を咲かせる植物達が私達を囲み、静かに甘い香りを漂わせている。


「ねぇ、華弦。」


「んー?」


隣に座る彼の横顔を見つめながら、私はそっと話し掛けた。


「今日は色々話せて本当に楽しかったよ。それに、華弦とお出掛けする機会ってなかったから凄く嬉しかったんだ。」


「僕もだよ、羽闇ちゃん。お出掛けじゃなくてデートだけどね♪」


華弦はそっと私に手を重ねてきた。彼の温度が私の手のひらにじんわりと伝わってくる。


「…君とこうして二人でいると、時間の流れが本当にゆっくりに感じるよ。そして…もっと色々な君を見てみたい。」


彼の声はいつもより少しだけ低く、甘く響いた。


「私も…華弦の事をもっと知りたい。」


その答えに華弦はふっと微笑むと、私の手を強く握りしめた。そして少し身を乗り出し、私を深く見つめてくる。


「羽闇ちゃん…」


甘い囁きに私の心臓がドキリと跳ねた。

ゆっくりと近づく彼の顔。夜の闇の中でもその瞳の奥にある熱い想いが痛い程伝わってくる。


「(駄目。私の好きな人は星宮君…)」


頭では理解しているのに…。

彼の瞳の奥に宿る熱情と雰囲気にまんまと呑み込まれた私はそっと瞼を閉じた。

お互いの唇が触れようとした時――。


「っ…!」


静寂を切り裂く様に背後の茂った植え込みの中から鋭く冷たい殺気が放たれた。


「な、何…!?この感じ…!」


甘美な予感は一瞬にして凍りつき、肌を刺す強烈な悪寒が全身を駆け巡った。嫌な予感が胸を締め付ける。

すると、ガーデンライトの光を背にした黒い影が信じられない速さで私達に向かってきた。


「っ…!危ない!」


「きゃあっ!」


間一髪で危険を察知した華弦は、私を強く抱き寄せてそのまま横に倒れ込んだ。

次の瞬間、私達の頭上をガーデンライトの光を妖しく反射する巨大な鎌が、恐ろしい軌跡を描いて空気を切り裂いていくのが見えた。


ドゴォォン!!

バキバキィィ!!


大鎌の刃はベンチの背もたれを深々と抉り、木材が砕ける嫌な音を立てた。


「ぐっ…羽闇ちゃん、大丈夫かい!?」


彼はすぐに私の上体を起こし、顔色を窺う。

もし、華弦が庇ってくれなければ今頃どうなっていただろうか。


「わ、私は大丈夫…!それより、これって…!?」


辺りを見回したが、敵の姿ははっきりと捉えられない。


「さぁね…この殺気は只の通り魔じゃない。警戒するんだ!」


華弦は私を背に庇いながら警戒を促した。彼の全身からは張り詰めた緊張感が伝わってくる。再び、闇の中から鋭い風切り音が迫ってきた。今度は先程よりも速い。


「羽闇ちゃんっ!」


華弦は叫びと同時に私を後ろへと突き飛ばす。その直後、大鎌の刃が真横の地面を叩きつけた。


バキバキィ!!

メキメキメギィッ…!!


石畳が砕け散り、鋭い破片が頬を掠めた。

敵の姿は未だに見えない。にも関わらず正確に私達の位置を把握し、休む間もなく攻撃を仕掛けてくる。


「くそっ、速すぎる!」


「華弦…一体何が…!?」


「分からない…だけど、明らかに僕達を狙っている事だけは確かだね。」


このままでは、いつまでも見えない敵の攻撃に晒される事になる。


「くそっ!萱君はまだ来ないのか…!」


すると急に攻撃が止み、背後の茂みの中から落ち着いた低い女性の声が響いた。


「…こんばんは。」


声がした方へ目を凝らすと、そこにいたのは深い鉄紺色のライダースーツに身を包んだ背の高いすらっとした女性。

ゆっくりとした足取りで近づく彼女の手には、私達を襲っていた若紫色の刃の大鎌が握られていた。

第45話お読み頂きありがとうございます!

華弦との素敵な夜が一転し、まさかの急展開となりましたね。あの庭園でこれから一体何が始まるのか…!?そして羽闇達はこのピンチをどう切り抜けるのか!?

次回もお楽しみに!

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