第107話【炎の大剣】
表門が見える場所まで辿り着き、物陰に身を潜めた私達はこっそりと門の方を覗き見る。
やはり三人の敵は結界に攻撃を続けていた。
「あの様子だと、まだ俺達に気付いてないみたいだな。よーし…」
鳳鞠君は短く息を吐くと、炎の石を空中に投げた。石は瞬く間に眩い光を放ち、その形を変化させていく。
ゴウッ…
低い音が響き、熱波が僅かに頬を撫でる。
そこに姿を現したのは鳳鞠君の身長よりも遥かに大きい真っ赤な大剣。
「でかっ!」
あまりの大きさに驚いてしまい、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
こんな大剣を、本当に鳳鞠君が一人で扱えるの?彼の華奢に見える身体からは想像も出来ない程の質量に思えるのだけど。
「え、えっ?ちょ…待って。鳳鞠君、それ一人で持てるの?重くない?大丈夫なの?」
明るく笑いながら鳳鞠君は大剣をひょいと構えてみせた。
「ハハッ!大丈夫大丈夫!見掛けによらず、結構軽いんだよ!…吃驚した?」
「当たり前じゃない!こんな大きな剣、漫画の中でしか見た事ないもん。」
「カッコいいだろー?コレ気に入ってるんだ!……じゃあ作戦通り、俺が最初に片付けてくるから羽闇は此処で一旦待機な。もし何かあったら、すぐに俺に大声で知らせて。」
「気を付けてね、鳳鞠君。」
私の頭を軽く撫でると、鳳鞠君は音もなく物陰から抜け出した。気配を消して静かにゆっくりと近づいていく。
敵は依然として結界に集中しており、全く彼の接近に気付いていない。
「(お願い…!このまま気付かれませんように…!)」
そう祈りながら私は固唾を飲んで見守った。
間合いに入ったのを確認した鳳鞠君は、躊躇なくその巨大な大剣を振りかざす。
「くらえーーっ!」
「っ!?」
ズシャァァッ!!
「「「ぐああぁっ!!」」」
敵が後ろを振り返る前に、大剣の刃が一気に彼等の背中を斬り裂いた。
しかも攻撃に衝撃で、身体を結界にぶつけてしまう。
ジジジジジィィィッ!
「ギャアアアアッ!」
「ぐあぁぁっ!!痛ぇっ!熱いぃぃっ!」
「きっ、貴様ぁぁ…!ゔっ、ぐうぅっ!」
痛々しい音や声が響き渡る。結界の防御エネルギーとぶつかる事で、更に追い打ちを掛けるようなダメージを受けているのが見て取れた。
敵はもはや抵抗すら出来ず、次々と地面へと倒れていった。
「やった…!鳳鞠君、凄いよ……!」
「ふーっ……作戦大成功だなっ!おーい、もう出てきていいよ!羽闇。」
物陰から飛び出し、鳳鞠君のそばへと駆け寄ると、倒れた敵達の身体から異様な焦げ臭い匂いが鼻を突く。結界に触れたダメージで大火傷を負っており、更に斬り裂かれた背中の傷口からは僅かに煙が立ち上っていた。
「うっわぁ……本当に痛そう…」
「…あんまり見ない方がいいよ、慣れない人が見たらトラウマになっちゃうから。」
「う、うん…。だけどこの人達、鳳鞠君に受けた傷から煙が上がってるみたいだけど…?」
「当然だよ!だって俺の大剣の刃は常に《《熱》》を持っているからな!」
「熱?」
「この『炎の大剣』は斬るだけじゃなくて、焼き焦がす役割も果たしてるんだ!コレに斬られた部分は、完治しない限り焼けるような痛みが続く。しかもコイツ等の場合、結界の攻撃も同時に食らったから半端ない痛みに耐えきれず失神したんだろうね…。ざまあみろって感じ?」
大剣の刃に目をやると、刃はジュワジュワと音を立てており、切り裂いた際に付着した血を吸い取っている。
その音を聞いているだけで焼かれている気分になって、つい身震いしてしまいそう…。
「けど、奴等も光剣を扱ってたから逆にこっちが焼かれそうで正直焦ったよ…!アレも結構厄介なんだよな〜。ま、今回は俺の方が早かったから問題なしっ!」
鳳鞠君はへへっと無邪気に笑いながら、Vサインを向けた。
「ねぇ…もう一つ聞いてもいい?ここまで大きな大剣で刃も熱いのに、鳳鞠君は怪我したりしないの?」
「俺はこの大剣の持ち主だからな、特に何ともないよ!刃に触れても熱も感じないし火傷もしないんだ。」
「持ち主だけって…そんな事あり得るの?まるで石が持ち主を選んでるみたい。」
「《《能力の石だって生きている》》からな!これは炎の石に認められた証でもあるんだよ。俺以外が触ったら大火傷してしまうから、羽闇も絶対に触っちゃ駄目だよっ!?」
鳳鞠君はそう言いながらさっと大剣を私から避けさせた。
「フフ…はーい。それにしても鳳鞠君がこんなに頼もしいなんて、何だか感動しちゃった!」
「えー…俺、頼りないと思われてたの?そりゃあ他の候補達と比べたら俺なんてまだまだだろうけどさ。…それに、今回は舞久蕗ん家の結界にもかなり助けられたしな。」
鳳鞠君は倒れている敵達を見下ろし、満足そうに呟いた。
彼の戦術眼と結界に助けられた幸運が、この結果に繋がった。
「コイツ等も無事倒せた事だし…いざっ!本命の舞久蕗のところに出発だ!」
「この人達、放置しておいていいの?直に目を覚ますかもしれないし、せめて拘束しておいた方が…」
「必要ないない!あれだけダメージを受けたんだから、目を覚ましたところで身体を動かせるわけないよ。ほら、早くいくよ!」
戦闘の音が随分と間近に迫ってきている。いよいよ一葉さんと合流出来るという期待と彼が今どんな状況なのかという不安で、心臓がバクバクと煩い。
「うん…!いこう、一葉さんの元に。」




